法律の条文に「アニメーション」と書かれている
アニメが文化なのかどうかという問いは、好きかどうかの話として交わされがちだ。ところが日本の法律は、この点について二十年以上前から答えを置いている。文化庁が掲げる文化芸術基本法の第九条は、映画、漫画、アニメーション及びコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術を「メディア芸術」と名づけ、国がその振興を図ると定めている。
この法律は2001年に文化芸術振興基本法として制定された。当時の条文は、メディア芸術の製作と上映への支援を国の施策として挙げている。音楽や演劇や伝統芸能と同じ章の中に、漫画とアニメーションが並んで書かれているという事実が出発点になる。
つまり制度の側では、議論はすでに終わっている。残っているのは、文化として扱われるとは具体的にどういうことなのかという中身の問題だ。以下では条文の変化と世論調査の数字をたどって、その中身を確かめていく。
表現としての成り立ちをさかのぼりたい場合はアニメの歴史に年代順の整理がある。ここでは制度と受け手の側から見る。
画面を通した鑑賞では、三番目に多いジャンル
受け手の側の数字は、文化庁の文化に関する世論調査が毎年とっている。令和8年3月の報告書は、全国18歳以上の25,000人を対象に令和8年1月30日から2月4日まで実施した調査の結果である。
この調査は鑑賞の経路を二つに分けて尋ねている。外出を伴う形で文化芸術を鑑賞した人は46.9%で、ジャンルの上位は映画(アニメーション映画を除く)が20.8%、歴史的な建物や遺跡が15.7%、美術が13.0%だった。一方、インターネット配信やテレビなどメディアを通して鑑賞した人は58.7%に上る。
後者のジャンル別で、アニメーションは20.4%と三番目に入る。上にいるのは映画(アニメーション映画を除く)の32.9%と、ポップスなどの音楽の22.7%だけだ。しかも伸び方が他と違う。
| ジャンル(メディアによる鑑賞) | 令和5年度 | 令和6年度 | 今回 |
|---|---|---|---|
| アニメーション | 19.0% | 19.7% | 20.4% |
| マンガ | 11.4% | 13.2% | 13.9% |
| 歴史的な建物や遺跡 | 13.1% | 12.7% | 13.2% |
| 美術 | 9.5% | 9.0% | 9.5% |
| 文学作品 | 9.0% | 7.0% | 6.8% |
三年続けて上がっているのはアニメーションとマンガの二つで、ほかの項目は横ばいか下がっている。配信が家庭に入ったことが、どのジャンルに効いたのかが読み取れる並びになっている。
外出して鑑賞しなかったと答えた13,268人に理由を尋ねた結果も載っている。「特にない・分からない」を除くと、関心がないが24.0%で最も多く、入場料や交通費など費用がかかり過ぎるが12.4%、生活圏で公演や展覧会などが行われていないが9.6%だった。費用と距離という二つの壁を、配信はどちらも低くする。
海外へ発信すべきものとして、伝統芸能の次に挙がる
同じ調査には、日本の文化芸術の魅力としてどのジャンルを諸外国に発信すべきかという質問がある。最も多いのは伝統芸能の25.0%で、次に来るのがマンガとアニメーション映画の19.9%、三番目が日本の伝統音楽の17.1%だった。
この順番は、国内での自己認識を映している。歌舞伎や能と同じ土俵で、しかも二番目に名前が挙がる。少なくとも「若い人だけのもの」という扱いではない。
文化交流そのものの意義についても回答が出ている。相互理解や信頼関係が深まり国際関係の安定につながるという答えが28.6%で最も多く、日本のイメージが向上するが27.3%、異なる文化が刺激し合い世界の文化の発展につながるが23.5%と続く。発信する中身の二番目にアニメが置かれているのは、これらの期待を背負っているということでもある。
なお鑑賞以外の活動、つまり自分で作る側に回った人は14.1%にとどまる。内訳では「マンガ、映画などの映像作品、CG、ゲーム、メディアアートなどの作品の創作」が3.2%、「文学、音楽、美術、演劇、舞踊などの作品の創作」が3.3%で、ほぼ並んでいる。
