過疎化対策の事例|海士町と神山町に学ぶ地域再生と国の支援制度

過疎化対策の事例|海士町と神山町に学ぶ地域再生と国の支援制度

過疎化対策は何を積み上げてきたのか

集落の商店が閉まり、路線バスの本数が減り、小学校の入学式に並ぶ子どもが数人になる。こうした変化は一晩で起きるものではなく、何十年もかけて少しずつ進みます。

日本が過疎を政策の言葉として扱い始めたのは昭和45年で、その後もおおむね10年ごとに時限立法が引き継がれてきました。現在の土台は、令和3年4月に施行された過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法です(出典:総務省 過疎対策)。

総務省の公示によれば、令和4年4月1日時点の過疎関係市町村は885団体で、内訳は市311、町449、村125です。全国の市町村のおよそ半数が、区域の全部または一部で指定を受けている計算になります。

規模の面でも厳しさは続いています。令和5年度版の過疎対策の現況では、過疎地域における65歳以上の割合は39.7%で、全国の28.0%を11.7ポイント上回りました(出典:総務省 令和5年度版 過疎対策の現況)。

対策の中身も、道路や施設をつくることが中心だった時代から、人・産業・教育を束ねる形へと移ってきました。ここからは、実際に名前の挙がる二つの町を手がかりに、何がどう効いたのかを見ていきます。

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島根県海士町:産業と高校を同時に立て直す

本土からフェリーで渡る日本海の離島に、毎年のように全国から高校生が入学してくる。島根県海士町で起きているのはそういう現象です。

柱の一つが産業でした。UターンやIターンで移り住んだ人たちが地元の担い手と組み、岩ガキやナマコ、隠岐牛といった島の産物をブランドとして立て直します。細胞を壊さずに凍結できるCASという技術を導入し、白イカや岩ガキを加工して島の外へ売る道筋をつくりました。

もう一つの柱が高校です。島で唯一の隠岐島前高校は生徒数の減少で統廃合が視野に入っていました。町は島全体を学校、地域住民を先生、地域課題を教材と位置づけ、全国から意欲のある生徒を募る島留学を始めます。内閣府に提出された取組事例の資料によると、全校生徒数は平成20年の約90名から平成27年には約160名まで増えました(出典:内閣府 個性を活かした地域戦略の取組事例)。

高校が残ると、子育て世帯が島にとどまる理由が生まれ、教員や寮の職員という雇用も生まれます。水産業と学校という一見別々の話を、同じ一つの流れとして設計したところに、この島の特徴があります。

徳島県神山町:通信環境を先に整えて仕事を呼ぶ

山あいの町の古民家で、東京の会社の看板を掲げたエンジニアが働いている。徳島県神山町で広く知られるようになった風景です。

起点になったのは高速ブロードバンドの整備でした。回線が細い土地では、どれだけ自然が豊かでも仕事は移せません。そこにNPO法人グリーンバレーが入り、空き家と移り住みたい人をつなぐ役回りを担います。

町とNPOが通信費や古民家の改修費を支えたことで、IT企業がサテライトオフィスを構える際の初期負担が下がりました。工場用地を造成して企業を待つ従来型の誘致とは、順番が逆になっています。

さらに特徴的なのが、移り住んでほしい職種を町の側から指名する運用です。空き家に誰を入れるかを先着順にせず、パン屋や歯科医院のように町で足りていない機能から埋めていく。人口の数合わせではなく、暮らしに必要な機能を取り戻す発想だといえます。

二つの町に共通するのは、都市部から来た人に役割と裁量を渡した点です。受け入れ側が指示を出す関係ではなく、来た人が事業の主語になる関係をつくったことが、定着につながっています。

