ジャンルは好みの名前ではなく、棚を分けるための区分だった
好きな音楽を聞かれて答えに詰まるのは、名前の出どころを知らないからである。ロックやポップスという語を、私たちは感覚で使っている。ところが業界の統計では、ジャンルは感覚ではなく固定された区分として運用されている。
日本レコード協会の日本のレコード産業2025年版は、オーディオレコードを邦盤10区分と洋盤6区分に分けて集計している。邦盤は演歌、ポップス・歌謡曲、軽音楽、サウンドトラック、民謡・純邦楽、教育・教材・童謡・童話、アニメーション、クラシック、カラオケ、その他。洋盤はロック・ポップス・ダンス、ジャズ・フュージョン、ポピュラーソング、サウンドトラック、クラシック、その他である。
合計16の箱に、年間に出る作品すべてが割り振られる。どの箱に入れるかは、音の雰囲気ではなく、売り方や制作の系統で決まる部分が大きい。日常の会話に出てくるジャンル名と食い違うのは、そもそも目的が違うからである。
同じ資料のなかでも、媒体が変われば区分の細かさは変わる。音楽ビデオの集計は邦盤、洋盤、カラオケの三つしかない。2024年の新譜は邦盤1,131タイトル、洋盤108タイトル、カラオケ12タイトルで合計1,251タイトルだった。細かく分けるかどうかは、作品の中身より流通の規模で決まっているということになる。ジャンルという言葉が絶対の分類ではなく、数える都合に合わせた道具であることがここで見えてくる。
2024年の新譜9,601タイトル、その四分の一近くが一つの箱に入る
同じ資料の2024年のジャンル別新譜数を見ると、区分ごとの厚みの差が極端であることが分かる。発売された新譜は合計9,601タイトル、うち邦盤が7,188、洋盤が2,413だった。
| 区分 | ジャンル | 2024年の新譜数 |
|---|---|---|
| 邦盤 | ポップス・歌謡曲 | 5,209 |
| 邦盤 | アニメーション | 508 |
| 邦盤 | 演歌 | 477 |
| 邦盤 | サウンドトラック | 420 |
| 邦盤 | クラシック | 109 |
| 邦盤 | 民謡・純邦楽 | 24 |
| 洋盤 | クラシック | 752 |
| 洋盤 | ロック・ポップス・ダンス | 718 |
| 洋盤 | ジャズ・フュージョン | 547 |
| 洋盤 | ポピュラーソング | 290 |
邦盤では「ポップス・歌謡曲」が5,209タイトルで、邦盤全体の7割を超える。新しく出る日本の作品のほとんどが、この一語にまとめられている計算になる。次が「アニメーション」の508で、「演歌」の477を上回った。作品数という面では、アニメに付く音楽が独立した柱になっている。
洋盤はまったく別の形を取る。首位が「クラシック」の752で、「ロック・ポップス・ダンス」の718、「ジャズ・フュージョン」の547が続く。海外作品として国内で新たに流通するものは、過去の録音を含むクラシックとジャズに寄っている。
積み上がった19万タイトルは、新譜とは順位が入れ替わる
その年に出たものだけを見ていると、全体像を読み違える。同じ資料には年末時点のカタログ数、つまりその時点で手に入る作品の累計も載っている。2024年末は合計193,056タイトルで前年比102%、邦盤が138,450、洋盤が54,606だった。
| ジャンル | 2024年末のカタログ数 | 区分内の位置 |
|---|---|---|
| ポップス・歌謡曲(邦盤) | 81,235 | 邦盤の1位 |
| 演歌(邦盤) | 18,829 | 邦盤の2位 |
| アニメーション(邦盤) | 12,764 | 邦盤の3位 |
| クラシック(洋盤) | 23,690 | 洋盤の1位 |
| ロック・ポップス・ダンス(洋盤) | 16,332 | 洋盤の2位 |
| ジャズ・フュージョン(洋盤) | 7,884 | 洋盤の3位 |
注目したいのは演歌である。新譜では477タイトルにすぎないのに、累計では18,829タイトルあって邦盤の二番手に収まる。長い期間にわたって作品が積み上がり、いまも在庫として残っているという意味になる。洋盤のクラシックが23,690で洋盤全体の四割を占めるのも同じ構図で、新譜の勢いと蓄積の厚みは別物である。
