何をもって成功と呼ぶのかを決めないと、比べようがない
成功例を知りたいという気持ちの裏には、たいてい「自分の構想が筋の通ったものかを確かめたい」という目的がある。ところが並んでいる記事の多くは上場した会社と資金調達額の大きい会社を集めたもので、読み終えても自分との距離がつかめない。
比べるには尺度がいる。上場したかどうか、他社に買われたかどうか、事業が何年続いているか、売上がいくらあるか。どれも成功の指標として使われるが、満たしている会社の数はまったく違う。桁が違う指標を混ぜて読むと、見通しが狂う。
幸い、大学と関わりのあるベンチャーについては出口の実数が毎年数えられている。経済産業省の大学発ベンチャー実態等調査には、上場している企業数、上場までに要した年数、M&Aの件数、解散した企業数、売上高の分布が揃っている。
以下では、その四つの指標を順に見ていく。学生が関わる企業は大学発ベンチャーの28%を占める類型なので、分布の性格を知るうえで有効な代理指標になる。読み終えたときに、どの成功を自分の目標に据えるのかが決められる状態を目指す。
上場という出口にたどり着いた企業は66社
もっとも分かりやすい出口は株式上場である。2025年度の調査時点で上場している大学発ベンチャーは合計66社だった。時価総額の合計は1兆8,795億円で、前年度から1,919億円増えている。
数の動きは落ち着いている。この調査の回答企業で、上場したことが新たに判明した企業は1社。2025年の新規上場は0社だった。同じ年、東証への新規上場はTOKYO PRO Marketを含めて112件あったので、そのなかに大学発ベンチャーの新顔はいなかったことになる。
6,000社を超える母集団に対して66社という数は、割合にすればおよそ1%である。上場を成功の定義に置くかぎり、成功例は100社に1社の話になる。目標として掲げるのは自由だが、自分の進み方を日々測る尺度には向かない。
上場の仕組みそのものを押さえておきたい場合は、ベンチャーとIPOの関係を扱った記事が入口になる。何年も先の出口であっても、株主構成や資本政策の初期設計はそこから逆算して決まる部分がある。
上場までに何年かかっているか
次に時間を見る。上場した大学発ベンチャー73社について設立から上場までの期間を集計すると、5年未満は10%にすぎない。最も多いのは5年から9年の38%で、10年から14年が34%を占める。15年以上かかった企業も合わせて18%ある。
| 設立から上場までの期間 | 全体(n=73) | 研究成果ベンチャー(n=33) | その他のベンチャー(n=40) |
|---|---|---|---|
| 5年未満 | 10% | 12% | 8% |
| 5〜9年 | 38% | 30% | 45% |
| 10〜14年 | 34% | 39% | 30% |
| 15〜19年 | 14% | 12% | 15% |
| 20年以上 | 4% | 6% | 3% |
類型で分けると差が出る。設立から10年未満で上場した企業の割合は、研究成果ベンチャーが約4割にとどまる一方、それ以外のベンチャーでは5割を超える。研究の事業化は臨床試験や量産設計に時間を要するため、出口までの道が長くなりやすい。
在学中に会社を持った人にとって、この表の意味は重い。最も多い5年から9年をそのまま当てると、22歳で設立した会社が上場に届くのは27歳から31歳ごろになる。学生のうちに結果が出る種類の目標ではない、ということである。
買われるという出口は、年に十数社の規模
上場と並ぶもう一つの出口がM&Aである。2025年度にM&Aが確認された大学発ベンチャーは14社だった。年度ごとの件数と、そのうち学生ベンチャーに分類された件数を並べると、規模の感覚がつかめる。
| 年度 | M&Aが確認された企業数 | うち学生ベンチャーに分類 |
|---|---|---|
| 2019年度 | 5社 | 1件 |
| 2020年度 | 4社 | 記載なし |
| 2021年度 | 1社 | 1件 |
| 2022年度 | 1社 | 記載なし |
| 2023年度 | 13社 | 3件 |
| 2024年度 | 11社 | 2件 |
| 2025年度 | 14社 | 無回答5件を含む |
2022年度までは年に数社だったものが、2023年度以降は十社を超えて推移している。買い手が大学発の技術やサービスを事業に組み込む動きが広がったと読める。学生ベンチャーに分類された件数も、2023年度の3件が目立つ。
ただし件数自体は小さい。学生が関わる企業で買収まで至った例は、年に数件という水準である。ここを成功の定義に据えると、上場よりは近いが、やはり例外的な到達点だということになる。なお集計対象は調査に回答した企業に限られる点にも注意したい。
件数の推移や業種の内訳は令和7年度大学発ベンチャー実態等調査の報告書に年度別の表で載っている。自分の事業領域で買収が起きているかどうかは、業種の欄で確かめられる。
続いていること自体が、数字のうえでは成果になる
出口に届いた企業の少なさは、別の指標の価値を押し上げる。直近1年に新しく設立された大学発ベンチャーは424社、同じ期間に解散などで姿を消したのは122社だった。解散等の件数は2023年度の76社、2024年度の84社から続けて増えている。
売上高の分布も見ておきたい。回答した527社のうち最も多かったのは1,000万円以上5,000万円未満の140社で、次が1億円以上10億円未満の81社、その次が売上0円の80社である。研究段階で売上が立っていない企業と、億円規模まで来た企業が同じ母集団に同居している。
この並びから読めるのは、成功の階段が上場かM&Aかという二択ではないことである。回答した527社のうち4社に1社あまりが、売上を1,000万円以上5,000万円未満の水準まで持ち上げている。解散に至らず翌年も事業を続けている状態は、分布のなかで十分に上側だと言える。
目標を一段手前に置き直すと、やるべきことも具体化する。最初の取引先を1社つくる、黒字でなくても事業を1年回す、といった区切りである。在学中に負荷がかかる部分は学生起業のデメリットを整理した記事に、母集団全体の規模は現状をまとめた記事にある。学生の挑戦を地域の仕事につなぐ取り組みはFLASPOでも続けている。
よくある質問
学生起業の成功率はどのくらいですか
成功率という形で算出された公的な統計は見当たらない。分かるのは出口の実数で、上場している大学発ベンチャーが66社、M&Aが年に十数社という水準である。率として語られている数字を見かけたときは、分母が何に置かれているかを確かめたほうがよい。
在学中に上場した例はありますか
設立から上場までの期間は5年未満が10%にとどまり、最も多いのは5年から9年である。学部の4年間で上場に届く確率は、この分布から見れば相当に低い。在学中の到達点としては、売上を立てること、法人として事業を1年続けることのほうが現実的な目標になる。
解散した会社は失敗したということですか
調査は解散とM&Aを合わせて解散等として数えており、理由までは区別していない。事業を他社に譲ってから法人を閉じた例も含まれる。数字の上で消えたことと、挑戦が無駄になったことは別の話なので、件数だけで判断しないほうがよい。
売上0円の会社が80社あるのはなぜですか
研究成果の事業化を目指す企業は、製品が市場に出る前の期間が長い。臨床試験や認証の取得を進めている段階では売上が立たないため、助成金や投資で開発費を賄っている。母集団に研究成果ベンチャーが多く含まれていることの反映だと読める。
どの指標を自分の目標にすべきですか
期間の長さで選ぶのが扱いやすい。数か月で測れるのは最初の受注と継続、数年で測れるのは売上の水準、十年単位で測るのが上場やM&Aである。短い尺度を手元に置き、長い尺度は方向の確認に使うと、途中で判断を誤りにくくなる。
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