守ってくれる仕組みが、雇用とは別の場所にある
アルバイトを辞めて業務委託に切り替えた学生が最初に面食らうのは、作業中にケガをしたときの扱いである。雇われていれば労災保険は勤め先の側で手当てされているが、業務委託では自分で入口を探すことになる。令和6年11月1日から、企業などから業務委託を受けるフリーランス(特定受託事業者)は、業種や職種を問わず労災保険に特別加入できるようになった。
ただし自動では付かない。都道府県労働局長の承認を受けた特別加入団体を通じて申請する手順を踏む必要がある。保険料の土台になる給付基礎日額は、加入時に3,500円から25,000円までの16段階から選ぶ。年間保険料はその365日分の0.3パーセントで、日額10,000円を選んだ場合は年間10,950円になる。療養の給付は労災指定の医療機関なら無料で治療を受けられ、休業の給付は休業4日目以降、1日につき給付基礎日額の60パーセント、特別支給金20パーセントと合わせて80パーセントが支払われる(厚生労働省のリーフレット)。
注意したいのは対象の切り方で、企業などから業務委託を受けて行う事業が土台になる。消費者からだけ仕事を受けている人は、この枠では加入できない。失業給付のような仕組みもないため、契約が切れた月の生活費は自分の蓄えで埋めることになる。雇用されている立場との違いは、フリーランスの種類を産業や契約の形で眺めると掴みやすい。
報酬が遅れる、減る、という形で損が出る
では、実際にどんな損が起きているのか。内閣官房新しい資本主義実現会議事務局と公正取引委員会、厚生労働省、中小企業庁が令和4年8月に実施した令和4年度フリーランス実態調査結果は、2,119名の回答を集計している。発注者から納得できない行為を受けた経験を複数回答で尋ねた結果は、報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかったが11.8パーセント、あらかじめ定めた報酬を減額されたが8.5パーセント、やり直しや追加作業に伴う追加費用を負担してもらえなかったが6.3パーセント、市価と比べて著しく低い報酬を不当に定められたが3.8パーセントだった。
「特に受けたことはない」は77.0パーセントなので、多数派は無事に取引している。ただし残りの2割強が踏んでいる地雷は、どれも金銭に直接響くものばかりである。経験があると答えた487名に直近の行為を一つ選ばせると、支払いの遅れが36.1パーセント、減額が21.4パーセント、追加費用の未払いが17.0パーセントと並んだ。順位としては、払われないことと値切られることが上位を占める。
学生の場合、取引先が1社か2社に偏りやすい。全体の統計では1割強の出来事でも、自分の取引先がその1社だったときの影響は大きい。入金が1か月ずれるだけで家賃の支払いが崩れるなら、それは統計上の小さな数字ではなく生活の問題になる。
断れない構図が、学生ではさらに強く出る
不利益を受けた人がなぜ受け入れてしまうのか、同じ調査はその理由も聞いている。受け入れた421名の複数回答では、受け入れないと今後の取引が切られる又は減らされるおそれがあったためが33.7パーセント、その取引が成立しなくなるおそれがあったためが24.2パーセント、既に実施した業務の報酬を払ってもらえなくなるおそれがあったためが15.2パーセントだった。先の仕事と既に働いた分を人質に取られる形になっている。
同じ調査には、発注者が一方的な都合で「今回は当初に取り決めた報酬の額の8割しか支払えない」と伝えてきた場合にどうするかという設問もある。全額払ってもらえるまで交渉すると答えたのは38.8パーセント。一方、受け入れないと今後の取引が切られるおそれがあるからそのまま受け入れるが27.1パーセント、受け入れても事業に特段影響がないためが20.3パーセントだった。交渉の経験そのものについては、交渉の余地があり実際に交渉を行ったが50.9パーセント、余地はあったが行わなかったが19.8パーセント、余地がなかったが28.4パーセントである。
在学中は、この構図が濃くなりやすい。代わりの取引先を探す時間が授業と重なり、実績が薄いぶん「次がない」という不安も大きい。だからこそ、断る判断を感情ではなく条文で裏打ちしておく価値がある。
起きている不利益と、条文の対応を並べる