ここから実用的な話が出てくる。知らないジャンルを掘るなら、新譜の多い箱より累計の多い箱のほうが当たりが多い。聴ける作品の母数が最初から違う。
聴く側の分類は、すでにジャンルから場面へ移っている
売る側が16区分を守っている間に、聴く側の入口は別の形に置き換わった。同じ資料によると、2024年の音楽配信売上は1,233億円で11年続けて増加し、そのうちストリーミングが1,132億円、配信全体の91.8%を占める。CDなどの音楽ソフト生産は2,052億円で前年比93%だった。
聴き放題の画面に並ぶのは、ジャンル名よりも「勉強中に」「ドライブ」「朝に」といった場面の名前である。気分や行動で束ねる分類が主流になり、演歌とロックが同じ並びに同居することも珍しくなくなった。総務省統計局の令和3年社会生活基本調査でCDやスマートフォンなどによる音楽鑑賞の行動者率が53.5%と趣味・娯楽で最も高いことを思えば、多くの人が触れているのはこちら側の分類である。
二つの分類は競合しない。場面で束ねた並びは今日の一曲を決めるのに向き、ジャンルの区分は過去に積み上がった蓄積へ入るのに向く。前者だけに頼ると、推薦が同じ範囲を回り続けて聴く幅が狭まっていく。配信とライブの使い分けを扱った音楽の楽しみ方とあわせて考えると、どこで手を動かすべきかが見えやすい。
区分を手がかりに、聴く範囲を広げる四つの手
ジャンルの知識は、名前を覚えるためではなく範囲を動かすために使う。具体的な手は四つある。
第一に、累計の厚い箱から入る。洋盤のクラシックやジャズ・フュージョンは蓄積が大きいので、入門用にまとめられた作品が多く、最初の一枚を見つけやすい。第二に、作品数の多い箱のなかを時代で切る。ポップス・歌謡曲のように巨大な箱は、年代を限って聴くほうが輪郭を掴みやすい。
第三に、サウンドトラックを横断の入口にする。邦盤で420タイトル、洋盤で94タイトルある区分で、映画や番組という別の文脈が付いているため、曲だけを選ぶより手がかりが多い。他の媒体でのジャンル分けの考え方は映画の楽しみ方でも触れている。第四に、民謡・純邦楽のように新譜が年24タイトルしかない箱を覗いてみる。選択肢が少ないことは、迷わずに済むという利点に変わる。
なお、聴いた音楽を自分の発信に使う段では権利の確認が必要になる。SNSでの扱いについては学生団体のInstagram運用で整理した。学生の企画づくりを支えるFLASPOでも、音楽を扱う企画でまず詰まるのはこの点である。
よくある質問
ロックとポップスの線引きはどこにあるのでしょうか。レコード協会の集計では洋盤について「ロック・ポップス・ダンス」と一つの箱にまとめており、統計上は区別されていない。音楽の聴き方として語られる違いは、統計上の区分とは別の文脈にあると考えてよい。
J-POPという区分は統計に出てきますか。出てこない。邦盤では「ポップス・歌謡曲」という名称が使われ、ここに新譜5,209タイトルが収まる。日常語と集計上の名称がずれている代表例である。
アニメソングはジャンルとして扱われていますか。邦盤に「アニメーション」という区分があり、2024年の新譜は508タイトル、年末のカタログ数は12,764タイトルだった。演歌の新譜477を上回る規模で、独立した箱として集計されている。
ジャンルを知らないと音楽を楽しめないのでしょうか。そんなことはない。ただ、知らない範囲へ移るときには地図があるほうが早い。区分は好みを決めるものではなく、まだ聴いていない場所を指すための目印として使うものである。
配信で聴けないジャンルはありますか。カタログ数で見ると、CDやアナログディスクでしか手に入らない作品は残っている。カラオケ区分の98タイトルのように、媒体の性質そのものが前提になっている箱もある。
映像つきの作品はどこで探せばよいでしょうか。音楽ビデオのカタログ数は2024年末で18,570タイトルあり、うち邦盤が14,134、洋盤が4,361だった。音だけの集計とは厚みの比率が逆で、国内作品の映像は想像より多く残っている。
この区分は世界共通のものですか。国内の業界団体が自分たちの集計のために定めた区分であって、国際的に統一された分類ではない。海外の配信サービスが掲げるジャンル名とそろわないのは当然で、どちらが正しいかを争う筋のものではない。
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