大型の客船が港に着くと、数千人が一度に町へ降りてくる。受け入れる側から見れば、年に何回その日が来るのかが先に知りたい数字になる。国土交通省が令和8年2月20日に出した速報値では、2025年の寄港回数は3,117回で過去最多だった。ところが同じ資料に載っている旅客数は、感染症より前のピークの7割にとどまる。回数が増えたのに人が戻っていないという、ねじれた形になっている。
回数は106%まで戻り、人は70%で止まっている
2025年の1月から12月に日本の港へ入ったクルーズ船は3,117回で、前年の2,472回から約1.3倍になった。内訳は外国船社が運航する船が2,352回、日本船社が運航する船が765回である。回数で見ると2018年のピーク2,930回を上回り、その約106パーセントに達した。
一方、クルーズ船で入国した外国人旅客は176.7万人だった。前年の143.8万人から約1.2倍だが、2017年の252.9万人と比べると約70パーセントである。船の数は戻り、乗っている人は戻っていない。
この差を説明するのが船の大きさだ。国交省の資料は、感染症より前はカジュアルクラスの大型船が寄港の多数を占めていたのに対し、その後はプレミアム・ラグジュアリー・エクスペディションといった高価格帯の小型船の寄港が増え、地方の港への寄港も増えていると整理している。クラス別の寄港回数を見ると、2025年はカジュアルが1,377回、高価格帯が975回だった。高価格帯は2023年の317回から3倍を超えて伸びている。1回の寄港で降りてくる人数が減れば、回数が増えても旅客数の伸びは鈍る。
三つの目標のうち、届いたのは一つだった
この数字には比べる相手がある。2023年3月31日に閣議決定された観光立国推進基本計画は、クルーズ再興に向けた2025年の目標として三つの数値を掲げていた。訪日クルーズ旅客250万人、外国クルーズ船の寄港回数2,000回超、外国クルーズ船が寄港する港湾数100港である。
実績を並べると、旅客は176.7万人で250万人に届かず、外国クルーズ船の寄港回数は2,352回で2,000回超を達成し、港湾数は93港で100港に届かなかった。しかも港湾数は前年比0.96倍で、唯一前年より減っている項目である。国交省自身が「一部の目標において引き続き取組が必要な状況」と書いている。
港湾数が減って寄港回数が増えたということは、同じ港に繰り返し入る形に寄っているという意味になる。寄港地を分散させたい政策の方向と、船社が実際に選ぶ港の集まり方が噛み合っていない。受け入れの設備や通関の体制が整った港から順に埋まっていく構造なので、数字だけを追えば港湾数の目標はいちばん動かしにくい。
上位10港が1,561回、残りが1,556回
では寄港はどこに集まっているのか。2025年の港湾別の順位は次のとおりである。
| 順位 | 港湾名 | 寄港回数 | 前年 |
|---|---|---|---|
| 1 | 博多 | 209回 | 204回(1位) |
| 1 | 横浜 | 209回 | 146回(4位) |
| 3 | 那覇 | 205回 | 175回(2位) |
| 4 | 長崎 | 198回 | 160回(3位) |
| 5 | 神戸 | 142回 | 95回(7位) |
| 6 | 石垣 | 130回 | 120回(5位) |
| 7 | 鹿児島 | 129回 | 105回(6位) |
| 8 | 佐世保 | 128回 | 72回(10位) |
| 9 | 広島 | 106回 | ― |
| 10 | 清水 | 105回 | 87回(9位) |
| ― | その他 | 1,556回 | 1,145回 |
| ― | 合計 | 3,117回 | 2,472回 |
上位10港の合計は1,561回で、「その他」が1,556回ある。全体の49.9パーセントが上位10港以外に入っている計算になる(この比率は公表値から筆者が算出した)。前年の「その他」は1,145回だったので、1年で411回増えた。全体の増加分645回の6割強が、上位に出てこない港で起きたことになる。
順位を船社の国籍で割ると、見え方がまた変わる。外国船社が運航する船だけでは1位が長崎194回、2位が博多191回、3位が那覇187回で、長崎が前年の3位から上がった。日本船社が運航する船では1位が横浜104回、2位がベラビスタマリーナ95回、3位が神戸43回である。2位のベラビスタマリーナは公共の港湾ではない専用の係留地だが、2020年から2022年までは全体の1位を占めた年もあり、国内船の周遊先として上位に入り続けている。