令和6年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律は、発注側の行為を名指しで禁じている。第5条の禁止行為は1か月以上続く業務委託に適用され、第4条は給付を受領した日から起算して60日の期間内に報酬の支払期日を定めることを求める(再委託の場合は元委託支払期日から30日以内)。調査で挙がった不利益と、根拠になる規定を突き合わせると次のようになる。
| 受けた不利益 | 経験率 | 根拠になる規定 |
|---|---|---|
| 支払いが遅れた・期日に支払われなかった | 11.8% | 第4条(受領日から60日以内に支払期日) |
| あらかじめ定めた報酬を減額された | 8.5% | 第5条第1項第2号(報酬の減額) |
| やり直し・追加作業の費用が出なかった | 6.3% | 第5条第2項第2号(不当なやり直し) |
| 著しく低い報酬を不当に定められた | 3.8% | 第5条第1項第4号(買いたたき) |
| 受取りを拒否された | 1.6% | 第5条第1項第1号(受領拒否) |
| 指定の物やサービスを強制的に購入させられた | 1.4% | 第5条第1項第5号(購入・利用強制) |
6か月以上の継続的な業務委託では、中途解除や更新しない場合に少なくとも30日前までの予告が必要で、育児介護等との両立への配慮も求められる(厚生労働省の就業環境整備の案内)。命令違反や検査拒否には50万円以下の罰金が用意されている。相手に悪意がなく知らないだけのこともあるので、条文の番号を添えて確認を求めるだけで直ることは珍しくない。
年金と申告の手間が、学期の山と重なる
金銭以外の負担も見落とせない。国民年金の学生納付特例は在学中の支払いを待ってもらう制度だが、承認期間は老齢基礎年金の受給資格期間には入るものの、年金額の計算の対象となる期間には含まれない。追納できるのは10年以内で、承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に納めると、当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされる。所得の基準は本人のぶんだけを見て、128万円に扶養親族等の数×38万円と社会保険料控除等を足した額である。免除ではなく先送りだと理解しておかないと、卒業後に請求書の形で戻ってくる。
帳簿の手間も学業と競合する。青色申告特別控除は、正規の簿記の原則にしたがって記帳し、貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告すれば55万円。これに加えて優良な電子帳簿の保存かe-Taxでの送信を満たすと65万円になり、どちらの要件にも当たらない場合は10万円である。申告期限は翌年3月15日で、学年末の試験やレポートの締切と正面からぶつかる時期にあたる。
こうした負担の裏返しが働き方の自由度であり、両者は同じコインの表裏にある。損の側だけを見て判断する前に、フリーランスのメリットとフリーランスのデメリットを並べて読み、自分の時間割に乗る分量を決めるとよい。地域の仕事と学業を往復しながら働き方を考える材料はFLASPOでも扱っている。
よくある質問
報酬が振り込まれないとき、どこに相談すればよいですか。発注側への申入れで動かない場合、フリーランス法の執行は公正取引委員会と中小企業庁長官、厚生労働大臣が担っており、助言や指導、報告徴収、勧告や公表、命令という手段が置かれている。国も相談対応の体制整備を行うものと定められているので、まずは公的な相談窓口に経緯と証拠を持ち込む流れになる。
口約束だけで仕事を始めてしまいました。第3条は、業務委託をした場合に給付の内容と報酬の額、支払期日などを書面又は電磁的方法で直ちに明示するよう発注側に義務づけている。電磁的方法で示された場合でも、書面の交付を求めればそれに応じなければならない。やり取りがメールやメッセージに残っていれば、それも形に残る方法にあたる。
労災の特別加入は、収入が少ない学生でも入る意味がありますか。保険料は給付基礎日額の365日分の0.3パーセントなので、最低の3,500円を選べば年間3,832円にとどまる。撮影や配送、イベント設営のように体を動かす仕事を受けるなら、治療費が全額自己負担になる状況を避ける費用として見合う。机に向かう作業が中心なら、優先度は下がる。
親の扶養から外れるのが怖くて、仕事量を抑えるべきでしょうか。金額の線を知らずに抑えると機会を落とすだけになる。収入の帯ごとに何が起きるかを先に把握してから、受ける量を決める順番が無駄がない。
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