気分転換という言い分を、数字の側から見てみる
旅行がよいものだという話は、たいてい体験談の形で語られる。気が晴れた、視野が広がった、家族と話す時間ができた。否定する理由はないが、人に勧める根拠としては弱い。公的な統計の側から見ると、同じ話が別の輪郭で出てくる。
観光庁の旅行・観光消費動向調査の2025年年間値(確報)によると、日本人の国内延べ旅行者数は5億5,313万人で前年比2.4%増だった。内訳は宿泊旅行が2億9,997万人、日帰り旅行が2億5,316万人である。消費額は26兆7,845億円で、前年から6.5%増えた。
人口で割れば一人あたり年に4回を超える計算になる。特別な行事ではなく、生活の一部として繰り返されている行動だということがまず読み取れる。以下では、休暇の取りやすさ、働く人にとっての効き目、泊まることで地域に残る金額、そして国内旅行の位置という順に見ていく。
先に動いたのは、休みの取りやすさのほうだった
旅行者数が増えた背景には、休暇制度の変化がある。厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によれば、2024年の1年間に企業が付与した年次有給休暇は労働者1人平均18.1日、実際に取得した日数は12.1日で、取得率は66.9%だった。取得日数と取得率はいずれも昭和59年以降で最も高い。
前年調査の付与16.9日・取得11.0日・取得率65.3%と比べると、付与も取得も動いている。年に1日多く休めるようになったという変化は、一泊の旅行が一回増えることと同じ重さを持つ。旅行の増加を観光側の努力だけで説明すると、この部分を見落とす。
ただし恩恵は一様ではない。産業別では電気・ガス・熱供給・水道業の75.2%が最も高く、宿泊業・飲食サービス業は50.7%で最も低い。旅行者を迎える側が、最も休めていない。企業規模別でも1,000人以上が69.0%、30〜99人が64.9%と差がある。旅行のしやすさは、どこで働いているかに左右されている。
業種ごとの開きも大きい。製造業は72.8%、医療・福祉は68.4%に届く一方、卸売業・小売業は59.9%、生活関連サービス業・娯楽業は59.6%にとどまる。付与日数そのものは宿泊業・飲食サービス業が15.9日と少なく、取得日数は8.0日だった。休みの日数が最初から少ない職場では、取得率を上げる余地も狭い。旅行を前提にした暮らしができるかどうかは、職場選びの段階である程度決まってしまう。
働く人への効き目は、企業側の調査に出ている
旅行の効用を個人の感想ではなく組織の観察として記録した資料がある。観光庁が2024年12月に実施したワーケーションの調査で、経営者層600サンプル、会社員2,000サンプルに聞いたものである。報告資料によると、制度を導入している企業のうち、有給休暇取得率が向上したと答えたのは55%で前年の41%から上がった。社員の健康管理や健康増進に関する効果があったは45%、社員の帰属意識が高くなったは30%だった。
企業が期待する効果として最も多かったのは、心身のリフレッシュによる仕事の品質と効率の向上で54.2%。次いで多様な働き方を認める環境提供が47.7%、有給休暇取得率の向上が43.9%、優秀な人材の離職防止が26.2%と続く。休ませることを福利厚生ではなく経営課題への対応として並べている点が、この資料の特徴である。
従業員の側の回答も同じ方向を向いた。実施した人が最も感じた効果は業務効率が向上したで半数を超え、リラックスして仕事ができた、仕事の質が向上したがそれぞれ3割以上となり、前年より高い数値になった。認知率は79%ある一方で導入率は従業員100名以上の企業で13%にとどまり、知られてはいるが使われていないという段階にある。働き方と旅行の重なりについてはワーケーションとはで制度面から整理している。
一泊するかどうかで、落ちるお金は3.6倍違う
旅行する本人の得だけでなく、行き先に残るものも統計に出ている。1人1回当たりの旅行支出は全体で48,424円、宿泊旅行では72,412円、日帰り旅行では20,000円だった。この支出には参加費、交通費、宿泊費、飲食費、買物代、娯楽等サービス費が含まれる。
| 区分 | 延べ旅行者数 | 1人1回当たりの支出 | 旅行消費額 |
|---|---|---|---|
| 宿泊旅行 | 2億9,997万人 | 72,412円 | 21兆7,211億円 |
| 日帰り旅行 | 2億5,316万人 | 20,000円 | 5兆634億円 |
| 合計 | 5億5,313万人 | 48,424円 | 26兆7,845億円 |
人数で見れば宿泊と日帰りはほぼ拮抗している。それなのに消費額では4.3倍の開きがつく。一泊増えるだけで、夕食と朝食、宿泊費、翌日の移動と買物が加わるためである。地域の側から見た旅行のメリットは、来訪者の数よりも泊数に強く結びついている。宿泊を軸にした地域の受け入れ方は農泊のメリットで具体例を扱った。
感染症が広がる前と比べると、戻り方には偏りがある。2019年の延べ旅行者数は5億8,710万人で、2025年はまだそこに届いていない。それでも消費額は2019年の21兆9,312億円を上回り、1人1回当たりの支出も37,355円から48,424円へと1万円以上増えた。出かける回数は戻りきらないまま、1回あたりに使う金額が厚くなった形である。回数を競うより、一度の滞在をどう設計するかに関心が移っていると読める。
訪日客の9.5兆円と並べると、国内旅行の位置が見える
同じ確報には、日本国内で使われた旅行消費額の全体像も載っている。2025年の合計は37.6兆円で、日本人国内宿泊旅行が21.7兆円で57.7%、訪日外国人旅行が9.5兆円で25.1%、日本人国内日帰り旅行が5.1兆円で13.5%、日本人海外旅行の国内分が1.4兆円で3.7%という構成である。
報道で目立つのは訪日客のほうだが、金額の7割は日本人の国内旅行が占めている。しかも国内旅行は為替や国際情勢の影響を受けにくく、繰り返し来てもらえる相手でもある。地域にとっての現実的な相手は、遠くからの一度きりの客より、何度も来る近隣の生活者だという見方ができる。
どこに人が集まっているかは都道府県別の観光地で宿泊者数から整理した。旅行者として地域に関わり続ける形は観光に限らず、地域づくりに踏み込む入口もある。FLASPOが扱っている地域との関わり方は、その先にある選択肢のひとつになる。
よくある質問
旅行は費用に見合うのか。平均の支出は1回48,424円で、宿泊なら72,412円が目安になる。ただしこの金額には交通費も飲食も買物も含まれており、宿の料金だけを指すわけではない。何にいくら使うかを分けて考えると、削れる部分と削れない部分が見えてくる。
日帰りでも意味はあるのか。2025年は2億5,316万人が日帰りで出かけ、支出は1人1回20,000円、前年比2.6%増だった。泊まらない旅も確実に増えている。移動の負担や宿泊費を避けながら回数を重ねたい人には、現実的な選び方である。
休みが取りにくい職場ではどうするか。取得率には産業や企業規模による差があり、個人の努力だけで埋まるものではない。計画的付与や連休に合わせた取得など、制度として用意されている仕組みを使うほうが早い。
ワーケーションは旅行に入るのか。観光庁は、より長期かつ多くの旅行機会の創出や旅行需要の平準化につながる取組と位置づけている。休暇と仕事の線引きは勤め先の制度によるため、就業規則の確認が先になる。
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