売り手市場だと言われても、その言葉だけでは志望先の選び方は決まらない。市場の向きを知りたいなら、何人が卒業して何人が就職したかという元の数を見るほうが早い。文部科学省の学校基本統計は毎年五月一日時点で全国の学校を調べており、卒業後の進路も同じ基準で追っている。数の動きと制度の動きを並べて、新卒採用がどこへ向かっているかを確かめる。
卒業者は減り、就職する人の割合は上がった
文部科学省の令和七年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値によると、令和七年三月の大学学部の卒業者は五八万四三〇四人だった。前年の五九万〇四八七人から六千人あまり減っている。その一方で、卒業者に占める就職者の割合は七七・〇%で、前年度より〇・五ポイント上昇した。実数では四四万九六三八人が就職している。
進路の内訳も押さえておきたい。大学院などへの進学率は一二・七%で、こちらも〇・一ポイント上がった。就職も進学もしていない「左記以外の者」は四万二一二〇人で、卒業者の七・二%にあたる。一時的な仕事に就いた人は〇・六%、雇用契約期間が一ヶ月以上から一年未満の有期雇用労働者は〇・八%と、いずれも一%を下回る水準まで縮んでいる。
| 卒業年 | 大学学部の卒業者 | 就職者 | 卒業者に占める就職者の割合 |
|---|---|---|---|
| 平成二六年三月 | 五六万五五七三人 | 三九万四八四五人 | 六九・八% |
| 令和二年三月 | 五七万三九四七人 | 四四万六〇八二人 | 七七・七% |
| 令和三年三月 | 五八万三五一八人 | 四三万二七九〇人 | 七四・二% |
| 令和六年三月 | 五九万〇四八七人 | 四五万一七九四人 | 七六・五% |
| 令和七年三月 | 五八万四三〇四人 | 四四万九六三八人 | 七七・〇% |
十年前と比べると就職者の割合は七ポイント以上上がっている。令和三年三月に七四・二%まで下がったのは新型コロナウイルスの影響を受けた年次で、そこから四年かけて戻した形になる。なお過去の最高値は昭和三七年三月の八六・六%で、現在の水準はまだその下にある。
就職率九八・〇%が意味していること
もう一つよく引かれる数字が就職率である。文部科学省と厚生労働省が共同で行う令和七年度大学等卒業者及び高等学校卒業者の就職状況調査では、令和八年三月卒業者の大学の就職率は九八・〇%で、前年同期から増減がなかった。男子が九七・五%、女子が九八・七%、国公立大学が九七・九%、私立大学が九八・一%である。
学校種で並べると、短期大学が九七・四%、高等専門学校が九九・二%、専修学校の専門課程が九八・六%、高等学校が九七・九%だった。短期大学は前年同期より〇・四ポイント上がり、高等専門学校と専修学校はそれぞれ〇・四ポイントと〇・六ポイント下がっている。
この九八・〇%は、学校基本統計の七七・〇%とは分母が違う。就職状況調査は全国から一一二校を抽出し、六二五〇人の学生を対象に、就職を希望した人のうち実際に就職が決まった人の割合を調べた標本調査である。就職を希望していない人は分母に入らない。進学や公務員試験への切り替えを含めて卒業生全体を見るときは学校基本統計の割合を、就職を希望した人の決まり方を見るときは就職状況調査の就職率を使う、という読み分けが必要になる。採用市場そのものの強さについては新卒就活の現状|内定率73.4%と求人倍率1.62倍が示す採用市場に整理した。
供給側の母数はまだ増えている
卒業者数が減ったのに、大学で学ぶ人の総数は減っていない。文部科学省が公表した令和八年度学校基本調査の速報では、大学の在学者数は三〇〇万一千人で前年度より二万八千人増え、過去最多となった。内訳は学部が二六六万四千人、大学院が二八万五千人で、どちらも過去最多である。大学院のうち博士課程の学生は八万二千人で、こちらも最多を更新した。
高校からの入口も狭まっていない。確定値によれば、高等学校等の卒業者に占める大学・短期大学への進学者の割合は六一・四%で、このうち大学の学部へ進んだ人は五八・三%だった。過年度卒業者を含む大学学部の進学率は五八・六%で前年度とほぼ横ばいである。逆に高校を出てすぐ就職する人の割合は一三・八%で、〇・二ポイント下がって過去最低になった。
修士課程の側も人数が増えている。令和七年三月の修士課程修了者は七万七六三三人で、修了者に占める就職者の割合は七八・二%だった。学部よりわずかに高い水準である。十八歳人口が減っていくなかで大学に在学する人の総数が最多を更新しているのは、進学率の上昇と大学院の拡大が人口減を打ち消しているためで、新卒の採用市場に出てくる人数が急に細るわけではないことを示している。
