「何時間寝たか」の前に、国の調査が聞いていること
国の統計が睡眠について最初に尋ねるのは、時間の長さではない。令和5年国民健康・栄養調査の設問は「ここ1ヶ月間、あなたは睡眠で休養が充分とれていますか」である。この問いに「充分とれている」または「まあまあとれている」と答えた人を合わせた割合が74.9%で、平成21年からの推移でみると有意に減少している。
年齢調整した値で並べると目減りの幅が見える。平成21年は80.6%、平成24年は83.7%あった。15年ほどかけて、休めていると答える人が1割近く減ったことになる。健康日本21(第三次)はこの指標の目標値を年齢調整値で80%に置いているので、現状は目標線の下から出発している形である。
この感覚に与えられた名前が「睡眠休養感」で、時間の確保と並ぶ指標として扱われている。時間を測るだけでは足りないとされたのは、同じ7時間でも回復している人とそうでない人が分かれるからである。心の状態を見るときにこの区別が効いてくる。眠っている時間の長さを本人も家族も把握しているのに、朝に残る重さのほうは誰も数えていない、という状況が起きやすい。
以降では、量の実態、休養感と抑うつの前後関係、年代ごとに置かれた別々の目安、そして休養感を下げている要因という順で、公表資料にある数字だけを並べていく。
6時間に届いていない人が、男性38.5%と女性43.6%いる
量の側を見ると、令和5年の結果の概要では1日の平均睡眠時間は6時間以上7時間未満が最も多く、男性35.2%、女性33.9%である。6時間未満の人は男性38.5%、女性43.6%で、性・年齢階級別にみると男性の30〜50歳代、女性の40〜60歳代では4割を超える。働いて家庭も回している年代に、短い睡眠が集まっている。
厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023は、成人版の推奨事項として「適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」と書いている。個人差を認めたうえで下限の目安を置いた書き方である。この線に照らすと、4割前後が下回っていることになる。
同じガイドは国際的な位置も記していて、令和3年のOECDの調査報告で日本人の平均睡眠時間は調査対象33カ国の中で最も短かったとしている。短い睡眠が個人の生活習慣だけの問題ではなく、社会の側の条件として現れていることを示す記述である。
健康日本21(第三次)の目標でも量は別立てになっており、睡眠時間が6〜9時間、60歳以上については6〜8時間の人の割合を年齢調整値で60%にすることが掲げられている。休養感80%と時間60%という二本立てで、質と量の両方に線が引かれている。
休養感の欠如は、不調の結果としてだけ現れるわけではない
睡眠の問題と心の不調は、どちらが先かという順番が気になるところである。睡眠ガイド2023の冒頭は、うつ病などの精神疾患では発症初期から睡眠の問題が出現し、再燃や再発のリスクを高めることが知られているとしたうえで、睡眠の問題自体が精神障害の発症リスクを高めるという報告もあると書いている。双方向である、という整理になる。
このうち休養感に絞った記述がさらに具体的で、米国の横断研究では精神疾患に併存する最も頻度が高い睡眠に関する訴えは「睡眠による休養感の欠如」で25.0%と報告されている。寝つきが悪いことや途中で目が覚めることよりも、休めていないという訴えが上に来る。
前後関係についても、米国地域住民を対象とした縦断調査で、睡眠休養感の低下が、寝つきの悪さや頻回の中途覚醒などの不眠症状とは独立して、うつ病発症と関連することが示されている。不眠の症状がないから大丈夫とは言えない、という意味になる。日本の成人を対象とした横断研究でも、睡眠休養感が低い人ほど抑うつの度合いが強いという結果が出ている。
つまり、本人が「眠れてはいる」と答える場合でも、休養感の側が落ちていれば見ておく価値がある。メンタル不調のサインの見方として眠りの時間数だけを確認すると、ここを取りこぼすことになる。
年代ごとに、置かれている目安の数字が違う
同じガイドでも、対象によって推奨の形が変わる。成人には下限の目安が置かれ、こどもには幅が示され、高齢者には上限の注意が書かれている。並べると次のようになる。
| 対象 | 睡眠ガイド2023の推奨事項(時間に関する部分) |
