読まない人が六割を超えた年に、何を数えるか
通勤電車で本を開いている人を最後に見たのはいつか、と考えてみると心当たりが薄い。その印象は統計とも合っている。文化庁の国語に関する世論調査は、令和6年1月16日から3月13日にかけて全国16歳以上の6,000人を対象に郵送で行われ、3,559人から回答を得ている。有効回答率は59.3%である。
その令和5年度の結果によると、1か月に読む本の冊数を聞いた設問で「読まない」と答えた人は62.6%だった。ここでいう本には電子書籍が含まれ、雑誌と漫画は除かれている。過去の調査では「読まない」は4割台後半で推移していたので、水準が一段上がった形になる。ただし令和2年度に面接聴取法から郵送法へ調査方法が変わっており、それ以前の数値との単純な比較には注意が要る。
| 1か月に読む本の冊数 | 回答の割合 |
|---|---|
| 読まない | 62.6% |
| 1、2冊 | 27.6% |
| 3、4冊 | 6.0% |
| 5、6冊 | 1.5% |
| 7冊以上 | 1.8% |
| (1冊以上の合計) | 36.9% |
この分布の意味するところは、月に1冊でも読めば上位4割弱に入り、月3冊で上位1割を切るということだ。多読の世界に足を踏み入れる必要はない。差が生まれる境目は、思っているよりずっと手前にある。
減った理由の内訳が、得ているものを逆から照らす
同じ調査では、読書量が以前に比べて減っているかどうかも聞いている。「読書量は減っている」が69.1%、「それほど変わっていない」が24.5%、「増えている」が5.5%だった。約7割が減少を自覚している。
減っていると答えた人にその理由を二つまで挙げてもらうと、最も多かったのは情報機器で時間が取られるという回答で43.6%。次いで仕事や勉強が忙しくて読む時間がないが38.9%、視力など健康上の理由が31.2%、テレビの方が魅力的であるが19.8%と続く。年齢別では、情報機器を挙げる割合が若いほど高くなり、16歳から19歳では70.9%に達する。
ここが読書の利点を考えるうえでの足場になる。読書が減った原因の一位と四位は、どちらも別の画面に時間を明け渡したという話である。つまり読書の時間は、何もないところから生えてくるのではなく、別の何かから取り返す形でしか作れない。
そして取り返した時間に起きることが、本を読む側の取り分になる。文字を読む量そのものは減っていない。調査では、文字・活字による情報に触れる時間について「それほど変わっていない」が37.3%、「増えている」が35.3%で、「減っている」の26.0%を上回る。読む量ではなく、読み方が変わっているというのが正確な把握である。
一つ目と二つ目の差は、長さと、選ぶ経路に出る
本を読まないと答えた人に、本以外の文字・活字による情報を読む機会を聞いた設問がある。「ほぼ毎日ある」が75.3%で、「ほとんどない」は10.4%にとどまった。本を読まない人の四人に三人は、毎日何かしらの文章を読んでいる。
この対比が一つ目の差を浮かび上がらせる。日々読んでいる文章の多くは、短く、独立していて、結論が先に来る。対して本は、章をまたいで前提が積み上がっていく構造を持つ。前の章を踏まえないと次の章が成立しない形式の文章に、まとまった時間をかけて付き合う機会は、意識して作らない限り日常には現れない。長い論の筋を追う持久力は、長いものを読むことでしか鍛えられない。
二つ目の差は、何を読むかを決める経路にある。月に1冊以上読む人に本の選び方を聞くと、書店で実際に手に取って選ぶが57.9%で最も高く、インターネットの情報を利用して選ぶが33.4%、図書館や図書室で手に取って選ぶが25.0%、広告を参考にするが14.7%だった。半数以上が、棚の前に立って自分で選ぶという経路を持っている。
画面の中の文章は、たいてい推薦の仕組みによって運ばれてくる。自分の関心に近いものが届く代わりに、関心の外側には届きにくい。棚を眺めて背表紙から選ぶ行為は、その仕組みの外に出る数少ない機会になる。読む習慣を文章を書く力につなげる道筋については本から文章力を学ぶ方法で詳しく扱っている。
