応援は私的な趣味のままで終わるのか
会場の出口に募金箱が置かれていて、帰り際に小銭を入れる列ができる。配信の画面には投げ銭の通知が流れ、聖地と呼ばれる町の商店には同じキャラクターのポスターが並ぶ。どれも個人の好みから始まった行為なのに、結果として誰かの収入や町の人出に変わっている。
この変わり方を社会的価値と呼ぶことがある。ただ、言葉が大きいぶん話が曖昧になりやすい。経済効果という一語にまとめてしまうと、何が誰に届いたのかが見えなくなる。順番を逆にして、人がどの回路で社会と関わっていると考えているかを先に確かめたほうが、応援の位置が分かる。
手がかりになる調査が二つある。一つは内閣府の社会意識に関する世論調査で、2025年10月23日から11月30日に全国18歳以上の3,000人を対象として郵送法で行われ、1,604人から回答が返っている。回収率は53.5%である。
もう一つは文化庁の文化に関する世論調査である。2024年1月29日から2月5日にかけて、全国18歳以上の2万4,996人にインターネットで尋ねている。文化芸術を見る側と支える側の両方を聞いているため、応援の話に近い。
どちらも推し活という語を使っていない。使えるのは、応援という行為が重なる部分を取り出す読み方だけである。以下はその範囲で進める。
役立ちたい人は62.2%、入口は職業が最多だった
社会との関わりについて、内閣府は日頃社会のために役立ちたいと思っているかを尋ねている。思っていると答えた人は62.2%、あまり考えていないは36.7%だった。6割を超える人が、何らかの形で役に立ちたいという前提を持っている。
そう答えた997人に、どのようなことで役立ちたいかを複数回答で聞いた結果が、回路の分布を示している。最も多いのは自分の職業を通してで44.0%。働くことがそのまま社会との接点になっているという答え方である。
| 役立ちたいと思っている内容(複数回答・997人) | 割合 |
|---|---|
| 自分の職業を通して | 44.0% |
| 環境美化・リサイクルなど自然・環境保護 | 35.2% |
| 介護・保育などの社会福祉 | 31.9% |
| 自主防災活動や災害援助活動 | 23.5% |
| こどもの登下校時の安全監視など交通安全 | 20.2% |
| 募金活動、チャリティーバザー、寄付活動 | 15.5% |
| 町内会や自治会、防犯・防火などの地域活動 | 12.5% |
| 体育・スポーツ・文化に関する活動 | 11.3% |
注目したいのは最下段である。体育・スポーツ・文化に関する活動は11.3%で、職業の4分の1ほどしかない。環境や福祉や防災は社会の役に立つ行為として広く認識されているのに、文化を支えることはその枠にほとんど入っていない。
応援する側の実感とも合う。公演に行き、円盤を買い、グッズを買う行為を、社会の役に立つ活動として数える人は少ない。本人が娯楽だと思っている行為は、統計の上でも娯楽として置かれたままになる。社会的価値の話が宙に浮きやすい原因はここにある。
文化を支える回路は、まだかなり細い
では実際に支えている人はどれくらいいるのか。文化庁は、この1年間にチケット代金以外で文化芸術振興に関わる寄付をしたことがあるかを尋ねている。ふるさと納税による分とそれ以外を合わせて、したことがあると答えた人は10.9%だった。
したことはないが今後はしてみたいという人が23.5%で、両方を足すと34.4%になる。報告書はこれを、寄付をしたかしてみたい人が3人に1人に達すると読んでいる。一方で、したことはなく今後もしたいとは思わないは40.8%、分からないは24.9%である。
意思と行動の間に20ポイント以上の開きがある点が、この分野の特徴である。やりたい気持ちは4割近くあるのに、実行は1割にとどまる。間にあるのは方法を知らないという壁で、寄付の方法を尋ねた結果にもそれが出ている。
寄付をしたことがある1,666人のうち、設置されている募金箱や街頭募金を挙げた人が38.2%で最も多く、銀行やコンビニでの振込みと口座引落としが35.1%、クレジットカードの利用が26.2%で続いた。目の前に箱が置かれている場面が入口として最も強い。寄付型クラウドファンディングのように後から仕組みを選ぶ形は、まだ主流になっていない。
