家の中の話が、年に44万回ほど裁判所の窓口に出ている
家庭の揉めごとは家庭で収まるもの、という前提は数字では裏づかない。最高裁判所の「令和7年司法統計年報 家事編」によると、全国の家庭裁判所が応じた家事手続案内は444,782件である。手続案内は、申立書を出す前にどの手続を使えばよいかを職員が説明する窓口で、事件として記録に残る前の段階にあたる。
裁判所が開いている日を年240日ほどとすれば、全国で1日あたり1,800件を超える勘定になる。各地の家庭裁判所に分散するので1か所あたりでは1日に数件から十数件という規模感で、特別な事情を抱えた一部の人だけが来る場所という印象とは離れている。案内の件数は事件の件数とは別の表で数えられており、案内を受けたあとに申立てへ進まなかった人もここに入っている。
同じ年に家庭裁判所が新たに受け付けた家事事件は1,231,015件だった。この数には相続の放棄の申述や成年後見の開始など、紛争とは言いにくい手続も含まれる。それでも、家族という単位をめぐって年に100万件を超える書類が裁判所に届いていることは変わらない。悩みの総量そのものは測れないが、外に出た部分の輪郭はこうして数えられる。
申立ての種類を並べると、悩みの中身が見えてくる
家族の問題で裁判所を使う場合、多くは調停から入る。調停は裁判官と調停委員が間に入って話し合う手続で、令和7年の受理件数は201,024件だった。この内訳が、何が家庭の中で詰まるのかを種類別に示している。
| 家事調停の種類 | 受理件数(令和7年) | 内訳など |
|---|---|---|
| 婚姻中の夫婦間の事件 | 57,511件 | 夫婦関係の調整や離婚 |
| 子の監護者の指定その他の処分 | 53,823件 | 養育費請求25,356件、面会交流22,777件 |
| 婚姻費用の分担 | 32,189件 | 別居中の生活費 |
| 遺産の分割に関する処分など | 31,899件 | 相続財産の分け方 |
| 親権者の指定又は変更 | 5,649件 | 離婚後の変更を含む |
| 親族間の紛争 | 2,344件 | 夫婦や親子以外の親族間 |
| 扶養に関する処分 | 715件 | 親や兄弟への扶養 |
上の4つが突出していて、いずれも夫婦と子をめぐるお金と時間の配分に関わる。一方で、嫁姑のような親族間の紛争は2,344件、親や兄弟の扶養は715件にとどまる。この二つは相談の場では頻繁に語られる話題なのに、裁判所に出てくる件数はひと桁違う。手続があることを知られていないか、法律で割り切るには向かない種類の悩みなのか、どちらかである。
注意したいのは、調停の件数が「悩んでいる人の数」ではないという点である。申立てには印紙代と書類がいるし、相手方に自分の住所が知られる場面もある。踏み切れる人だけが数に入る。人間関係の悩み解消法で触れたとおり、相談先が家族と友人に偏る構図は、公的な窓口の手前で止まる人が多いことの裏返しでもある。
離婚の申立てで挙げられた動機の順番
同じ統計には、婚姻関係の事件を申し立てた人がどんな動機を挙げたかという表がある。申立人が夫である件数は15,355件、妻である件数は42,136件で、妻からの申立てが3倍近い。動機は申立人が言うもののうち主なものを3個まで挙げる方式で、重複して集計されている。
最も多い動機は夫も妻も「性格が合わない」で、夫9,004件、妻15,646件だった。2位から下は男女で並びが変わる。妻の側では「生活費を渡さない」が12,137件、「精神的に虐待する」が10,995件、「暴力を振るう」が7,025件と続く。夫の側では「精神的に虐待する」3,320件、「浪費する」1,784件、「異性関係」1,823件という並びになる。
性格の不一致という言葉は、当事者が自分の状況を説明するときに使いやすい表現である。その下に別の事情が隠れていることもあるため、首位の数字だけを取り出すと見誤る。注目したいのは「家族親族と折り合いが悪い」で、夫1,685件、妻2,315件が挙げている。夫婦の当事者ではない人の関わりが、婚姻の終わりに向かう理由として記録に残っているということである。
