全国の数字は、上を向いていない
地方で店や会社を始める人が増えている、という話はよく聞く。移住の相談窓口は混み、空き店舗を活用した開業の記事も途切れない。ところが全国を一本の数字でまとめると、向きが逆になる。
中小企業庁の2026年版中小企業白書によると、2024年度の開業率は前年度から0.1パーセントポイント下がって3.8パーセント、廃業率は0.2パーセントポイント下がって3.7パーセントだった。厚生労働省の雇用保険事業年報をもとにした値である。開業も廃業もそろって鈍っており、事業所の入れ替わりそのものが細くなっている。
出口側の件数も同じ白書に載っている。倒産件数は2021年を底に増加へ転じ、2025年は10,300件。休廃業と解散は2025年に67,949件で、前年からは減った。注意したいのは中身の変化で、黒字の状態で休廃業や解散に至った企業の割合は低下を続け、2025年には半数を下回った。やめる理由が「畳むなら今」から「もう回らない」へ寄っている。
この全国値を頭に置いたうえで、地域ごとの内訳に入る。平均の裏に、かなりの幅が隠れている。
都道府県で並べ直すと、2.6倍の差が出てくる
中小企業庁が2025年12月に公表した創業政策のあり方検討会の事務局資料には、都道府県別の開業率と廃業率が載っている。2021年度から2023年度の3年平均で、全国計は開業率4.1パーセント、廃業率3.4パーセントだ。上位と下位を抜くと次のようになる。
| 都道府県 | 開業率 | 廃業率 | 差 |
|---|---|---|---|
| 沖縄 | 6.0% | 3.8% | +2.2 |
| 埼玉 | 4.8% | 3.3% | +1.5 |
| 福岡 | 4.8% | 3.5% | +1.3 |
| 愛知 | 4.8% | 4.0% | +0.8 |
| 全国計 | 4.1% | 3.4% | +0.7 |
| 島根 | 2.7% | 3.2% | -0.5 |
| 新潟 | 2.6% | 3.1% | -0.5 |
| 青森 | 2.6% | 3.5% | -0.9 |
| 秋田 | 2.3% | 3.2% | -0.9 |
最高の沖縄6.0パーセントと最低の秋田2.3パーセントで、2.6倍の開きがある。注目すべきは右端の列だ。上位の県では開業が廃業を上回るのに、下位の県では符号が反転している。秋田や青森、岩手、山形、新潟、島根では、生まれる事業所より消える事業所の方が多い。
同じ資料は、都道府県別の開業率と廃業率のあいだに有意な相関は認められないとも書いている。入れ替わりが盛んな地域と、片方だけが細る地域は、別の現象として扱うべきだということだ。
この指標には限界もある。雇用保険の適用事業所が成立したことを開業、消滅したことを廃業とみなす推計なので、従業員を雇わない一人の事業者は数に入らない。副業や小さな個人事業から始める地域の起業は、構造的にこの統計から漏れる。学生起業の現状でも触れたが、母集団の定義を確かめずに順位だけを読むと見当を外す。
始める人は少なく、続く確率は高いという組み合わせ
同じ事務局資料は国際比較も載せている。米国と英国とフランスの開業率は10パーセント程度で推移しており、日本の水準は明らかに低い。日本政府が2013年に「開業率10パーセント」を目標として閣議決定したのは、この差が出発点にあった。
ところが起業後5年の企業生存率を比べると、日本は約80パーセントで諸外国より高い。始める人は少ないが、始めた事業は残りやすい。資料も、日本のデータは企業情報が収録されている企業のみの集計なので実際より高めに出ている可能性があると注記しているが、方向が逆転するほどではない。
入口の細さは別の指標でも裏づけられる。起業活動指数(TEA)は2023年の日本で6.1パーセントと、他国に比べて低い。成人に占める割合で見ると、創業希望者が3.8パーセント、創業準備者が1.5パーセント、創業者が1.5パーセント。希望者に対する創業者の割合、つまり起業実現率は38パーセントで、米国の30パーセントやフランスの9パーセントを上回る。
並べると構図がはっきりする。日本では、やりたいと思った人のうち実際に始める割合は高い方で、そもそも思う人が少ない。起業に無関心な人の割合が8割弱という水準が、そこを押さえている。地域の起業を増やす話は、意欲のある人を支える段階より前に、関心の層を広げる段階でつまずいていることになる。
国は地域の創業を五つの型に分けて数え始めた
地域の創業を一括りに語ると、話がかみ合わなくなる。古民家カフェと宇宙ベンチャーでは、必要な資金も伸び方も別物だ。中小企業庁の検討会は2025年12月から2026年3月まで5回開かれ、議論の前提として創業を五つに分ける事務局案を示した。
| 類型 | 事業の例 | 初期費用 | 需要の範囲 | 一定期間後の売上高 |
