在学中の数年だけ、制度が軽く作られている
社会人がフリーランスになると、国民年金と国民健康保険の保険料が固定費としてのしかかる。在学中はここが違う。20歳で国民年金の被保険者になっても、学生納付特例を申請すれば在学中の保険料の納付が猶予される。所得基準は本人のみで判定し、128万円に扶養親族等の数×38万円と社会保険料控除等を加えた額以下であればよい。
税のほうにも学生向けの枠がある。勤労学生控除は控除額27万円で、合計所得金額が85万円以下、勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下という条件が付く。国税庁の注記ではこの85万円が令和8年分から89万円に上がるとされている。基礎控除は令和7年分で合計所得金額132万円以下の人が95万円なので、両方が効く所得帯なら税額がかなり後ろに押し出される。
固定費が軽い時期に、売上の立ち上がりという一番きつい局面を通過できる。これが在学中に始める最大の実利だ。独立そのものの損得はフリーランスのメリットに公的統計から整理されているが、学生の場合は保険料と控除の二点で前提が変わる。
猶予された期間は老齢基礎年金の受給資格期間には入るものの、年金額には反映されない。10年以内なら追納できる。ただし承認を受けた期間の翌年度から起算して3年度目以降に追納すると、当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされるため、就職して余裕ができたら早めに手を付けたい。
親の扶養は、外れるか外れないかの二択ではない
稼ぎすぎると親の税金が増える、という話は半分だけ正しい。扶養控除では、その年12月31日現在で19歳以上23歳未満の控除対象扶養親族は特定扶養親族にあたり、控除額は63万円になる。大学生の多くがこの区分に入る。
以前はこの線を1円超えると63万円がまるごと消えた。いまは特定親族特別控除という受け皿が置かれている。生計を一にする19歳以上23歳未満の親族等で、控除対象扶養親族に該当しない人がいる場合、合計所得金額に応じて控除が段階的に下がる仕組みだ。62万円超85万円以下なら63万円が維持され、そこから5万円刻みで61万円、51万円、41万円と落ちていき、120万円超123万円以下で3万円になる。
つまり85万円までは親の控除額が変わらない。崖ではなく坂になっているので、年末に受注を止めて所得を調整する必要は以前より小さくなった。なお健康保険の被扶養者の認定は税の扶養とは別の基準で動くため、親の勤務先の健康保険組合にも確認しておきたい。
所得帯ごとに何が起きるかを並べる
判断に必要なのは「いくらまで」ではなく、「この額を超えると何が変わるか」だ。経費を引いたあとの合計所得金額を軸に置くと、動く項目が見えてくる。
| 本人の合計所得金額 | 親の控除 | 勤労学生控除 | 学生納付特例 |
|---|---|---|---|
| 62万円以下 | 扶養控除63万円 | 使える | 所得基準の範囲内 |
| 62万円超85万円以下 | 特定親族特別控除63万円 | 使える | 所得基準の範囲内 |
| 85万円超123万円以下 | 特定親族特別控除61万円〜3万円 | 使えない | 128万円までは範囲内 |
| 123万円超 | 対象外 | 使えない | 128万円を超えると対象外 |
給与だけで働いている場合、国税庁の資料では特定親族特別控除の対象が給与収入で123万円超188万円以下と示されている。業務委託の報酬は給与ではないため、同じ金額でも計算の入口が違う。経費を差し引けるのは業務委託側の利点で、機材や通信費を正しく計上すれば、同じ売上でも合計所得金額は下がる。
法律の保護対象に入る、という地味な利点
内閣官房の2020年の実態調査をもとに中小企業庁がまとめた資料では、フリーランスは本業214万人と副業248万人の計462万人と推定されている。同じ資料は、事業者から業務委託を受けて仕事を行うフリーランスのうち約4割が取引先とトラブルを経験しており、契約条件を明示した書面が交付されていないことがその一因だと指摘している。
