学生起業と若者|起業家の38.2%が29歳以下という分布を読む

学生起業と若者|起業家の38.2%が29歳以下という分布を読む

若者は起業に向かわない、という言い方の当否

日本の若者は挑戦しなくなった、という話は定期的に流れてくる。安定志向が強い、失敗を恐れる、大企業に行きたがる。語り口は違っても、結論はおおむね同じところに着地する。

ところが実際の調査を開くと、年齢と起業の関係は通説とずれている。若い層は起業から遠いどころか、起業している人の集団のなかで最も厚い層を占めている。

このずれは、何を分母に置くかで生じる。人口全体のなかで起業した人を数えれば、どの年代もごく少数になる。一方、起業した人の内訳を年代で割れば、20代の存在感は大きく変わって見える。

以下では、日本政策金融公庫総合研究所と経済産業省の調査から、若者と起業の距離を四つの角度で測る。年代構成、人口に占める割合、関心から実行までの距離、そして舞台がどこに移りつつあるかを順に見ていく。

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29歳以下の比率は、どの層よりも起業家で高い

公庫の2025年度起業と起業意識に関する調査は、全国の18歳から69歳までを対象に、人口構成に合わせた2万人の事前調査を行っている。そこで四つの類型に分けた人たちの年代構成を並べると、傾向がはっきり出る。

類型 29歳以下 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代
起業家(n=144) 38.2% 20.8% 18.8% 16.0% 6.3%
パートタイム起業家(n=952) 34.3% 20.5% 21.5% 11.4% 12.2%
起業関心層(n=1,950) 25.3% 21.1% 27.9% 17.8% 7.9%
起業無関心層(n=12,614) 16.5% 17.5% 22.7% 22.2% 21.2%

週35時間以上を事業に充てる起業家では、29歳以下が38.2%で最も厚い。事業に充てる時間が週35時間未満のパートタイム起業家でも34.3%を占める。起業に関心のある層では25.3%に下がり、関心のない層では16.5%まで落ちる。

並べ方を変えると、同じことが別の形で見える。起業から遠い層ほど年齢層が上に寄り、近い層ほど下に寄っている。無関心層だけが50歳代と60歳代を合わせて4割を超え、他の三つの類型とは重心が違う。

ここから言えるのは、若者が起業しないのではなく、起業する人のなかに若者が多いということである。挑戦しない世代という描き方は、少なくともこの調査からは支持されない。

それでも、人口の多数派はいまも無関心層

比率の話を続けると、現実を見誤る。同じ事前調査の2万人を類型で割ると、起業無関心層が12,614人で63.1%を占めた。以前も今も起業に関心がないと答えた人が、6割を超えている。

一方、起業関心層は1,950人で9.8%。実際に2021年から2025年までに起業した人は、起業家が144人で0.7%、パートタイム起業家が952人で4.8%だった。週35時間以上を事業に充てている人に限れば、全体の1%に満たない。

つまり、どの年代を切り取っても起業は少数派の行動である。29歳以下の比率が高いことと、29歳以下の多くが起業していることは、まったく別の命題になる。前者は起業者の内訳の話で、後者は人口の話だ。

この区別は、自分の進路を考えるときにも効く。周囲に起業した同級生が一人もいないのは珍しいことではなく、分布から見れば当たり前に近い。孤立しているように感じても、それは選んだ道の人口密度が低いだけである。

だからこそ、同じ選択をした人に会える場所の価値が上がる。学内の起業部やビジネスコンテスト、自治体の創業支援窓口は、密度の低さを人工的に上げる装置として働く。

関心から実行までの距離は、思ったより長い

関心を持った人がそのまま動き出すわけではない。起業関心層に予定を尋ねた設問では、10年以内に起業するが17.8%、いずれは起業したいが時期は未定が39.5%で、合わせて57.3%が起業したいと答えている。

ただし時期を区切ると数字は急に小さくなる。1年以内に起業すると答えたのは3.5%、1年から3年以内が5.6%、3年から5年以内が4.8%、5年から10年以内が3.9%である。残りの39.5%は時期を定めていない。

年齢別では、起業したいとする割合は60歳代の64.8%と29歳以下の60.1%で高い。若い層と退職期が近い層の両端で意欲が高く、働き盛りの中間層でいったん下がる形になっている。

在学中という時期が持つ意味は、この分布のなかで考えると分かりやすい。いずれはという答えを選んだ人の多くは、守るものが増えるにつれて時期を先送りする。学生は失う安定収入をまだ持っておらず、先送りする理由が最も少ない位置にいる。

在学中だから使える条件を整理した記事はこちらに、年齢と手続きの関係は年齢の決まりを確かめた記事にまとめている。

舞台は東京の外へ広がりつつある

若者の起業がどこで起きているかも、ここ数年で動いている。経済産業省の令和7年度大学発ベンチャー実態等調査によると、2025年10月時点の大学発ベンチャーは6,220社で、前年度から1,146社増えた。

注目したいのは増えた場所である。増加分のうち海外に所在するものを除いた1,093社について見ると、約60%にあたる656社が東京都以外で創業されていた。前々年度から前年度への増加分では約54%だったので、地方の比率が上がっている。

大学別の伸びも同じ方向を指す。2024年度と比べた増加率では岩手大学が850.0%で首位に立ち、2社から17社へ増えた。金沢大学が485.7%で7社から34社、関西大学が314.9%で47社から148社と続く。東北、中部、近畿の大学が並んでいる。

地方の大学に通う学生にとって、この変化は直接の追い風になる。都市に出なければ始められないという前提が崩れつつあり、地域の課題を題材にした事業が地元で立ち上がる経路ができてきた。地域と若者の関係をどう設計するかという論点はFLASPOでも扱っている。

ただし増加率の分母は小さい。2社が17社になった伸びと、468社が595社になった伸びを同じ尺度で語ることはできない。地方で裾野が広がり始めたという事実と、集積がまだ都市に偏っているという事実は、どちらも同時に正しい。

よくある質問

若者の起業は増えているのですか

年代別の時系列を示した公的な統計は限られており、増減を断定できる材料は確認できなかった。言えるのは、2025年度の調査で起業家に占める29歳以下の割合が38.2%と、他のどの年代より高かったことである。推移ではなく構成比の話として受け取るのが正確になる。

海外と比べて日本の若者の起業意欲は低いのですか

国際比較は調査の設計が国ごとに異なるため、単純な優劣の比較には向かない。国内の数字で確かめられるのは、起業無関心層が63.1%という水準の高さと、その無関心層のなかで29歳以下の比率が16.5%と最も低いことである。若い層ほど関心側に寄っている構図は読み取れる。

起業に関心があるのに動けないときは何から始めればよいですか

時期を決めることが分岐点になる。いずれはと答えた人が39.5%いる一方、1年以内と答えた人は3.5%しかいない。この差は能力ではなく期限の有無から生まれている。半年後に何を世に出すかを紙に書くところから始めると、必要な準備が自動的に絞り込まれる。

地方の大学でも起業できますか

直近の増加分のうち約60%が東京都以外で創業されており、地方の大学からの創出が増えている。大学の産学連携部門や自治体の創業支援制度が整ってきたことが背景にある。所在地より、相談できる相手が身近にいるかどうかのほうが、進み方を左右する。

就職してから起業するのでは遅いのですか

遅いということはない。起業関心層で起業したいと答えた割合は60歳代が64.8%と最も高く、年齢が上がってから踏み出す人は一定数いる。ただし時期を未定のままにすると、守るものが増えるにつれて先送りされやすい。いつ決めるかを先に決めておくことが、実行との距離を縮める。


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