ソーシャルビジネスの始め方|法人格の選び方と手続の期間を確かめる

ソーシャルビジネスの始め方|法人格の選び方と手続の期間を確かめる

やりたいことより先に、入れる器が決まってしまう

地域の困りごとを事業で解きたい、という相談でまず詰まるのは、事業の中身ではない。どの法人格で登記するかである。ここが決まらないと、かかる費用も、登記にたどり着くまでの日数も、借りられる先も動かせない。

法律に「ソーシャルビジネス法人」という器は用意されていない。すでにある法人格のどれかを選んで、そこに事業を入れることになる。現実的な候補は四つで、株式会社、合同会社、一般社団法人、特定非営利活動法人(NPO法人)である。

四つを分ける一番大きな線は、設立の途中に行政の判断が入るかどうかだ。会社と一般社団法人は、定款を用意して法務局で登記すれば成立する。NPO法人だけは、登記の前に所轄庁の認証という関門がある。内閣府の認証制度の概要によれば、認証は原則として書面で審査され、基準に適合すると認められれば所轄庁は認証しなければならない。裁量で落とされる制度ではないが、日数は確実にかかる。

つまり、急ぎたいなら会社、寄付や会費を集めたいならNPO法人、という単純な住み分けではない。費用と日数と資金の集め方が、器ごとに別々の形で効いてくる。順に数字で確かめていく。

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四つの器を、登録免許税と認証手数料で並べ直す

設立にかかる公的な費用は、登録免許税と定款の認証手数料でほぼ決まる。国税庁の登録免許税の税額表、日本公証人連合会の定款認証に要する費用、法務局の一般社団法人設立登記申請書の記載例、新潟県の設立登記の案内から、四つを同じ表に置くと次のようになる。

法人格 登録免許税 定款の認証手数料 行政の認証
株式会社 資本金の1000分の7(15万円未満なら15万円) 1万5,000円〜5万円 不要
合同会社 資本金の1000分の7(6万円未満なら6万円) 不要 不要
一般社団法人 6万円(主たる事務所の所在地) 5万円 不要
NPO法人 非課税 不要 所轄庁の認証が必要

株式会社の最低15万円が目立つが、合同会社なら6万円、一般社団法人も6万円で、資本金の額に左右されない。NPO法人は登録免許税がかからず、定款を公証人に認証してもらう必要もない。公的な費用だけを見れば、NPO法人が最も軽い。

株式会社の認証手数料には幅がある。資本金100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満で4万円、それ以上は5万円。さらに会社の定款手数料の改定のとおり、資本金100万円未満で、発起人が全員自然人かつ3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける、取締役会を置かない、の三つをすべて満たすと1万5,000円に下がる。令和6年12月1日からの扱いである。

見落ちやすいのが定款の形式だ。紙で作ると収入印紙4万円が必要になるが、電子定款なら貼らなくてよい。登記用の謄本は1ページ250円で、8ページほどなら2,000円前後。細かいが、最低限の資本金で始める人にとっては認証手数料の差と同じ重みを持つ。

NPO法人を選ぶと、最初に埋まるのは財布よりカレンダー

費用が軽い代わりに、NPO法人は時間を払う。先の認証制度の資料から手順を日数つきで並べると、全体像がはっきりする。申請書を所轄庁に出し、受理された日から2週間、書類の一部が公衆の縦覧に供される。縦覧が終わってから2か月以内に、認証か不認証かが書面で通知される。条例でこれより短い期間を定めている所轄庁なら、その期間内だ。

認証の通知が届いたら、2週間以内に主たる事務所の所在地で設立登記をする。登記が済んだら、遅滞なく登記事項証明書と財産目録を添えて所轄庁に届け出る。認証から6か月を過ぎても登記しないままだと、所轄庁は認証を取り消すことができる。

逆算すると、申請から登記までおよそ2か月半を見ておく必要がある。助成金の締切や事業の開始時期が先に決まっている場合、ここが致命傷になりやすい。

人の要件も先に満たしておく。社員は10人以上、役員は理事3人以上と監事1人以上。報酬を受ける役員は役員総数の3分の1以下に収めなければならない。宗教活動や政治活動を主な目的にしないこと、特定の公職者や政党を推薦・支持・反対する目的でないことも基準に入っている。名前を貸してもらうだけの10人ではなく、総会で議決権を持つ10人を集める話だと考えた方がよい。ソーシャルビジネスとNPOの違いで整理したとおり、利益の行き先が構成員に向かないという前提も変わらない。