|---|---|
| 成人 | 個人差はあるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する |
| 小学生 | 9〜12時間を参考に睡眠時間を確保する |
| 中学・高校生 | 8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する |
| 高齢者 | 床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する |
高齢者の欄だけ向きが逆になっているのは、長い床上時間そのものが健康リスクとして扱われているからである。ガイドは、床上時間が約8時間以上の場合に総死亡リスクとの関連がみられるとし、床上時間が長くかつ睡眠休養感が低い場合に注意が必要だと記している。眠るために早く寝床に入る時間を増やす方向は、この年代では勧められていない。
こどもの欄に幅があるのも理由がある。必要な時間が成長とともに減っていくため、学齢で区切って参考値を示す形になっている。試験前に睡眠を削る判断がどう効くかは、勉強の集中力と睡眠の関係として別に整理した。いずれの年代でも、時間の目安と休養感の向上が二つ並びで書かれている点は共通している。
休養感を下げている要因は、寝室の外側に並んでいる
寝具や照明を替えても休養感が戻らないことがある。睡眠ガイド2023が挙げる低下要因の一覧を見ると、理由がわかる。睡眠不足に加えて、仕事などによる日中のストレス、就寝直前の夕食や夜食、朝食抜きなどの食習慣の乱れ、運動不足や歩行速度の遅さといった運動習慣の不良、そして糖尿病や高血圧、がん、うつ病などの慢性疾患を有することが並んでいる。
並び方として、寝室の中の条件は一部にすぎない。日中の負荷と食事と運動という、起きている時間の過ごし方が大半を占めている。ガイドが成人版の推奨事項に「食生活や運動等の生活習慣や寝室の睡眠環境等を見直して、睡眠休養感を高める」と書いているのは、この構成に対応している。
休日に長く眠って取り戻す方法については、限定的な評価が与えられている。40〜64歳の成人を対象とした調査では、平日6時間以上寝ている人に限り、休日の1時間程度の寝だめが寿命短縮リスクを低下させることが示されているが、平日6時間未満の人は休日の寝だめをしても寿命短縮リスクが有意に高まるという。平日が短い人ほど、週末の長時間睡眠では埋まらない。
もう一つ、推奨事項には「睡眠の不調・睡眠休養感の低下がある場合は、生活習慣等の改善を図ることが重要であるが、病気が潜んでいる可能性にも留意する」という一文が入っている。生活習慣の見直しで届く範囲と、受診が必要な範囲を分ける目印になる。相談先の全体像はメンタルケアの担い手の整理のほうが詳しい。地域の居場所づくりに取り組むFLASPOの活動でも、日中の過ごし方が夜の回復につながる前提は設計の土台になる。
よくある質問
休養感がとれているかどうかは、どう確かめればよいか。国の調査が採っているのは本人の回答で、4段階の選択肢のうち「充分とれている」と「まあまあとれている」が休養がとれている側に数えられている。器具で測る指標ではないため、朝起きたときに回復した感覚があるかを自分で見る形になる。
6時間寝ていれば問題ないということか。睡眠ガイド2023の成人版の推奨は6時間以上を目安とするもので、適正な睡眠時間には個人差があると断っている。実際、ガイドは短い時間でも睡眠が充足する人もいれば、8時間以上の睡眠時間が必要な人もいると書いている。厚生労働省の睡眠に関するページには一般向けの資料も置かれている。
睡眠時間が短い自覚があるとき、まず何から動かすのが現実的か。ガイドが挙げた低下要因のうち、就寝直前の食事と朝食抜きは比較的手がつけやすい側にある。日中のストレスと慢性疾患は一人で動かせる範囲が狭いので、前者を整えながら後者を相談に回す順番になる。
高齢の家族が寝床にいる時間が長い場合はどうみるか。高齢者版の推奨は床上時間が8時間以上にならないことを目安にしており、長い昼寝は夜間の良眠を妨げるため日中の長時間の昼寝は避けて活動的に過ごすことも併せて書かれている。眠れないから寝床にいる時間を延ばす対応は、この目安とは逆向きになる。
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