学生の相談は増えているのに、件数は減っている
大学のゼミや高校の探究の時間で、社会課題を事業にする話を聞く機会は確かに増えた。ところが実際に資金を借りて事業を立てた人数を数えると、その手ごたえと向きが合わない。実感と統計がずれるとき、信じるべきは後者である。
日本政策金融公庫が2026年5月25日に公表した令和7年度のソーシャルビジネス関連融資実績では、社会的課題の解決を目的とする事業者向け8,818件のうち、30代以下が2,631件だった。前年度比は97.9パーセント。40代以上がそろって伸びているなかで、若い層だけが前年を割っている。
構成比で追うと動きがもっとはっきりする。公表値から割り算すると、30代以下の占める割合は令和4年度31.2パーセント、令和5年度31.3パーセント、令和6年度32.1パーセント、令和7年度29.8パーセント。4年ぶりに3割を下回った。件数の減り幅は56件と小さいが、全体が5.3パーセント伸びているなかでの減少なので、比率の落ち方は見た目より大きい。
年代ごとに並べると、伸びている層が逆さに見える
同じ資料の年代別の表を、件数と前年度比、それに構成比を添えて並べ直すと次のようになる。構成比は公表されていないため、件数から割り出した値である。
| 年代 | 令和7年度の件数 | 前年度比 | 構成比(算出値) |
|---|---|---|---|
| 30代以下 | 2,631 | 97.9% | 29.8% |
| 40代 | 2,901 | 108.2% | 32.9% |
| 50代 | 1,867 | 106.6% | 21.2% |
| 60代以上 | 1,419 | 112.8% | 16.1% |
| 合計 | 8,818 | 105.3% | 100.0% |
伸び率は年代が上がるほど高い。60代以上の112.8パーセントが最大で、30代以下の97.9パーセントが最小という並びである。定年前後で社会課題へ向かう人が増え、若い層は足踏みしている。令和4年度と比べると、30代以下は2,366件から2,631件へ増えてはいるのだが、同じ期間に40代が2,209件から2,901件へ伸びており、追い越されている。
なお、この表は融資を受けた事業者の年代であって、新しく始めた人だけを数えたものではない。既に事業を回している人も含まれる。若者の起業意欲そのものを測った数字ではない点は、読むときに外せない。
そもそも開業する人の平均年齢が、上がり続けている
若い層の足踏みは、社会課題の分野に限った話なのか。分野を限らない統計と突き合わせると、別の背景が見えてくる。公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査によると、開業時の年齢は40歳代が36.9パーセントで最多、30歳代が28.0パーセント、29歳以下は7.0パーセントだった。平均年齢は43.9歳で、調査開始以来もっとも高い。
この調査は1991年度から続いている。初年度の内訳は29歳以下が14.5パーセント、30歳代が39.9パーセントで、平均年齢は38.9歳だった。34年かけて5歳ぶん上がり、二十代の割合は半分以下になった。社会課題の分野で若者が目立たないのは、日本の開業全体が同じ方向に動いているからだと分かる。
二つの数字を並べるときは注意がいる。公庫の融資実績は年代別の件数、新規開業実態調査は開業した時点の年齢であって、母集団も数え方も別だ。29歳以下7.0パーセントと30歳代28.0パーセントを足した35.0パーセントを、社会課題分野の29.8パーセントと直接比べることはできない。それでも二つがそろって高齢側へ寄っている事実は共通している。
若い世代が受け取っているものは、金額の欄に出てこない
では、少数でもこの道を選ぶ人は何を得ているのか。同じ調査の満足度が手がかりになる。総合的な満足度は「かなり満足」31.8パーセントと「やや満足」43.1パーセントを合わせて74.8パーセント。項目別では仕事のやりがいが84.4パーセントと際立ち、ワークライフバランスが54.7パーセント、事業からの収入は28.3パーセントにとどまる。
報酬で測ると割に合わないのに、能力を使えている感覚では八割を超える。この偏りは、就職か起業かという比較軸では捉えにくい。給与の多寡を並べる土俵から降りたところに動機があるなら、進路の相談で収入の見通しだけを示しても噛み合わないわけだ。
動機の集計も見ておきたい。現在の事業に決めた理由では、これまでの仕事の経験や技能を生かせるからが43.8パーセントで最多、地域や社会が必要とする事業だからは14.3パーセントだった。2023年度13.6、2024年度13.5、2025年度14.3と、七人に一人の水準で動いていない。経験を資本にする道が本流で、社会の必要から選ぶ道は細いが途切れていない。学生の段階で職歴という資本を持たないことが、若い層の件数が伸びにくい理由のひとつだと説明がつく。
若いうちに入るなら、どの入口を使えるのか
経験が足りないことは、制度の上では必ずしも不利ではない。公庫の枠では、ソーシャルビジネス関連融資18,032件のうち創業前および創業後1年以内への融資が6,577件を占め、割合は36.5パーセント。令和4年度から35.6、37.8、38.4、36.5と推移しており、三割台半ばが4年続いている。開業前の相談から入る道は細くなっていない。
器の制約も薄い。三つの融資区分のうち法人格を条件にしているのはNPO法人向けだけで、8,818件が動いた区分には法人格の指定がない。学生のうちは個人事業で始め、規模が見えてから法人に移すという順序でも窓口は閉じない。どんな器があるかはソーシャルビジネスの種類に、実際に回っている事業の型はソーシャルビジネスの事例にまとめてある。
分野の選び方も効く。令和7年度の活動分野別の構成比では、保健・医療又は福祉の増進が27.5パーセント、農山漁村又は中山間地域の振興が11.6パーセント、まちづくりの推進が8.8パーセント、観光の振興が8.5パーセント。資格や施設が要る分野は若いうちは重く、来訪者から直接代金を受け取る分野は始めやすい。地域の課題を事業に変えた実例や相談先はFLASPOにも集まっている。
よくある質問
若者の起業は本当に減っているのですか。社会課題の分野では30代以下の融資が2,631件で前年度比97.9パーセント、構成比は29.8パーセントまで下がりました。ただし件数自体は令和4年度の2,366件より多く、減少というより伸び悩みです。
学生のうちから始められますか。制度の上では妨げがありません。創業前と創業後1年以内への融資が全体の36.5パーセントを占めており、実績が無い段階から入る枠が用意されています。
就職してから始めたほうが有利ですか。統計はその方向を示しています。事業を決めた理由の最多は過去の経験や技能を生かせることで43.8パーセント。勤めて得た技能が元手になるため、回り道が無駄にならない設計は考えておく価値があります。
収入はどのくらい期待できますか。金額の統計はありませんが、収入に満足と答えた割合は28.3パーセントです。やりがいの84.4パーセントとの差を見て、何を受け取りに行くのかを先に決めておくとよいでしょう。
社会貢献とビジネスの線引きが分かりません。線は収入の出どころにあります。寄付や会費で回すのか、対価で回すのかで扱いが変わるため、ソーシャルビジネスの定義で三つの要件を確かめてから自分の構想を当ててみてください。
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