借りる側には、社会性のための別枠が用意されている

自己資金だけで立ち上がる事業は多くない。日本政策金融公庫のソーシャルビジネス支援資金は、社会的な事業に的を絞った融資制度である。NPO法人は法人格だけで対象になり、NPO法人以外は保育サービス事業や介護サービス事業を営む場合か、社会的課題の解決を目的とする事業を営む場合に限られる。後者には公庫が定める要件がある。

限度額は7,200万円で、各種融資制度とは別枠として扱われる。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内、どちらも据置期間は5年以内。利率も区分が細かく、認定NPO法人や、社会的課題の解決を目的とする事業を営む場合は特別利率A。過疎地域内で行う事業の資金や、新規開業しようとする人とおおむね7年以内の人は特別利率Bになる。日本政策金融公庫の創業融資と組み合わせて考えると選べる幅が広がる。

返さなくてよい側の代表が起業支援金だ。国の起業支援金・移住支援金の案内では、社会性と事業性と必要性の観点を持つ起業、つまり社会的事業に最大200万円。東京圏からのUIJターンで移り住むなら移住支援金が最大100万円、単身の場合は最大60万円で、移住して社会的事業を起こすと合わせて最大300万円になる。

ただし実施するのは国ではなく地方公共団体である。実施期間も支給額も自治体ごとに違い、そもそも実施していない市町村もある。補助金と助成金の違いでも触れたとおり、募集要領を読む前に金額を当てにしないのが安全だ。

初期費用は、全国の分布から逆算した方が早い

いくら用意すれば足りるのか。公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査が、分野を限らない全国の実額を示している。開業費用の平均値は975万円だが、中央値は600万円。分布を見ると250万円未満が20.1パーセント、250万円以上500万円未満が21.7パーセントで、合わせて4割を超える。平均が中央値を大きく上回るのは、少数の大型案件が引っ張っているからだ。長期的には少額化の傾向にある。

調達の内訳も参考になる。開業時の資金調達額は平均1,219万円で、うち金融機関等からの借り入れが827万円、割合にして67.9パーセント。自己資金は279万円である。借入が7割近くを占める構造は、社会的な事業でも変わらないと見ておくのが現実的だろう。

苦労の中身も数字で出ている。開業時に苦労したことは、資金繰りと資金調達が56.9パーセントで最多、次が顧客と販路の開拓で49.9パーセント、財務や税務や法務に関する知識の不足が36.4パーセント。開業時の平均従業者数は2.8人で、3年連続して3人を下回った。少人数で始めて、資金と販路でつまずくのが標準的な姿である。

この三つを裏返すと、始める前にやることが決まる。資本政策を数字で作る、最初の顧客を名前で決めておく、会計と税務を任せる相手を押さえる。地域の担い手を探している自治体や企業の動きはFLASPOでも追えるので、組む相手を先に見つけてから器を選ぶ順番も十分ありうる。

よくある質問

法人を作らずに始めることはできるか。できる。公庫のソーシャルビジネス支援資金は、社会的課題の解決を目的とする事業を営む人であれば法人格を問わない。一方で起業支援金は自治体が主体なので、法人設立を条件にしている地域もある。順番を間違えないよう、窓口で先に確かめるのが確実だ。

株式会社とNPO法人のどちらが資金を集めやすいか。集め方が違う。株式会社は出資を受け入れられるが、NPO法人はできない。代わりに公庫の利率区分では、認定NPO法人が特別利率Aに置かれている。出資で伸ばす事業なら会社、寄付と会費と融資で回す事業ならNPO法人、という見当になる。

認定NPO法人は設立と同時に取れるのか。認定は設立後に受ける仕組みで、所轄庁の審査が別に入る。設立の段階で名乗れるものではないため、融資の利率を当てにした事業計画は作らない方がよい。

定款を電子にすると、どれだけ違うのか。紙の定款に必要な収入印紙4万円が不要になる。株式会社の認証手数料が最低で1万5,000円まで下がる現在、印紙代4万円は設立費用のなかで最も大きな削りどころになっている。


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