社員を出した会社の負担は1割|人材派遣型174名という関わり方

社員を地域へ出す道は一本ではない

企業に勤めている人が自治体の現場に入って働く仕組みとして広く知られているのは、総務省の地域活性化起業人である。ところが、同じように社員が地方公共団体の職員として地域の事業に従事する道は、内閣府の側にもう一本ある。企業版ふるさと納税の人材派遣型で、令和2年10月13日に創設された。

仕組みは寄附から始まる。企業が、人件費を含む事業費に対して企業版ふるさと納税の寄附を行い、その寄附があった年度に、当該企業の人材が寄附活用事業に従事する自治体の職員として任用される。自治体の職員になる形のほかに、地域活性化事業を行う団体等で寄附活用事業に関与する立場として採用される形も認められている。

企業の側から見ると、出した社員の人件費相当額を含む事業費へ寄附することで、その経費の最大約9割に相当する税の軽減を受けられる。自治体の側から見ると、実質的に人件費を負担せずに専門的な知識とノウハウを持つ人材を受け入れられる。内閣府の説明資料は、自治体のメリットとして関係人口の創出・拡大も期待できると書いている。

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負担が1割になる足し算の中身

最大約9割という数字は一つの控除から出てくるものではない。通常の寄附でも損金算入によって約3割の軽減効果があり、そこに税額控除による軽減が上乗せされる形で成り立っている。資料は企業の負担が約1割に収まる図を示しているので、残る約6割を税額控除が埋める計算になる。

税額控除の中身は三つに分かれる。法人住民税で寄附額の4割を控除し、上限は法人住民税法人税割額の20%。法人住民税で4割に達しない場合は、その残額を法人税から控除するが、寄附額の1割が限度で、法人税額の5%が上限になる。法人事業税は寄附額の2割を控除し、上限は法人事業税額の20%である。

1,000万円を寄附すると最大約900万円の法人関係税が軽減されるという例が資料に示されている。ただし上限がそれぞれの税額に紐づいているため、納めている税が少ない企業では9割に届かない。寄附額の下限が10万円と低く設定されている一方で、上側は事業費の範囲内に収めることが求められる点も押さえておきたい。

寄附は631億円、人材派遣型は174名

制度全体の規模は急な角度で伸びている。内閣府地方創生推進事務局が令和7年9月19日に公表した令和6年度の寄附実績では、金額が前年度比約1.3倍の約631.4億円、件数も約1.3倍の18,457件となった。寄附を行った企業は8,464社、寄附を受領した地方公共団体は1,590団体で、制度開始から9か年の累計では1,631団体が一度は寄附を受けている。

年度 寄附件数(件) 寄附額(百万円) 寄附企業数(社)
平成28年度 517 747 459
令和2年度 2,249 11,011 1,640
令和4年度 8,390 34,107 4,663
令和5年度 14,022 46,999 7,680
令和6年度 18,457 63,140 8,464
累計 52,497 187,788 29,371
内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制 令和6年度寄附実績について」から抜粋

これに対して、人材派遣型の実績は桁が違う。令和7年3月31日時点で派遣者は174名、活用団体は133団体にとどまる。寄附を受けた自治体1,590団体に対して133団体なので、使っているのは全体の1割に届かない。金額が8年で84倍に伸びた制度のなかで、人が動く部分だけが小さいまま残っている。

理由の一端は手続きの重さにあると見るのが自然である。寄附の受け入れだけなら自治体は窓口を整えれば済むが、人材派遣型では受け入れ後の業務の切り出しと、任用の形を決める作業が加わる。企業の側も、社員を一定期間出す判断は寄附の決裁とは別の話になる。

使えない相手があらかじめ決まっている

この制度は、どの自治体に対しても使えるわけではない。対象外とされているのは、不交付団体である東京都と、不交付団体で三大都市圏の既成市街地等に所在する市区町村である。加えて、本社が所在する地方公共団体への寄附は対象にならない。地元の自治体へ社員を出して税を軽くするという使い方は、はじめから閉じられている。