三つ目と四つ目の差は、時間の設計と手段の切り替えに出る
三つ目は、自分の時間の使い方が見えるようになることだ。読書量が減った理由の一位が情報機器だという事実は、裏返せば、本を1冊読み切ろうとした人だけが、自分の可処分時間がどこへ流れているかを具体的に知るということでもある。30分を確保しようとして初めて、その30分が何に使われていたのかが分かる。
この気づきは読書の外側にも効く。学習が続かない理由を意志の弱さに帰すと手が打てないが、時間の行き先の問題として扱えば配置を変えられる。手応えが戻ると取り組みが続く仕組みについては勉強のモチベーションの話が重なる部分を持っている。
四つ目は、手段を切り替えられることである。電子書籍の利用状況を見ると、よく利用するが15.0%、たまに利用するが25.3%で、合わせた利用する層は40.3%。紙の本・雑誌・漫画しか読まないが38.2%、どちらも読まないが20.6%だった。40代以下では利用する層が5割を超えている。
電子書籍を使う人の中での内訳も出ている。電子書籍の方が多いが40.5%、紙の方が多いが29.5%、同じくらいが21.4%、電子書籍しか読まないが7.9%。持ち歩く本と据え置く本を分ける、という使い分けが現実的な選択肢として定着しつつある。読む時間が取れないのではなく、読む形式が合っていないだけ、という場合がある。
月1冊に届かせるために、置き方を変える
分布を見れば、月1冊で上位4割弱に入る。目標をそこに置くと、やることは「読む時間を作る」ではなく「読まない時間を減らす」に変わる。
最初にやるのは、本の物理的な位置を変えることだ。鞄の中ではなく、机の上でも寝室でもいい、毎日必ず目に入る平面に表紙を上にして置く。情報機器に時間が流れるのは、それが最も近くにあるからで、距離の勝負に持ち込めば本の側にも勝ち目がある。
次に、読む単位を章ではなく節にする。1章を読み切ろうとすると30分の空きが必要になるが、節なら10分で終わる。終わりの位置が見えている単位に分けると、中断のたびに最初から読み直す無駄が減る。
選書は、書店か図書館に実際に足を運ぶ日を月に一度だけ作る。調査で過半数が挙げた経路を、予定として確保してしまう。その場で3冊借りて1冊しか読めなくても構わない。読まなかった2冊は、次の月の候補として残る。
目的がはっきりしている分野なら、資格や検定と結びつけるのも手である。到達点と締切が外から与えられると、読む順番が自動的に決まる。この型の効き方は資格取得のメリットの回で整理した。学びの入口を広げる取り組みはFLASPOでも紹介している。
よくある質問
漫画や雑誌は読書に入りますか。文化庁の調査では、冊数を聞く設問から雑誌と漫画は除かれている。一方、電子書籍の利用を聞く設問では雑誌と漫画も含めて数えている。設問ごとに範囲が違うので、他の調査の数字と並べるときは定義を確かめたい。
電子書籍でも同じ利点が得られますか。長い文章を筋を追って読むという点では、媒体の違いより読み方の違いが大きい。調査でも電子書籍の利用は4割を超えており、特に40代以下では主要な手段になっている。ただし通知が届く端末で読む場合は、中断の回数が増える点を見込んでおく必要がある。
忙しくて時間が取れません。読書量が減った理由として、仕事や勉強の忙しさを挙げた人は38.9%で、20代から40代では6割台に上る。多数派の悩みであり、解き方は時間の捻出ではなく単位の縮小にある。10分で終わる節に分ければ、1日のどこかには入る。
子どもの読書習慣はどうすれば身につきますか。文部科学省は子供の読書活動の推進に関する情報を公開しており、学校や図書館を通じた取り組みが紹介されている。家庭でできることとしては、大人が読んでいる姿が見える場所に本を置くのが基本になる。
速読を身につけたほうがよいですか。月1冊が目標なら必要ない。分布を見る限り、差がついているのは読む速さではなく読み始めるかどうかの段階である。速く読む技術より、手に取るまでの距離を縮める工夫のほうが、先に効く。
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