月1万円という予算の天井
服を買おうとして値札を見て戻す、という場面は珍しくない。この感覚は家計の数字にもあらわれている。総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果の概要」によると、2025年の二人以上の世帯(平均世帯人員2.87人)が1か月に使った被服及び履物は10,063円だった。
同じ年の消費支出は1か月あたり314,001円なので、服と靴に向かうのは全体の3%強にとどまる。前年より名目では0.8%増えたが、物価の上がり方を差し引いた実質では1.8%減っている。10大費目のうち実質で減った4つのなかに、被服及び履物が入った。
同じ資料の勤労者世帯の内訳でも、被服及び履物が消費支出に占める割合は3.5%である。食料が約28%、交通・通信が9.8%という並びのなかで、服はもともと小さな費目だった。家計のなかで優先順位が高い支出ではないという前提から出発したほうが、実際の行動を説明しやすい。
つまり「服に使う金額」はもう伸びていない。それでも手元の枚数が減らないのはなぜか、という問いが残る。答えは価格と流通のほうにある。
買うのは年19枚、着ないまま持っているのは24枚
クローゼットを開けて数えると、思っていたより持っている。環境省「サステナブルファッション」は、消費者アンケートからの推計として、1人が1年間に買う服を約19枚、手放す服を約11枚としている。差の8枚は毎年たまっていく計算になる。
さらに同じ推計では、1年間に一度も着られなかった服が1人あたり約24枚ある。家庭にある服のうち実際に使われているのは55%で、残る45%はしまい込まれたままだという数字も示されている。
この45%は、捨てられてはいないが使われてもいない状態を指す。収納の奥にある服は家計簿にも環境の統計にも出てこないため、問題として見えにくい。買った枚数と着た枚数を別に数えてみると、自分の消費の形がつかみやすくなる。
19枚という購入枚数は、月に1〜2枚のペースにあたる。買う行為そのものは軽いのに、着る行為は選抜になっていく。この非対称が、使われない24枚を毎年つくっている。詳しくはファッションとは何かの整理も参考になる。
手放した服の行き先は、半分以上がごみ
着なくなった服をどうしているか、思い出せる人は少ない。2025年版 衣類のマテリアルフローは、家庭から手放された服の流れを次のように推計している。
| 手放し方 | 割合 | その後 |
|---|---|---|
| 可燃・不燃ごみとして廃棄 | 55% | 焼却・埋立 |
| 行政回収・資源回収 | 19% | 再生利用や輸出に回る |
| 古着として販売 | 18% | 次の持ち主へ |
| 店頭等での回収 | 5% | 事業者の回収ルート |
| 譲渡・寄付 | 3% | 知人や団体へ |
最も多いのは可燃・不燃ごみで55%。古着販売と譲渡・寄付、店頭回収を合わせても26%にとどまる。リユースとリサイクルを足した比率は42%、焼却等での処分が58%という内訳も示されている。
割合の読み方には注意がいる。2024年版の資料では供給量のうち約7割が手放されたと整理されていたが、2025年版では約6割という表現に変わっている。母数の取り方が改められたためで、年版をまたいで比べると傾向を読み違える。引用するときは必ず版を明記したい。
量に直すと、家庭から手放されて国内で焼却等により処理される衣類は年46.1万トン。1日あたり1,300トン、大型トラックで約130台分にあたる。国は2030年度までに家庭からの廃棄を2020年度比で25%減らす目標を置いているが、現状からはさらに7.5万トンの削減が必要だと同じ資料は記している。環境の側から服を見る視点は環境問題と若者でも扱っている。
1枚3,211円まで下がった30年
親の世代が「服は高かった」と言うのは、記憶の美化ではない。環境省の同じページには、衣類1枚あたりの価格が1990年に6,192円、2024年に3,211円という推移が載っている。34年でほぼ半分になった。
一方で国内に供給される衣類の量は増えた。1990年比で約1.8倍にあたる量が市場に出ている。購入量そのものは横ばいなので、売れ残る前提で多めに作る構造ができあがっている。2025年版の推計では、国内新規供給量82.1万トンに対し、事業所と家庭から手放されて焼却等で処理される量が49.9万トンにのぼる。
1枚の裏側で動く資源も小さくない。環境省が示す試算では、服1着をつくる過程で二酸化炭素が約25.5キログラム、水が約2,300リットル使われる。値札が下がっても、生産にかかる負荷がその分減るわけではない。
価格が半分になれば、同じ予算で倍の枚数が買える。月1万円という天井は変わらないまま、枚数だけが増える。若い世代が直面しているのは、選択肢が多すぎる市場のほうだ。予算の立て方そのものを見直すなら大学生のお金管理と節約が手がかりになる。
売る前提で買う人が増えている
フリマアプリの画面を開いてから店に行く、という順番で買い物をする人がいる。売値がつくかどうかを先に確かめる買い方だ。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によれば、2024年の個人間電子商取引(CtoC-EC)の市場規模は2兆5,269億円で、前年より1.82%増えた。
同じ調査では、衣類・服装雑貨等の企業から消費者向け電子商取引が2兆7,980億円、EC化率は23.38%となっている。新品のネット販売と個人間の売買が、ほぼ同じ規模で並んでいることになる。
ほかの品目と比べると、服のオンライン化は進んだほうに入る。化粧品・医薬品のEC化率が8.82%、食品・飲料・酒類が4.52%であるのに対し、衣類・服装雑貨等は23.38%に達している。試着できない不便さを、返品のしやすさと品数の多さが上回った結果といえる。
手放す手段が増えたこと自体は、ごみに向かう55%を減らす方向に働く。ただし売りやすさは買いやすさでもある。回転が速くなるだけで総量が減らなければ、供給側の作りすぎは変わらない。地域やまちづくりに関わる発信をしているFLASPOの現場でも、若い世代の関心が「買う」から「循環させる」へ移っていることが見える。
よくある質問
服にかける金額は、ほかの世代と比べて少ないのか。家計調査は世帯単位の集計なので、年齢別に単純比較できる形では出ていない。わかるのは世帯平均で月10,063円という水準と、実質では前年から減っているという方向だけである。
手放すときに最もよい方法はどれか。表のうち比率が低い順に伸びしろがあると考えると、譲渡や店頭回収が候補になる。古着として売れるものは売り、傷みのあるものは行政や店舗の回収に出すという使い分けが現実的だ。
枚数を減らすと選ぶ楽しみが減るのではないか。着られていない24枚は、買った時点では選ばれた服である。選ぶ回数ではなく着る回数で数えると、手元の枚数と満足度は必ずしも比例しない。
中古で買うのは環境のためになるのか。1枚を長く着る人が増えれば新規の供給は減るはずだが、現状の統計では供給量そのものは減っていない。回転を速める使い方と、1枚を使い切る使い方は別のものだと分けて考えたい。
制服や指定品が多い学生のうちは関係が薄いのではないか。学校の外で着る服の枚数は学年が上がるほど増え、手放すタイミングも卒業前後に集中する。進学や就職で生活が変わる時期は、持ち物を見直す機会として向いている。
数字はどこで確かめられるか。枚数と価格は環境省のサステナブルファッションのページ、流れの内訳は同省のマテリアルフロー資料、支出は総務省統計局の家計調査報告にあたる。いずれも原文が公開されているので、引用する前に年次を確認しておきたい。
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