応募書類は二種類あり、聞かれている範囲が違う
同じ企業に出す書類なのに、履歴書とエントリーシートの両方を求められて戸惑うことがある。二つは重複しているのではなく、役割が分かれている。履歴書は学歴や職歴といった事実を確認する書類で、様式がほぼ決まっている。エントリーシートは企業が設問を自分で設計し、応募者の判断や行動を文章で書かせる書類である。略してESと呼ばれる。
この違いは、書き直して効果が出る範囲の違いでもある。履歴書の欄は事実を正確に埋める以上のことができない。いっぽうESは設問ごとに中身が変わるため、準備の時間を投じた分が結果に反映されやすい。
| 比べる点 | 履歴書 | エントリーシート |
|---|---|---|
| 様式 | 厚生労働省が様式例を公表 | 企業ごとに設問を設計 |
| 書く内容 | 学歴・職歴・免許や資格などの事実 | 設問に対する自由記述 |
| 性別の扱い | 任意記載欄。未記載も可 | 設問に含めない形が通例 |
| 分量 | 定められた枠に収める | 設問ごとの指定字数に従う |
| 読み手の用途 | 事実の確認 | 適性と能力の判断 |
| 準備の効き方 | 書式の範囲にとどまる | 設問ごとに大きく変わる |
国が示した履歴書の様式例から、ESの持ち分が逆算できる
履歴書の様式には経緯がある。厚生労働省は長く日本規格協会がJIS規格の解説で示していた様式例の使用を勧めていたが、令和2年7月に当事者を支援する団体から性別欄の削除を求める要請が出され、これを契機にJIS規格の履歴書の様式例そのものが削除された。そこで厚生労働省が参考となる様式を定め、令和3年4月16日の労働政策審議会安定分科会に資料として示している。
変更点は二つある。性別欄を「男・女」の選択から任意記載欄に変え、未記載も可とした。そして「配偶者」「扶養家族数」「配偶者の扶養義務」「通勤時間」の四つの欄を様式内に設けないことにした。資料は、この様式例に法的拘束力はなく、使うかどうかは個別の企業が判断できるとも明記している。
ここから分かるのは、履歴書が扱う範囲が意図的に狭められているという事実である。家族構成や通勤時間といった、本人の適性と直接つながらない情報が外された。残った範囲で本人を判断しきれない分を、設問の形で引き受けているのがESだと整理できる。
この順序を押さえると、書く側の力の入れ先が決まる。履歴書は事実の正確さと体裁で評価が終わる書類なので、時間をかけても伸びしろが小さい。四つの欄が外されたことで、本人の適性を測る材料はほぼ全部がESの側に移っている。提出前の見直しの時間をどちらに割くかという問いには、構造の側から答えが出ている。
自由に書かせる書類にも、触れてはいけない範囲がある
設問を企業が自由に設計できるといっても、何を聞いてもよいわけではない。厚生労働省は公正な採用選考の基本として、就職差別につながるおそれがあるため把握を避けるべき事項を整理している。本籍や出生地、家族の職業や学歴や収入、住宅の状況、生活環境といった本人に責任のない事項がまず並ぶ。
次に、本来自由であるべき事項として、宗教、支持政党、人生観や生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合への加入状況や学生運動などの社会運動、購読新聞や雑誌や愛読書が挙がっている。さらに選考の方法としても、身元調査の実施や、本人の適性と能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用が避けるべきものとされる。根拠は職業安定法第5条の5と平成11年告示第141号である。
尊敬する人物や愛読書は設問として見かけることがあるため、意外に感じる人もいる。応募する側としては、これらを自分から書き込んでも評価材料として扱えない、という点を押さえておけば足りる。価値観を伝えたいときは、宣言ではなく、その価値観に沿って続けた行動のほうを書く。
仮に設問として出された場合も、答える範囲は選べる。読書の話であれば、書名の選択そのものではなく、その本をきっかけに始めた調べ物や続けた習慣を書けば、適性と能力の記述に収まる。線が引かれているのは情報の種類であって、話題の全部ではない。
提出は三月に集中するが、最初の一通は前年の夏から出ている
いつ書き始めればよいかは、実際の提出時期から逆算できる。内閣府の学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査は、2025年12月12日に公表された報告書で、2025年度に卒業・修了を予定する大学4年生3,157件と大学院2年生1,258件の計4,415件から回答を得ている。
報告書によると、最初にESを提出した時期は卒業・修了前年度の9月以前が約4割で最も高く、提出のピークは卒業・修了年度の3月が約3割、最後に提出した時期も3月が約2割で最も高い。過年度の調査と比べると、最初もピークも最後も少しずつ早まっている。
読み方としては、山が三月にあることと、最初の一通が前年の夏より前に出ていることを分けて受け取りたい。三月に合わせて準備を始めると、四割の学生が済ませている段から出発することになる。先に一社ぶん書き上げておけば、設問の形に慣れた状態で山を迎えられる。文章そのものに不安があるならESを変える文章力の付け方を早い時期に通しておくと効く。
通過するESに共通している条件は、統計の側から見える
設問の文面は企業ごとに違うが、読み手が点検している欄は共通している。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査では、新規学卒者の採用選考で重視した点として「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」79.3%、「コミュニケーション能力」74.8%、「マナー・社会常識」58.6%、「組織への適応性」53.2%が上位に並んだ。
対して「学歴・経歴」は22.4%、「業務に役立つ職業経験・訓練経験」は14.7%である。設問が学生時代の取り組みや志望理由を聞く形に落ち着くのは、この分布と整合している。経歴の立派さを並べる書き方では上位四つの欄に印が付かない。
平成30年の調査と並べると、コミュニケーション能力は71.1%から74.8%へ上がり、学歴・経歴は25.4%から22.4%へ下がっている。五年のあいだに、経歴で測る比重がさらに軽くなった。設問の文面が変わらなくても、読み手が探しているものは動いていることになる。
そこで条件は三つに絞れる。一つは、自分が何をしたかを動詞で書くこと。二つは、相手の反応や周囲の変化を一行入れること。三つは、設問が聞いている語に答えを合わせることである。志望理由の設問で業界の説明を続けてしまう型は三つ目でつまずく。志望動機の組み立て方とガクチカと自己PRの使い分けを押さえると、設問の種類ごとに置く材料が決まる。
よくある質問
履歴書とESで同じことを書いてよいか。重なってよい部分はあるが、ESは設問に答える書類なので、事実の羅列だけでは足りない。履歴書に書いた資格について、取得までに何をしたかを書くのがESの持ち分である。
性別を書かないと不利にならないか。厚生労働省の様式例は性別欄を任意記載としており、未記載も可と明示している。様式例に法的拘束力はないため企業の判断で別の用紙が使われることもあるが、未記載を理由にした不利な扱いは公正な採用選考の考え方から外れる。
提出した後に書き直したくなったら差し替えを頼めるか。企業の運用次第で、原則として受け付けられないことが多い。提出前に設問の語と自分の答えが噛み合っているかを一度音読して確かめるほうが確実である。
手書きと入力のどちらが有利か。国の資料は様式の中身を定めているだけで、記入方法による有利不利は示していない。企業の指定に従えばよい。指定がない場合は、修正や使い回しのしやすさから入力のほうが現実的である。
一社ぶんを他社に流用してよいか。経験の記述は流用できるが、設問の語に合わせる作業は毎回必要になる。地域での活動を題材にするなら、FLASPOのような場で引き受けた役割と相手の反応を記録しておくと、設問が変わっても取り出す材料に困らない。
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