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法は、ここに手を入れた。発注事業者は業務委託をした際、書面等により直ちに取引条件を明示する義務を負う。報酬の支払期日は、発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に設定しなければならない。報酬の減額や買いたたきなどの禁止行為は1か月以上の業務委託に適用される。
禁止される行為は7つ挙げられている。受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しだ。募集情報を広告などに載せる際に虚偽や誤解を与える表示をしてはならないという義務もあり、掲載時には氏名、住所、連絡先、業務の内容、業務に従事する場所、報酬の6情報が必要とされている。条件が曖昧な募集に応じて後から削られる、という形の損失はここで防がれる。
6か月以上の継続的な業務委託になると、さらに二つが乗る。中途解除や更新しないことを決める場合は原則として30日前までに予告しなければならず、フリーランス側が理由の開示を請求すれば発注側は応じる必要がある。長期の案件を抱えたまま急に収入が途切れる事態に、法律上の歯止めがかかっている。
この保護は年齢や在学の有無で区別されない。学生のうちに「書面がないまま着手しない」という型を身につけておくと、就職後に副業を持つときにも効く。トラブルの実例や起きやすい落とし穴はフリーランスのデメリットのほうが詳しい。
時間ではなく成果で値段がつく経験
アルバイトの対価は拘束時間で決まるが、業務委託の対価は成果物で決まる。同じ3時間でも、腕が上がれば単価が上がる。この構造を在学中に体験できると、卒業後の進路の見え方が変わる。就職を選ぶ場合でも、見積りを立てて納品し、請求して入金を確認するという一連の流れを通した経験は、そのまま職務の素地になる。
帳簿も資産として積み上がる。青色申告を選べば所得金額から55万円、一定の要件を満たす場合は65万円、または10万円を差し引ける青色申告特別控除が使える。55万円の控除には複式簿記での記帳と、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して期限内に提出することが求められる。学生のうちから記帳を回しておけば、売上が伸びたときに慌てずに済む。
消費税も当面は負担にならない。基準期間、個人事業者ならその年の前々年の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として納税義務が免除される。ただし適格請求書発行事業者の登録を受けると、売上が小さくても免除されなくなる点は押さえておきたい。学びながら働き方を試す選択肢はFLASPOでも紹介している。
よくある質問
学生のうちに始めると、就職に不利になりませんか。業務委託の経験そのものが不利に扱われる根拠はない。むしろ成果物と数字で説明できる実績が残るため、面接で話せる材料は増える。気にすべきなのは守秘義務のほうで、取引先の名前や内容をどこまで公開できるかは契約書に書かれている。確認せずに実績として並べると、そこが問題になる。
学生納付特例を使うと将来の年金が減りますか。猶予された期間は受給資格期間には算入されるが、年金額には反映されない。放置すればその分だけ受け取る額は少なくなる。追納は10年以内に可能で、3年度目以降は加算額が付くため、収入が安定してから早めに納めるのが合理的だ。
親に知られずに始められますか。税の扶養の判定は親の申告に関わるため、所得が一定額を超えれば親側の控除額が変わる。黙って進めると年末調整の時期に食い違いが出る。金額の見込みを先に共有しておけば、85万円までは控除額が変わらないという話も伝えやすい。
単発の仕事でも契約書を求めてよいのでしょうか。発注側には書面等による取引条件の明示義務があり、金額の大小による除外は置かれていない。明示すべき項目には業務の内容、報酬の額、支払期日、業務委託をした日などが含まれる。メールやチャットでの明示も認められているので、口頭で終わらせず文字に残してもらう形で足りる。
出典:国税庁「No.1180 扶養控除」、同「No.1177 特定親族特別控除」、同「No.1175 勤労学生控除」、同「No.6501 納税義務の免除」、日本年金機構「国民年金保険料の学生納付特例制度」、中小企業庁「フリーランスの現状と課題」
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