「学生に来てほしい」では、一人も絞れていない
対象を決める段で止まる原因は、だいたい母数の大きさを把握していないことにある。学生という言葉で指している範囲がどれくらいなのかを知らないまま絞ろうとするので、絞った気になって終わる。
文部科学省の令和8年度学校基本調査の速報によれば、大学の在学者数は300万542人で、うち学部が266万4,194人、大学院が28万4,802人である。大学は816校あり、国立85校、公立104校、私立627校という構成だ。短期大学は290校で6万5,684人、高等専門学校は58校で5万6,249人、専門学校は2,647校で58万229人となっている。
合わせて400万人に近い。この規模に向けて告知をするのは不可能なので、どこかで切る必要がある。切り方を三段に分けると、途中で迷わなくなる。母数、関心、到達手段の順である。
第一段は母数。学校の種類で構成がまるで違う
同じ調査には学校種別の女子学生の比率も載っている。ここを見ると、学生という括りが実はかなり雑であることが分かる。
| 学校の種類 | 学校数 | 在学者数 | うち女子の比率 |
|---|---|---|---|
| 大学(学部) | 789校 | 2,664,194人 | 46.4% |
| 大学(大学院) | 667校 | 284,802人 | 33.2% |
| 大学(通信教育) | 59校 | 242,460人 | 54.5% |
| 短期大学 | 290校 | 65,684人 | 82.9% |
| 高等専門学校 | 58校 | 56,249人 | 24.5% |
| 専門学校 | 2,647校 | 580,229人 | 57.6% |
短期大学は8割以上が女子学生で、高等専門学校は4分の1に届かない。通信教育の学部には23万5,942人が在籍し、女子の比率は54.8パーセントである。同じ「大学生」という言葉でも、通学している人と通信教育で学んでいる人では生活時間がまったく違う。
母数を決めるとは、この表のどの行を相手にするのかを選ぶ作業だ。学部生に絞るだけで266万人、首都圏の私立大学に絞ればさらに小さくなる。選んだ行が決まれば、どこに告知を置けば届くのかという次の問いが具体になる。数字の原典は文部科学省の学校基本調査にある。
第二段は関心。興味の有無では絞れない
次に「◯◯に興味がある人」で絞ろうとするのだが、ここに落とし穴がある。総務省の令和3年社会生活基本調査では、趣味・娯楽の行動者率が15歳から19歳で94.4パーセント、20歳から24歳で95.2パーセントになっている。何かしらの趣味を持っている人は、ほぼ全員である。
一方で学習・自己啓発・訓練の行動者率は、15歳から19歳が52.9パーセント、20歳から24歳が56.5パーセントだった。2016年と比べると10歳から14歳が5.9ポイント、30歳から34歳が7.1ポイント上昇しており、学ぶ側の行動は広がっている。半分という水準は、絞り込みとしては意味を持つ。
つまり関心で絞るなら、持っているかどうかではなく、どの種類の行動をしているかで切る必要がある。趣味・娯楽の種類別行動者率を見ると、音楽鑑賞が53.5パーセント、スマートフォンや家庭用ゲーム機によるゲームが42.9パーセント、マンガを読むが36.8パーセント、趣味としての読書が31.6パーセント、写真の撮影・プリントが21.9パーセント、楽器の演奏が10.2パーセントと並ぶ。この階段のどこに自分の催しが乗るのかで、声をかける相手の数が変わる。
体を動かす催しなら別の段階がある。スポーツの行動者率は15歳から19歳で76.8パーセント、20歳から24歳で71.5パーセント、25歳から29歳で69.5パーセントだった。この区分には職業として行うものや体育の授業は含まれず、クラブ活動や部活動は含まれている。趣味・娯楽の9割台に比べれば絞れているが、それでも7割が残る。種目まで下げないと対象にならない。