2017年の改正が加えたのは、保存と継承だった
条文は一度書かれて終わりではない。文化庁の改正法の施行通知によると、2017年6月23日に平成29年法律第73号が公布・施行され、法律の題名が文化芸術振興基本法から文化芸術基本法へ改められた。
メディア芸術を定めた第九条にも手が入っている。加わったのは、展示への支援、制作等に係る物品の保存への支援、知識及び技能の継承への支援、そして芸術祭等の開催である。製作と上映を支えるだけだった条文に、残すことと受け渡すことが書き足された。
この追記は実務上の意味が大きい。セル画や原画、設定資料、録音の素材といった物は、放送が終われば保管の費用だけが残る。誰が持ち、どこに置くのかが決まらないまま散逸していくのは、この分野が長く抱えてきた弱点だった。
同じ改正では、基本理念に「年齢、障害の有無又は経済的な状況」にかかわらず等しく鑑賞し参加し創造できる環境を整えるという一文が加わり、観光、まちづくり、国際交流、福祉、教育、産業といった分野との連携も書き込まれた。文化芸術推進基本計画を政府が定めなければならないことも、このとき規定された。
計画の規定は地方にも及んでいる。都道府県と市町村には、国の計画を参酌して地域の実情に即した「地方文化芸術推進基本計画」を定めるよう努める義務が置かれた。アニメを含むメディア芸術をどう扱うかは、ここから先は自治体ごとの判断になる。
文化として扱われると、地域の側に仕事が生まれる
関連分野との連携が条文に入ったことは、机の上の話では終わらない。作品の舞台になった土地を訪ねる動きは、受け手の趣味であると同時に、その土地にとっては人の流れになる。
訪ね方には地域ごとの事情がある。寺社や街並みが作品の背景として使われてきた土地では、作品の案内と既存の観光案内が重なっていく。京都のアニメ聖地巡礼のガイドに並ぶ行き先を見ると、文化財の見学と作品の確認が同じ道のりに収まっていることが分かる。
期間限定の催しという形もある。アニメコラボカフェのように、短い期間だけ店の内装と品書きを作品に合わせる企画は、常設の施設を持たない土地でも組める。地域の側から作品に寄っていく動きを後押しするFLASPOのような取り組みも、この連携の文脈に位置づけられる。
気をつけたいのは、人が来ることが目的になった瞬間に作品のほうが置き去りにされる点だ。条文が「固有の意義と価値を尊重しつつ」と前置きしているのは、おそらくここを見ている。順番を違えない限り、文化として扱うことと地域の仕事になることは両立する。
よくある質問
アニメは法律で文化財として扱われているのか。文化財とメディア芸術は別の枠組みである。第九条はアニメーションを含むメディア芸術の振興を定めた規定で、国宝や重要文化財の指定とは制度が異なる。保存への支援が条文に入ったのは2017年の改正からだ。
メディア芸術という言葉はアニメだけを指すのか。条文は映画、漫画、アニメーション、そしてコンピュータその他の電子機器等を利用した芸術を含むとしている。ゲームやメディアアートも、この枠の中で語られる。
世論調査の数字は、好きな人が増えたという意味なのか。この調査が尋ねているのは、この一年間に鑑賞したかどうかである。好みの強さではなく接触の有無を数えているため、配信の普及で見やすくなったことの影響が大きいと読むのが妥当だろう。
伝統芸能より下だったことはどう受け止めればよいのか。発信すべきジャンルの質問は複数回答ではなく、何を代表に選ぶかを問うものに近い。一位との差は五・一ポイント、三位の伝統音楽との差は二・八ポイントしかない。上位三つが狭い範囲に固まっていることのほうが、順位より情報量がある。
資料の散逸を止める取り組みは進んでいるのか。条文に保存と継承が書かれたのは出発点であり、実際の保管は制作会社や個人の手元に残っている分が多い。公的な受け皿が整うまでは、放送や公開のたびに資料が増え続けるという状態が続く。
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