暴力の被害は、4割強がどこにも言われていない
裁判所に届く件数は、悩みの一部にすぎない。内閣府の「令和7年版 男女共同参画白書」は、結婚経験者の25.1%が配偶者から暴力を受けたことがあるとしている。女性は27.5%、男性は22.0%である。被害者のうち10.7%は何度も受けており、こちらは女性13.2%、男性7.2%と差が開く。
そして被害者の44.2%はどこにも相談していない。女性36.3%に対し、男性は57.2%と半数を超える。相談されている内容を見ると約7割に精神的な暴力が含まれ、相談者の年齢は30代から40代が54.4%を占める。つまり働き盛りの世代の家庭で起きていて、その半分近くは誰の耳にも入っていない。
受け止める側の体制は整ってきている。配偶者暴力相談支援センターは令和7年3月時点で317か所あり、うち146か所は市町村が設置したものである。令和6年に終局した保護命令事件は1,516件で、そのうち1,168件で命令が出た。令和6年4月には子への電話等禁止命令が新設され、終局した事件の31.3%で発令されている。窓口と法的手段はあるのに、手前の段階で止まっている人が多いという形になる。
窓口に行く前に、言葉にできる相手がいるか
相談しなかった人の多さをどう読むかが、この問題の実務的な焦点である。窓口を増やしても、自分の状況を説明する言葉を持たない段階では使えない。暴力と呼ぶべきか判断がつかない、家の事情を他人に話すことに抵抗がある、話したあとに生活がどう変わるか想像できない。こうした手前の詰まりは、制度の数を増やしても解けない。
助けになるのは、利害が絡まない相手に一度声に出す経験である。親族は当事者になりやすく、職場の同僚には評価や噂が付いてくる。その点で、仕事や家族と関係のないつながりは役割が違う。趣味や関心でつながる場なら、家の中の立場を持ち込まずに話せるので、FLASPOのような接点を一本持っておくと、整理が先に進むことがある。
家族の問題は、家族の外に出した時点で半分ほど形が変わる。言葉にすると、自分が何に困っているのかの輪郭が決まるからである。裁判所の手続案内が年44万件という数字は、そこまで来た人の記録であって、来ていない人の数は数えられていない。人間関係と家族で確かめたように、同居しているかどうかと安心の度合いは必ずしも一致しない。
よくある質問
家庭裁判所に行くと、必ず離婚の話になりますか。手続案内は、どの手続があるのかを説明する窓口です。令和7年の案内件数444,782件に対して、婚姻中の夫婦間の調停の受理は57,511件ですから、案内を受けた人の多くが調停を申し立てているわけではありません。
親との関係で裁判所を使う人はいるのでしょうか。扶養に関する処分の調停は令和7年に715件、親族間の紛争の調停は2,344件です。件数としては少数ですが、手続自体は用意されています。
司法統計の動機は、裁判所が認定した事実ですか。違います。申立人が主張した動機のうち主なものを3個まで挙げて集計したものです。相手方の言い分や審理の結果とは別の数字として読む必要があります。
男性の被害は少ないのですか。白書の数字では、暴力を受けたことがある人は男性22.0%、女性27.5%です。差はありますが、男性で相談していない人の割合は57.2%と女性より高く、見えにくくなっている分が大きいと読めます。
相談すると、すぐに別居や離婚の手続に進むことになりますか。配偶者暴力相談支援センターは相談を受ける機関で、相談したことが手続の開始を意味するわけではありません。保護命令は裁判所に申立てをして出される別の手続です。
家族の悩みを友人に話すのは気が重いです。身内に属さない相手を複数持っておくと、1人あたりの負担が下がります。相談の場として用意された窓口と、ふだんから接点のある場は別の役割を持つので、両方を細く確保しておくほうが続きます。
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