応援の現場は、この「目の前に置かれている」条件をもともと満たしている。会場に箱があり、配信に窓口があり、企画への参加が募られる。文化を支える行為が成立しやすい場所は、すでに応援の動線の上にある。
地域との接点になるのは、通う回数があるからである
もう一つの回路は地域である。同じ内閣府の調査は、地域での付き合いの程度も尋ねている。よく付き合っているは8.7%、ある程度付き合っているは45.2%、あまり付き合っていないは32.0%、全く付き合っていないは13.0%だった。合わせて45%が、住んでいる場所との接点をほとんど持っていない。
この数字の裏返しとして、住む場所とは別に通う場所があるという状態の価値が出てくる。公演のために同じ都市へ年に数回行く、作品の舞台になった町を歩く、地元の催しに合わせて日程を組む。応援を理由にした移動は、居住地以外との関係を細く長く保つ形になりやすい。
地域の側から見ると、この関わり方は関係人口として整理されている。訪問する形と訪問しない形に分かれ、自治体は後者も含めて関わりの数え方を変えてきた。応援を目的に通う人は、本人の意図とは別に、この分類のどこかに入る。
ただし、ここで数字を大きく語るのは危ない。応援を理由にした来訪が地域に落とす額を、継続して測った公的な統計はない。言えるのは、通う回数がある人は接点を持っている、という事実の範囲までである。
作品の側から社会との関係を見た整理はアニメと文化にも書いた。法律上の位置づけと実際の鑑賞率の間にずれがあるという話で、構造は寄付の意思と行動のずれとよく似ている。
社会的価値を語るときに外しやすいところ
三つ注意点がある。一つ目は、経済効果に換算した数字を目的にしないことである。換算は分かりやすいが、計算の前提が変わると額も変わる。前提を書かずに額だけを引用すると、検証できない数字が一人歩きする。
二つ目は、推し活そのものを測った公的データが存在しないという前提を忘れないことだ。ここで使った二つの調査も、文化芸術や社会貢献という広い枠で尋ねている。応援に限った効果を示す数字として扱うと、言い過ぎになる。
三つ目は、本人の目的を取り違えないことである。応援している人の大半は、社会の役に立つために払っているわけではない。好きだから払った結果として誰かに届いている、という順番になっている。この順番を逆にして、社会のためだと説明しはじめると、続かなくなる。
価値を言葉にするなら、小さく正確に書くほうが通りがよい。会場で入れた箱の分が誰の活動費になるのか、通った町でいくら使ったのか。自分の行為の届き先を一つずつ数える作り方は、FLASPOに集まっている若者の活動事例でも繰り返し出てくる形である。
社会的価値という言葉は、後から付けられる説明にすぎない。先にあるのは、払った人と受け取った人がいるという事実だけである。
よくある質問
推し活に社会的価値があると言い切れますか。言い切れるだけのデータはない。文化芸術への寄付が10.9%にとどまる一方で、社会の役に立ちたいと考える人が62.2%いるという二つの数字が並んでいる状態である。応援が後者を前者に変える回路のひとつになりうる、という書き方までが妥当な範囲になる。
推しにお金を使うことは寄付と同じですか。扱いは違う。チケット代やグッズ代は対価の支払いで、文化庁の調査もチケット代金以外の寄付を尋ねている。対価を払う行為と、見返りのない形で渡す行為は分けて数えるのが前提になっている。
応援が地域の役に立っているかはどう確かめますか。確かめる統計は整っていない。自分の側で数えるなら、通った回数と現地で使った額を記録しておくのが確実である。自治体が公開している来訪者数の資料と突き合わせれば、規模の見当はつく。
社会の役に立ちたいと思う人が6割いるのに、文化の活動が11.3%しかないのはなぜですか。調査は理由を尋ねていないため断定はできない。環境や防災は参加の形が決まっているのに対し、文化を支える行為は方法が知られていないという違いが、寄付の意思と行動のずれにも共通して現れている。
企業や自治体に協力を頼むとき、何を示せばいいですか。換算した経済効果より、回数と人数の実績を出すほうが通りやすい。何人が何回来て、どこに何を使ったか。箱に入れた額のように、確かめられる単位で書いた資料のほうが相手も扱いやすい。
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