少子高齢化と社会保障|給付費135兆円の内訳と現役世代の負担

少子高齢化と社会保障|給付費135兆円の内訳と現役世代の負担

給与明細を開くと、額面と手取りのあいだにそれなりの差がある。差し引かれているものの大半は税ではなく社会保険料で、この金額は制度の設計と人口の構成の掛け算で決まっている。年金、医療、介護がどれだけの規模になり、その費用を誰がどう負っているのか。数字を分解すると、報道で使われる「負担が重い」という言い方の中身が見えてくる。

制度は、人口の形を前提に組み立てられている

日本の公的年金は、現役世代が納めた保険料をその時点の受給者に回す賦課方式を基本としている。医療保険も介護保険も、財源の構造はこれに近い。積み立てた自分の分を将来受け取るのではなく、同じ年に働いている人が同じ年に給付を受ける人を支える形になっている。

この仕組みは、支える側と支えられる側の比率に直接左右される。総務省統計局の人口推計をもとにした整理では、2025年時点では65歳以上1人をおよそ2.0人の生産年齢人口が支えている計算になり、2070年には1.3人まで下がると見込まれている。分母が薄くなれば、同じ給付水準を保つために一人あたりの拠出を増やすか、給付の側を調整するしかない。

制度そのものが壊れているわけではない、という点は押さえておきたい。設計時に想定していた人口の形と、実際の形がずれてきた。議論されているのは制度の存廃ではなく、ずれをどこで吸収するかという配分の問題である。

後期高齢者の増え方を見ると、ずれの方向がつかめる。人口推計では2026年3月1日現在の75歳以上人口は2148万8千人で、前年同月から47万9千人、2.28パーセント増えた。総人口が減るなかで、この層だけがはっきりと増えている。医療や介護の利用は年齢が上がるほど増えるため、高齢者の総数より、その内側で75歳以上の比重が高まっていることのほうが給付には効く。

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135兆円の中身を、三つに割ってみる

規模を確かめておく。国立社会保障・人口問題研究所の令和5年度 社会保障費用統計によれば、2023年度の社会保障給付費はILO基準で135兆4928億円。前年度に比べて2兆6809億円、1.9パーセントの減少となった。2年度続けての減少で、新型コロナ対策の関係費が縮んだことが主な要因とされている。

部門 給付費(令和5年度) 構成比
年金 56兆3,936億円 41.6%
医療 45兆5,799億円 33.6%
福祉その他(介護を含む) 33兆5,192億円 24.7%
合計 135兆4,928億円 100%

この三分割から読み取れることがある。最大の費目は年金で四割を超えるが、年金給付は受給者数と支給額の改定で動くため、単年で急に膨らむ性質のものではない。これに対して医療と、福祉その他に含まれる介護は、高齢者の年齢構成が上がるほど一人あたりの利用が増える。総額が横ばいや微減に見える年でも、内側では比重が移動している。

負担は、税より先に保険料の形で現れる

給付の規模を負担の側から見るときに使われるのが国民負担率だ。財務省が公表した令和8年度の国民負担率は45.7パーセントの見通しで、前年度の46.1パーセントから0.4ポイント下がった。内訳は租税負担率が28.0パーセント、社会保障負担率が17.6パーセントである。財政赤字分を加えた潜在的国民負担率は48.4パーセントとなる。

所得の四割以上が公的な負担に回っていることになるが、この数字には注意点が二つある。一つは分母が国民所得であって、家計の手取りではないこと。もう一つは、負担と給付は表裏だということだ。医療費の窓口負担が原則三割で済むのは、残りを保険料と公費が負っているからである。

それでも現役世代の実感として重いのは、負担が保険料という形で毎月の給与から先に引かれるためだ。税と違って所得控除で調整される幅が小さく、給付を実際に受けるのは多くの場合ずっと先になる。世代間の不公平が語られる背景には、この時間差がある。

2040年に向けて重くなるのは、年金より介護

この先の焦点は、給付費の総額よりも構成の変化にある。団塊の世代が全員75歳以上となり、次いで団塊ジュニア世代が高齢期に入る2040年ごろ、負荷が集中するのは年金ではなく介護と医療だと見込まれている。

厚生労働省の推計では、2040年度に必要な介護職員はおよそ272万人で、2022年度の約215万人から57万人の増加が要る。お金の手当てだけでは足りず、その人数の担い手を現実に確保できるかどうかが制度の持続性を左右する。財源が確保されていても、サービスを提供する人がいなければ給付は行き届かない。

世帯の形の変化も効いてくる。国立社会保障・人口問題研究所の世帯推計では、65歳以上の単独世帯が一般世帯に占める割合は2020年の13.2パーセントから2050年に20.6パーセントへ上がる。同居家族が担ってきた介助や見守りが家庭内で完結しなくなれば、その分は公的なサービスか地域の支え合いが引き受けることになる。過疎化が進んだ地域では、この受け皿の確保が先に行き詰まりやすい。

負担の分かれ目は地域ごとにも現れる。介護保険の保険料は市町村が三年ごとに定めるため、高齢化の進み方とサービスの整備状況によって水準に差が出る。人口が少なく要介護の住民の割合が高い自治体ほど、同じ給付を支えるための一人あたりの負担が重くなりやすい構図である。

見直しの論点は、給付と負担と支え手

議論の選択肢は、突き詰めると三つの方向に整理できる。一つ目は給付の調整で、年金の支給開始年齢や給付水準の改定、医療の自己負担割合の見直しがこれにあたる。効果は大きいが、影響を受ける層がはっきりしているため合意が難しい。

二つ目は負担の見直しだ。保険料率の引き上げ、公費の投入拡大、負担能力に応じた設定など、配分を組み替える手が含まれる。国民負担率が40パーセント台後半で推移している現状では、上げ幅をどこまで取れるかという制約がついて回る。

三つ目が支え手そのものを増やす方向で、出生の環境整備と労働参加の拡大が柱になる。ただし効果が出るまでの時間が長い。加えて、制度の外側で機能を補う動きも無視できない。地域の見守りや移動支援といった仕組みは、公的給付に数えられないまま実質的な支えになっている。若い世代が地域と関わる入口をつくるFLASPOの取り組みのように、担い手の裾野を広げる試みは、この三つ目の実務的な一部といえる。限界集落の現場では、制度と生活のあいだを埋める人の存在が決定的になる。

よくある質問

Q.社会保障給付費が2年続けて減ったのは、負担が軽くなったということですか。
A.そうとは限りません。令和5年度の135兆4928億円という数字は前年度から1.9パーセント減りましたが、主な要因は新型コロナ対策関係費の縮小です。年金や医療といった中心部分の構造が変わったわけではありません。

Q.給付費の中でいちばん大きいのは何ですか。
A.年金で、令和5年度は56兆3936億円、全体の41.6パーセントを占めます。次いで医療が45兆5799億円で33.6パーセント、介護を含む福祉その他が33兆5192億円で24.7パーセントという順です。

Q.いまの若い世代は年金を受け取れないのでしょうか。
A.賦課方式である以上、制度が続く限り給付はあります。論点は受け取れるかどうかではなく、支給開始の年齢や水準がどう調整されるかという点にあります。

Q.国民負担率が下がったのに、負担が増えたと感じるのはなぜですか。
A.国民負担率は国民所得に対する比率であり、分母が伸びれば比率は下がります。手取りに対する保険料の重さや物価の動きは、この指標とは別に効いてくるため、実感とずれることがあります。


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