受け入れる側には準備がいる。寄附の対象になるのは、地方版総合戦略をもとに自治体が作成し、内閣府の認定を受けた地域再生計画に書かれた事業である。認定を受けた団体は令和7年9月5日時点で46道府県1,621市町村にのぼるため、ほとんどの自治体はこの入口を通過している。

禁止されていることもはっきりしている。寄附企業への経済的な見返りは認められない。自治体のホームページや広報誌で寄附企業名を紹介することや、公正なプロセスを経た契約は問題にならないと整理されているが、派遣された社員の所属元へ便宜を図る形は制度の外に出る。適用期限は令和7年度税制改正で3年間延長され、令和9年度までとなっている。

受け入れた後に問われるのは透明性

内閣府は人材派遣型の留意事項として、自治体が寄附企業の人材を受け入れることと、その人材の受入期間を対外的に明らかにすることを挙げている。誰がどの企業から来て、いつまでいるのかを公表して透明性を確保するという意味である。地域再生計画に記載した効果検証を実施することも、あわせて求められている。

実際の使われ方は、令和7年度の大臣表彰を受けた団体の例から読める。静岡県伊豆市は寄附実績3,700千円で、新中学校の開校を機に慶應義塾大学SFC研究所と連携協定を結び、中学校でXR防災教育を実施した。人材派遣型で入った職員が中心になり、教育と防災と地方創生をまたぐ連携が進んだと記されている。

愛知県豊田市は寄附実績10,000千円で、市域の約7割を占める山村地域の高齢者の移動課題に向けて、超小型電気自動車を管理・改造して住民に貸し出す一般社団法人の取組を支援した。どちらも、派遣された一人が複数の分野をつなぐ位置に置かれている点が共通する。人を受け入れる価値は、寄附額の大きさとは別のところに出る。

よくある質問

地域活性化起業人と人材派遣型は、どちらを選ぶべきですか。財源の出方が違うため、比べる軸は額ではなく自治体側の都合になる。前者は国が自治体に行う特別交付税措置を使い、後者は企業からの寄附で事業費を賄う。受け入れたい自治体がどちらの枠で募集しているかを確かめるのが先で、本人が選べる場面はあまり多くない。

派遣された社員の身分はどうなりますか。寄附活用事業に従事する自治体の職員として任用される形と、地域活性化事業を行う団体等で採用される形がある。どちらになるかは自治体と企業の取り決めによるため、給与の支払い元や社会保険の扱いは個別に確認することになる。

学生がこの制度に関わる機会はありますか。制度そのものは企業と自治体の間のもので、学生が直接の当事者になる場面はない。ただし寄附活用事業の現場には大学や学生が入っている例があり、伊豆市のように大学と協定を結んだ事業では学生が現地を訪ねる形で関わっている。FLASPOに届く相談でも、こうした事業の受け皿として大学の授業やゼミが使われているという話をよく聞く。

寄附した企業の名前は公表されるのですか。自治体が広報で寄附企業名を紹介することは認められている。人材派遣型ではさらに、人材を受け入れている事実と受入期間を対外的に明らかにすることが留意事項として示されているため、名前が出ない形での運用は想定されていない。

174名という数は今後増えるのですか。見通しを示す資料は見当たらない。適用期限が令和9年度まで延びたこと、寄附全体が毎年1.3倍の勢いで伸びていることを踏まえれば増える余地はあるが、受け入れ側の業務設計が追いつくかどうかが分かれ目になる。

出典:内閣府地方創生推進事務局「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の令和6年度寄附実績について」(PDF)、同事務局の制度説明資料(令和8年1月、PDF)。関連する記事は地域活性化起業人の派遣はどう決まるか、協力隊と地域活性化起業人を分けるもの、企業人を受け入れて誰が得をするか。


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