|---|---|---|---|---|
| 地域コミュニティ型 | 飲食、小売、理美容、クリーニング | 数十万〜数百万円 | 地域限定 | 数百万〜数千万円 |
| 地域資源型 | 観光、農産加工、伝統工芸 | 数十万〜数百万円 | 地域〜全国 | 数百万〜数千万円 |
| 地域課題解決型 | 交通、医療・介護、環境保全 | 数十万〜数百万円 | 主に地域限定 | 数百万〜数千万円 |
| 事業拡大型 | ものづくり、IT、物流、建設 | 数百万〜数千万円 | 地域〜全国・海外 | 数千万〜数億円 |
| スタートアップ型 | IT、ものづくり、バイオ、宇宙 | 数百万〜億単位 | 全国〜海外 | 数億円以上 |
上の三つが、いわゆる地域起業にあたる。初期費用は数十万円から数百万円で収まり、需要の範囲は地域に限られ、売上は数百万円から数千万円。創業者の属性として挙げられているのは、地元出身者、シニア、主婦や主夫、事業承継者、専門職、職人、地域活性化志向者、社会起業家である。
地域課題解決型だけは、売上高の欄に「利益より社会的インパクト重視」という但し書きが付いている。交通や医療介護や環境保全を事業で担う型なので、売上の規模で成否を測るのが適切でない場合がある、という整理だ。
この分け方が効いてくるのは、支援策の評価のときである。検討会は類型ごとに適切な指標を検討すると書いている。全国の開業率一本で地域の創業政策を採点してきたやり方からの転換が、ようやく議題に乗ったことになる。
協力隊という入口からは、5年で2,296人が起業している
統計に現れにくい地域の起業を、人の流れから数えた資料がある。総務省の令和7年度の定住状況等に係る調査結果は、令和2年4月から令和7年3月までに任期を終えた地域おこし協力隊員8,762人を追いかけたものだ。公表は令和8年4月で、任期終了者は累計15,045人に達している。
このうち70.3パーセント、6,163人が同じ地域に定住した。活動した市町村のなかに残った隊員は5,038人で、全体の57.5パーセント。近隣市町村に移った人が1,125人、他の地域へ転出した人が2,013人で23.0パーセントにあたる。
なりわいの内訳が本題である。同一市町村内に定住した5,038人のうち、起業が2,296人で45.6パーセント、就業が1,753人で34.8パーセント、就農と就林が583人で11.6パーセント、事業承継が70人。残った人のおよそ半分が、雇われるのではなく自分で始めている。
業種も細かく出ている。飲食サービス業が308名で最も多く、美術家やデザイナーや写真家や映像撮影者が217名、宿泊業が181名、小売業が174名、観光業が130名、猪や鹿の食肉加工のような6次産業が101名、出版・広告業とまちづくり支援業がそれぞれ80名。先の五類型でいえば、地域コミュニティ型と地域資源型にきれいに収まる顔ぶれだ。地域おこし協力隊の起業支援の制度設計が、この分布を後押ししている。
移住の側の実績も合わせて見ておきたい。国の地方創生移住支援事業の交付実績では、令和元年度から令和7年度までの累計が14,378件、移住人数で30,557人。令和7年度の単年では3,170件、6,771人である。都道府県別では静岡が1,465件、群馬が1,152件、栃木が900件、長野が884件と続く。地方移住の支援制度の広がりが、地域の起業の母数をつくっている。地域と担い手をつなぐ取り組みはFLASPOでも紹介している。
よくある質問
開業率が低い県で始めるのは不利なのか。この数字だけでは決まらない。開業率は雇用保険の適用事業所の動きから推計した値で、競争の激しさや需要の大きさを直接測ったものではない。開業率が廃業率を下回る県では、既存の事業者が減っているぶん、引き継げる設備や顧客が残っている場合もある。
沖縄の開業率が突出しているのはなぜか。資料は理由を示していないため、ここで断定はできない。人口の増加や観光需要といった要因が挙げられることが多いが、同じ資料の廃業率も3.8パーセントと全国平均より高い。入れ替わりが激しい市場だという読み方が、数字に忠実である。
地域おこし協力隊の起業は、任期中に準備できるのか。調査の起業の数には準備中を含むと注記されており、任期終了の時点で立ち上げ途中の人も数えられている。任期は最長3年で、その間に住民票を移して活動する仕組みなので、地域での準備期間として使われていると見てよい。
全国の開業率が3.8パーセントまで下がったのに、地域の起業の話が増えているのはなぜか。母集団が違う。開業率は雇用者を持つ事業所の統計で、一人や二人で始める地域の事業は多くが外れる。協力隊の調査のように人を追う資料と、事業所を数える統計を、別々に読む必要がある。
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