計画書は分厚い。基本構想があり、将来像があり、横文字の施策名が並んでいる。それでも供用から三年たつと、何のための事業だったのか誰も即答できなくなる整備がある。地方創生の失敗談で「ビジョンなき開発」という言い方が使われるとき、多くの人が思い浮かべるのは理念の欠落だろう。ところが国の検証結果を読むと、欠けているのは理念よりもずっと手前の作業である。
分厚い計画書があっても、空振りする事業は空振りする
内閣府は、デジタル田園都市国家構想交付金(旧地方創生拠点整備交付金)を使った事業の実施状況を毎年集計している。令和7年3月に公表された報告書によると、令和5年度に同交付金が活用された事業は994件で、前年度より107件増えた。平成28年度の制度開始から8年が経ち、地域課題の解決につながった成功例も複数みられるようになったと整理されている。
そのうえで目を引くのが達成状況だ。目標値に達したKPIの割合は全体で39パーセント。前年度の36パーセントからわずかに増えたものの、設定された指標の6割強は目標に届いていない。KPI目標を一つ以上達成した事業の割合は59パーセントで、裏返せば4割の事業は一つも達成できていない。計画が存在しないわけではない。計画と結果のあいだが開いているのである。
どの作業が抜け落ちるかは、すでに統計に出ている
国は交付金事業のガイドラインで、PDCAの段階ごとに「取り組むべきこと」を21項目に整理している。先の報告書はこの21項目それぞれについて、実施したかどうかを事業ごとに尋ねた。実施率が高いのは、こまめな進捗と質の管理が95パーセント、地域資源の活用が94パーセント、適切なKPI設定が93パーセント、主体間コミュニケーションが91パーセントといった項目である。
抜けるのは別の場所だ。実施率が低い順に並べると、顔ぶれがはっきりする。
| 取り組むべきこと | PDCAの段階 | 実施率 |
|---|---|---|
| 地域間連携 | 事業アイデア・事業手法の検討(Plan) | 49% |
| 経営視点からの検証 | 事業の具体化(Plan) | 58% |
| 詳細な工程計画 | 事業の具体化(Plan) | 65% |
| 政策間連携 | 事業アイデア・事業手法の検討(Plan) | 72% |
| 安定した人材の確保 | 事業の実施・継続(Do) | 73% |
| こまめな進捗と質の管理(最も高い項目) | 事業の実施・継続(Do) | 95% |
低いほうに集まっているのは、計画段階の詰めと、事業を続ける体力の確保だ。誰と組むのか、採算はどう立つのか、いつ何を終えるのか、誰が担い続けるのか。この四つを決めないままでも着工できてしまう。理念を書き忘れたのではなく、理念を具体化する欄が空白のまま審査を通ってしまう構造がある。
手応えと達成率が、これだけ離れている
同じ報告書は、事業の効果をどう受けとめているかも集計している。交付金を活用した事業のうち92パーセントで、地方公共団体等が地方創生に効果があったと認識していた。「非常に効果的であった」という回答は28パーセントで、前年度の24パーセントから増えている。将来の自立化についても、現時点で83パーセントの事業が見込みありと答えた。
効果があったという認識が92パーセント、目標に達したKPIが39パーセント。この開きは、どちらかが嘘をついているという話ではない。手応えは現場にあり、指標には出ない。ただ、自己評価だけが記録として残ると、次の事業も同じ組み立てで企画書が上がってくる。10年の成果をどう見るかという論点は地方創生の現状と課題でも整理されているが、評価の甘さはそこでも繰り返し問われてきた。
指標の選び方に、ビジョンの有無が先に出る
報告書の第5章には、過年度の事業実施報告を使った長期トレンド分析が載っている。事業が設定するKPIの分類を追うと、以前は設定された指標の50パーセント以上が「総合的なアウトカム」だったのに対し、近年は「アウトプット」と「交付金事業のアウトカム」の割合が高まっているという。
これは前進でもあり、後退でもある。来場者数や整備件数のような測りやすい指標に寄せれば、達成の判定はしやすくなる。分類別の達成率を見ると、アウトプットは52パーセント、交付金事業のアウトカムは38パーセントで、やはり差がある。一方で、測りやすいものだけを並べて達成率を整えることは、地域がどう変わるのかという問いを後回しにすることと紙一重だ。何のための整備かが決まっていない事業は、決まっていないがゆえに、測れるものだけを測る指標へ落ち着いていく。
結果を左右する作業は、もう名指しされている
では何をすれば変わるのか。報告書は21項目それぞれについて、実施した事業と実施しなかった事業でKPI目標の達成に違いが出るかを分析した。結果は21項目中19項目で、実施した事業のほうが達成割合が高かった。とりわけ差が大きかったのは、課題・ニーズの把握、定量的・客観的な分析、地域資源の活用、自走を意識した計画、適切なKPI設定、KPI目標未達成の要因分析の6つである。
実施した項目数別に見ても傾向は同じで、実施数が多いほど達成割合が高い。21項目のうち17項目以上を実施した事業は512件あり、全体の61パーセントがこの水準に達している。前年度の58パーセントからは改善した。つまり処方は目新しいものではなく、着工前にニーズを数字で確かめ、採算の道筋を書き、達成できなかったときの検証手順まで決めておく、という地味な作業の束だ。地域で何かを立ち上げようとする個人にとっても順番は同じで、FLASPOのように地域と人をつなぐ場を使うにしても、まず誰のどの困りごとに応えるのかを先に言語化したほうが早い。型の違いは地方創生の成功事例の分類も参考になる。
よくある質問
ビジョンがあるかどうかは、どこを見れば分かりますか
計画書の冒頭ではなく、KPIの欄を見るのが早い。指標が来場者数や整備件数だけで構成されていれば、地域の状態をどう変えたいのかが決まっていない可能性が高い。もう一つの目印は、資金調達の方法や事業採算性を明確にしたかという項目で、ここは全国でも58パーセントしか実施されていない。
KPIが未達成だった事業は、失敗と呼ぶべきですか
内閣府は、交付金事業の効果が発現するまでに数年単位の期間を要する場合もあるとして、結果は慎重に解釈し、長期間を対象とした調査を続ける必要があると述べている。1年で届かなかったことと、仕組みが間に合っていないことは別である。問題になるのは、未達成の要因を分析しないまま次の年度に進むときだ。
小さな自治体でも21項目をすべてやるべきでしょうか
全国で実施率がもっとも低いのは地域間連携の49パーセントで、単独事業が大半を占めるためと説明されている。人口規模が小さいほど単独で抱えがちだが、スケールメリットや人材・ノウハウの融通を考えると、むしろ近隣と組む余地は小さい自治体のほうが大きい。全項目の完遂より、差が大きいと名指しされた6項目から手をつけるほうが現実的だ。
このデータはどこで確認できますか
内閣府地方創生推進事務局の効果検証に関する調査報告書に、事業数、実施率、達成率のすべてが図表付きで収録されている。自治体名や事業名の一覧ではなく全体傾向の資料なので、自分の地域の事業と見比べる使い方に向く。
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