「3,117回」が何を数えているのか
数字を引くときに確かめておきたいのは、この集計が何を含み何を外しているかである。国交省の注記は三つのことを書いている。
第一に、対象は船内で1泊以上するクルーズ船の寄港であり、日帰りクルーズは数えていない。第二に、寄港回数には港湾法上の港湾に加えて、沖に停泊して乗客が通船で上陸した場合や漁港に寄港した場合も含む。第三に、2025年の値は港湾管理者からの聞き取りによる速報値で、今後変動する可能性がある。
旅客数の方にも条件がある。出入国在留管理庁が集計した外国人入国者数の概数で、乗員は除かれている。さらに、1回のクルーズで複数の港に寄る船の旅客は、港ごとに重複して数えず1人の入国として計上される。つまり176.7万人は「日本に入ってきた人の数」であって、「各港に降りた人数の合計」ではない。港の経済効果を見積もるときに、この二つを混ぜると過大になる。
漁港や沖での通船上陸が含まれるという点は、地方港の数字を読むうえで重要だ。立派な岸壁がなくても寄港として数えられるため、「その他1,556回」のなかには、通船でしか上陸できない小さな港も入っている。受け入れ側の負担は港の形によってまったく違う。混雑への備え方はインスタ映えの次に来る混雑対策|先駆モデル26地域と上限8,000万円で整理した。
日本発のクルーズが過去最高になった
もう一つ、資料のなかで静かに過去最高を記録している数字がある。日本発のクルーズを利用した訪日旅客、つまり主に航空機で来日してから日本の港を起点にクルーズに乗る外国人である。
2025年は18.1万人で、2017年の5.1万人と比べて3.5倍を超えた。国交省は感染症より前のピークの約2倍と書いている。外国発は158.6万人で、こちらは2017年の247.8万人に対して6割強にとどまる。全体が7割までしか戻っていないのに、日本発だけが過去最高という形だ。
国交省がこの数字に添えている説明は、日本の港を発港として全国の港を周遊するため、クルーズ寄港の経済効果が全国に波及するという点である。外国の港から来て数港だけ回って帰る船と違い、日本発の船は国内を長く動く。「その他」の1,556回が411回増えた背景の一つはここにあると読める。
港町の側から見れば、年に何回船が来るかは観光客数の統計とは別の線で動く。住民の人数に対して観光客がどれだけ来るかという見方は宮古島の観光客は住民の22倍|126万人と5万5千人の内訳を読むで扱った。訪日客がどこで行き先を決めているかは訪日客の43.3%はSNSで決める|地方観光協会のサイトは4.9%という差に数字が出ている。地域の観光に学生として関わる入口はFLASPOでも紹介している。
よくある質問
寄港回数が過去最多なのに、旅客数がピークに届かないのはなぜですか。
1隻あたりの乗客数が減ったためである。高価格帯の小型船の寄港が2023年の317回から2025年の975回まで増え、大型のカジュアル船が主役だった構図が崩れた。回数と旅客数は別の線で動く。
政府の目標はどこまで達成されたのですか。
2025年の目標三つのうち、外国クルーズ船の寄港回数2,000回超だけが達成された。旅客は250万人に対して176.7万人、寄港港湾数は100港に対して93港である。
自分の町に船が来ているかどうかは、どこで分かりますか。
国交省の別紙に港湾別の寄港回数が年ごとに並んでいる。ただし表に名前が出るのは上位10港までで、残り1,556回は「その他」にまとめられている。個別の港の回数は港湾管理者の公表資料で確認することになる。
漁港にもクルーズ船が来るのですか。
集計上は含まれている。国交省は、港湾法上の港湾に加えて沖に停泊して乗客が通船で上陸した場合や漁港に寄港した場合も寄港回数に数えると注記している。
この数字は確定したものですか。
2025年の値は港湾管理者からの聞き取りによる速報値で、今後変動する可能性があると明記されている。国土交通省の報道発表と別紙で原典を確かめられる。
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