採り方そのものを変える動きが制度の側で進む
数の動きと並行して、採用の形を複線化する議論が進んでいる。政府は、二週間以上の専門活用型インターンシップのうち卒業・修了年度に入る直前の春休み以降に実施されるものを通じて高い専門的知識や能力を有すると判断された学生について、三月から行われる広報活動の周知期間を短縮し、六月より前の時期に選考を始められる仕組みを示した。これが「採用プロセスの複線化」と呼ばれている。
ただし学生側の認知はまだ追いついていない。内閣府の学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査で説明資料を提示した上で尋ねたところ、「知らなかった」が六二・七%を占め、「よく知っていた」と「ある程度知っていた」の合計は一八・七%にとどまった。考え方としては賛成が二九・九%、どちらでもないが三〇・〇%で並び、反対は一五・四%だった。
専門性を軸にした採用の広がりも同じ調査で測られている。ジョブ型採用で内々定を得たと答えた学生は約二割で、そのうち自分の専門性と合致していると答えた人が約一割、合致していないと答えた人が約一割だった。過年度調査と比べてほぼ同じ水準であり、制度の名前が先に広まった段階と言える。専門分野を売りにする採用枠が増えても、実際に専門と仕事が結び付いた例はまだ半分ということになる。
この数字を自分の就活にどう翻訳するか
統計の動きを志望先選びに落とすなら、見るべき点は三つある。第一に、就職者の割合が七七・〇%まで上がった市場では、内定が取れるかどうかより、どこに決めるかが争点になる。第二に、就職も進学もしていない七・二%という層が毎年四万人規模で存在する。この層に入る理由は就職留年や公務員試験の継続など多様だが、春の一度きりで決めなければならない構造ではないことは数字が示している。
第三に、入った後の定着まで含めて見ることである。業界ごとの離職率の差は業界研究と若者のキャリア|3年離職率から考える業界選びの重さに、条件の優先順位の決め方は自己分析と就活のつなぎ方|離職率33.8%から逆算する条件の決め方にまとめた。採用の入口が複線化していくなら、学業や課外の活動で専門性を示せる材料を持っているほうが選べる枠は広がる。地域の課題に取り組むコンテストなどを通じて企業と接点を持つFLASPOのような場も、その材料を作る方法の一つになる。
統計は過去の結果であって、来年の保証ではない。それでも、十年単位で同じ方法で測られた数字は、個々の体験談よりも向きを正確に示す。学校基本統計は毎年八月に速報が出て十二月に確定値が出る。就職状況調査は十月一日、十二月一日、二月一日、四月一日の時点で公表される。自分が就活をする年の数字を一度は原典で見ておくと、周囲の話に流されにくくなる。
よくある疑問
就職率九八・〇%なら誰でも就職できるということなのか。そうは読めない。この数字は就職を希望した人のうち決まった人の割合であり、抽出した一一二校の調査にもとづく推計である。卒業者全体で見れば就職した人は七七・〇%で、残りは進学や別の進路に分かれている。
卒業者が減っているなら競争は楽になるのか。大学学部の卒業者は前年から減ったが、在学者数は過去最多で学部も大学院も増えている。入口の人数が細っているわけではないため、短期的に競争が緩むとは言いにくい。志望が集まる企業では、母数の増減とは別に選考の厳しさが残る。
大学院に進むと就職で有利になるのか。修士課程修了者で修了者に占める就職者の割合は七八・二%、学部は七七・〇%で、差はわずかである。有利不利より、専門性を使う採用枠に乗れるかどうかが分かれ目になる。ジョブ型採用で内々定を得た学生のうち、専門性と合致したと答えた人が約一割にとどまっている点も踏まえたい。
複線化が広がると日程はどうなるのか。専門活用型インターンシップを経た学生に限って六月より前の選考が認められる仕組みなので、全員の日程が一律に早まる話ではない。ただし知らなかったと答えた学生が六二・七%を占める状況では、制度を知って使う人と知らない人の差が開く。志望業界で該当する枠があるかどうかは、各社の募集要項で確認するのが確実である。
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