国の制度をどう組み合わせるか

自治体が単独で動ける予算は限られます。そこで使われるのが国の制度で、目的ごとに性格が違います。

制度 支援の中身 使いどころ
過疎地域持続的発展支援交付金 集落ネットワーク圏の形成、ICT活用や人材育成、集落再編、廃校など遊休施設の再整備を支援 立ち上げ期の試行錯誤
過疎対策事業債 施設整備、地域医療の確保、集落の維持や活性化の費用を地方債でまかなう まとまった整備と継続事業
地域おこし協力隊 都市部の人材を任期付きで受け入れ、報酬や活動費を国が財政支援 担い手そのものが足りない地域

このうち担い手を直接増やすのが地域おこし協力隊です。総務省の公表資料では、令和6年度の隊員数は7,910名でした。任期を終えた隊員の動きも追跡されており、平成31年4月から令和6年3月までに任期が終わった8,034人のうち、およそ68.9%にあたる5,539人が同じ地域に定住しています(出典:総務省 令和6年度における地域おこし協力隊の活動状況等)。

定住した人の進路も一様ではありません。活動していた市町村にとどまった4,477人のうち、約46%が起業、約34%が就業、約12%が就農や就林という内訳です。制度が単なる人手の貸し出しではなく、その土地で食べていく人を生む入口になっていることが読み取れます。制度の全体像は過疎化対策とは?国・自治体・若者が参加できる施策や地域おこし協力隊とは?給料・応募方法・任期後キャリアもあわせて読むと輪郭がつかめます。

うまくいった事例に共通することと、つまずきやすいところ

成果が語られる地域を並べると、似た条件が浮かびます。第一に、外から来た人が自分の裁量で動ける余地を用意していること。第二に、産業と教育と住まいを別々の施策として扱わず、一つの流れにつないでいること。第三に、行政が旗を振るだけで終わらず、NPOや民間が実務を担う体制があることです。

一方で、つまずき方にも型があります。よくあるのが補助金の切れ目でつまずく形で、交付期間が終わった瞬間に事業が止まります。始める前から、補助が終わった後に誰がいくら負担するのかを決めておく必要があります。

もう一つが、他所の成功例をそのまま持ち込む形です。海士町の島留学は、島に高校が一つしかないという条件があって初めて成り立ちました。神山町の企業誘致は、回線と空き家という手札があったから動きました。手札が違えば打ち手も変わります。

受け入れる側が疲れてしまう問題も見落とせません。視察や取材が増えるほど、対応する住民の負担は重くなります。関わる人を増やして役割を分けることが、続けるための条件になります。地域に関わってみたい学生や20代の人は、FLASPOで各地の募集を探すところから始められます。

よくある質問(FAQ)

Q. 過疎化対策の事例はどこで探せますか?

A. 総務省の過疎対策のページに、交付金の交付決定状況や各地の取り組みがまとめられています。都道府県や市町村の地域振興担当課のサイトにも、個別の事業内容が掲載されています。

Q. 成功事例と呼ばれる地域は、人口が増えているのですか?

A. 増えている地域ばかりではありません。海士町のように転入が続いても、全体の人口減少が止まるとは限らないためです。評価の軸は人口の総数だけでなく、高校が残ったか、雇用が生まれたか、担い手の年齢構成が変わったかといった点に置かれます。

Q. 学生でも関われる対策はありますか?

A. あります。短期の地域滞在プログラムやインターン、特産品の販路づくりや情報発信の手伝いなど、専門的な資格がなくても入口になる活動が多くあります。任期付きで働く地域おこし協力隊は、20代の応募も珍しくありません。

Q. 企業誘致と移住促進はどちらを先にやるべきですか?

A. 地域の手札によります。神山町のように回線と空き家が整っているなら仕事を呼ぶ順番が有効ですし、水産や農業の資源が強いなら産品の立て直しから入る方が現実的です。先に条件を棚卸しすることが出発点になります。

Q. 限界集落と呼ばれる地域でも打ち手はありますか?

A. 集落単位で完結させず、周辺の集落と組んで生活機能を分担する方法があります。過疎地域持続的発展支援交付金の集落ネットワーク圏の考え方はこれにあたります。詳しくは限界集落とは?定義・現状データ・再生事例を参照してください。


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