ただしこの調査は2021年に行われたもので、集まる行動は大きく落ちている。カラオケは17.2ポイント、遊園地や動植物園などの見物は14.8ポイント、コンサートなどによるポピュラー音楽・歌謡曲鑑賞は7.8ポイントの低下だった。数字をそのまま現在の水準として扱わず、順位の目安として使うのが安全である。原典は総務省の社会生活基本調査にある。
第三段は到達手段。相手がいる場所から選ぶ
母数と関心で絞っても、届けられなければ空振りになる。第三段で決めるのは、その相手がふだん情報を受け取っている場所だ。学内の掲示板、授業での告知、研究室やサークルの横のつながり、SNSの各サービス、外部の告知サイト。手段ごとに届く層が違うので、第一段で選んだ行と噛み合うものを選ぶ。
通学している学部生なら学内の経路が効くが、通信教育の24万人には学内掲示が届かない。短期大学は290校に6万5,684人が分散しているので、一校ずつ当たるより共通の関心で横に集める方が現実的だ。専門学校は2,647校という校数の多さが特徴で、分野ごとに固まっているため分野で切るほうが早い。
設置者の違いも経路に効く。大学816校のうち私立が627校を占めるので、学内の掲示や生協の経路を使うなら私立の比率がそのまま効く。国立85校と公立104校は数が限られるぶん一校ずつ当たれる規模で、学内の窓口を通す形が取りやすい。校数と在学者数のどちらで見るかで、同じ経路の費用対効果が逆転することがある。
どのサービスを選ぶかという判断は、年代別の利用状況から逆算するのが確実である。学生団体に向くSNSで利用率から選び方を組んだので、手段の候補を並べる段ではそちらが使える。集客の設計そのものを組み直すなら学園祭の集客を設計するで扱った、届けたい層ごとに手段を変える考え方が近い。
三段を一枚に書くと、判断が速くなる
三つを決めたら、一文にまとめて企画書に置く。「首都圏の私立大学の学部1年生と2年生で、音楽鑑賞を趣味としている人に、大学生協の掲示とInstagramで届ける」という形になれば、当日までの判断がほぼ自動で決まる。会場の広さも、告知の文面も、当日の案内の言葉もここから引ける。
逆に、三段のどこかが空いていると後から揉める。母数が空いていれば何人集めれば成功なのかが決まらず、関心が空いていれば告知の文面が総花的になり、到達手段が空いていれば締切直前に手当たり次第の宣伝が始まる。空欄を残して走り出した催しは、たいてい当日の朝に人手を宣伝に取られる。
書き方の形式そのものは企画書のターゲット設定で扱った枠に沿えばよい。主催の形によって使える告知経路が変わるので、学生イベントとは何かで整理した形態の違いと合わせて見ておきたい。地域の側と組む催しなら相手の持つ経路も足せるので、FLASPOのような場で実際の組み方に触れておくと選べる手段が増える。
よくある質問
絞ると人が集まらなくなるのではないか。逆のことが起きやすい。全員向けの告知は誰の目にも止まらないので、母数を狭めたほうが反応率は上がる。400万人に薄く広げるより、選んだ数万人に二度届けるほうが実数は増える。狭めることが怖いなら、第一段の母数だけを広く取り、関心と到達手段を鋭く絞る形でもよい。
属性で絞るのと行動で絞るのはどちらがよいか。行動のほうが当たる。趣味を持っている人がほぼ全員という数字が示すとおり、有無で切ると母数が減らない。学年や学部といった属性は到達手段を選ぶときに役立つので、関心は行動で、到達は属性で考えると噛み合う。
社会人も呼びたい場合はどうするのか。学生向けの経路と社会人向けの経路は重ならないので、二つの催しとして設計するか、片方を主にしてもう片方を同伴者として扱うのが実務的だ。両方を主にすると告知の文面が割れ、どちらにも刺さらない。学習・自己啓発・訓練の行動者率が30歳代前半で47.3パーセントまで上がっている点は、社会人側を狙う根拠として使える。
調査の数字をそのまま企画書に書いてよいか。出典と調査年を添えるなら書いてよい。2021年の調査であること、集まる行動の数字が当時の事情で下がっていることを注記すれば、読み手は適切に割り引ける。注記せずに最新の実態として出すと、指摘を受けた時点で企画書全体の信頼が落ちる。
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