企業人を受け入れて誰が得をするか|自治体・企業・本人で分ける

受け入れた側と送った側で、得の中身がずれている

役場の担当者が庁内の会議で最初に受ける質問は、たいてい「それで何が良くなるのか」である。企業の人事が社内で受ける質問も形はよく似ているが、答えたい中身はまったく違う。片方は地域の課題がどれだけ片付くかを気にし、もう片方は社員が何を持ち帰るかを気にしている。

この食い違いは制度の文面にそのまま書かれている。総務省「地域活性化起業人制度推進要綱の一部改正について(通知)」令和8年3月23日の第1は、自治体にとっての有効性と、企業にとっての有効性を別の段落に分けて並べている。つまり「メリット」は一つの塊ではなく、立場ごとに三つある。

得を一つに丸めると、話はたいてい噛み合わないまま終わる。自治体の担当者が交付税の枠を説明しても、企業の人事が知りたいのは社員の戻りであり、本人が気にしているのは月にどれだけ現地にいるのかである。制度を使うかどうかの判断は、三つの得をいったん別々に置いてから重ねたほうが早い。

名称が二度変わっていることも押さえておきたい。平成26年度から令和2年度までは「地域おこし企業人」、令和3年度からは「地域活性化起業人」で、企業から社員を送る企業派遣型に加えて、令和6年度に副業型、令和7年度にシニア型が足された。型が増えたのは、得を受け取る側の顔ぶれが広がったからである。

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自治体の側に出るのは、専門性と交付税の枠

要綱の第1が自治体側の例として挙げているのは、マーケティング技術を活かした観光客の誘客、地域特産品の販路開拓、企業のノウハウを活かした地域中小企業支援、中心市街地活性化の実施、専門的知識を活かしたデジタル化の推進の五つである。いずれも常勤職員の採用では埋まりにくい穴で、6月以上3年以内という期間の区切りと相性がよい。

お金の出方は三段に分かれている。受け入れの期間前に要する経費は1団体あたり100万円を上限に措置率0.5、期間中に要する経費は企業派遣型なら1人あたり610万円が上限、副業型とシニア型なら報償費等と旅費がそれぞれ100万円で合計200万円が上限となる。さらに起業人が自分で発案・提案した事業の経費にも、1人あたり100万円を上限に措置率0.5がつく。

受け入れられる市町村の数も決まっている。総務省地域力創造グループ地域自立応援課「地域活性化起業人等について」は対象を1,433市町村とし、三大都市圏外の指定都市・中核市・県庁所在市にある企業の社員を使う場合は1,375市町村に狭まると整理している。自分の町が対象かどうかは、この二段の線引きで確かめることになる。

企業が取りに来ているのは、育成と関係の入口

送り出す側の文面はもっと素直である。要綱は企業にとっての利点として、社員の人材育成、地方圏との人的交流、企業における社会貢献を新しい形で果たすこと、そして経験豊富な人材への新たなライフステージの提供を挙げている。研修費を払って座らせる育成とは違い、派遣先の困りごとが教材になる点が効いている。

ただし企業に直接お金が入る仕組みではない。制度のQ&Aは、特別交付税は市町村に措置されるものなので総務省から派遣元企業に直接支払うことはないと明記し、起業人への給与は派遣元企業と受入自治体との協定書で定めるものだとしている。労災保険等の扱いも、両者の規則に沿って協議で決めるという整理である。

派遣の形も企業と自治体の合意で決まる。制度の活用までの流れは、派遣元企業と受入自治体のマッチング、協定書案の作成、協定の締結、人材の受入開始という四段で、総務省に事前の許可を取る手続きは置かれていない。総務省の側はマッチングのための登録の場を用意し、自治体は来てほしい人材像を、企業や副業に関心のある個人は提供できる内容を、それぞれ登録して探し合う形になっている。

続けて送りたい企業にも線が引かれている。同一の派遣元企業から同一の受入自治体へ連続して受け入れる場合、制度の対象は3年が上限で、前回の終了から1年を経過すれば同じ企業からでも再び対象になる。グループ会社は別企業に当たるものの、実質的に3年を超えて連続派遣することは適当ではないとされている。

本人の側に出るのは、会社の外で動く時間

三つめの得は、派遣される本人や副業で関わる個人に出る。副業型は月4日以上かつ月20時間以上の勤務に相当する業務に従事し、受入自治体での滞在日数が月1日以上あればよい。会社を辞めずに、自治体の仕事に名前を出して関われるという意味で、関わり方としては軽い。

シニア型はさらに輪郭が違う。三大都市圏などの企業に在職した経験があり、受入開始日が退職日からおおむね5年以内であることが条件で、年齢の制限は置かれていない。企業で培ったノウハウとスキルを踏まえて受入自治体が判断する、という書き方になっている。

一方で、兼ねられないものもはっきりしている。同一の人物が同時期に派遣される、または副業できる市町村は1つのみで、企業派遣型と副業型を同時に兼ねることもできない。なお一般社団法人やNPO法人に所属する者も「企業等」に該当するが、対象となるのは定款等に基づきその法人の主たる活動に直接従事している者で、単なる会員は含まれない。

得の裏についている条件を、先に数える

誰に出るか 何が得になるか 裏づけ
自治体 常勤採用せずに専門人材を6月以上3年以内で置ける 要綱第2・第3
自治体 受入前・期間中・提案事業の三区分で特別交付税が入る 要綱別紙3
企業 派遣先の課題を教材にした人材育成と人的交流 要綱第1
企業 社会貢献を新しい形で果たす機会 要綱第1
本人(副業型) 月4日・20時間から在職のまま関われる 要綱第3(2)
本人(シニア型) 退職後おおむね5年以内の新しい持ち場 要綱第3(3)

表に並べた得には、ほぼ全てに条件が貼りついている。算定の対象を見ると、同一の派遣元企業から複数名が派遣されている場合は受入自治体1団体あたり2名までで、受入自治体から従前より給与等を支払われている者は対象から外れる。協定期間の途中で人を替えるのは差し支えないが、派遣期間が継続して6月以上でない者は措置の対象にならない。

受入自治体に課される配慮も二方向ある。研修の実施や地域との交流の機会の確保といった前向きなものと、派遣元企業と請負契約を結ぶ蓋然性の高い業務に従事させないという抑えのほうである。前者を省くと本人の得が消え、後者を省くと制度そのものの信用が消える。

時間の感覚も合わせておきたい。制度の活用はいつでも可能だが、特別交付税が措置されるのは年度末で、年度の中途から受け入れた場合は月割で上限が計算される。得は確かに三方向に出るが、どれも後払いで、条件を満たした分だけ出る。学生のうちからこの制度に入る枠はないので、関わり方を探すならFLASPOのように学生のまま地域と組める場を先に見ておくほうが早い。

よくある質問

特別交付税は派遣元企業に直接入るのですか

入りません。特別交付税は市町村に措置されるもので、総務省から派遣元企業へ直接支払われることはないと制度のQ&Aに明記されています。起業人への給与は、派遣元企業と受入自治体が結ぶ協定書で定めます。

学生でも地域活性化起業人になれますか

なれません。企業派遣型は企業等に勤務する社員、副業型は在職中の社員、シニア型は企業を退職した個人が対象で、在学中の学生を想定した枠はありません。企業に入ってから副業型で関わるのが現実的な経路です。協力隊との違いは協力隊と地域活性化起業人を分けるもので整理しています。

シニア型に年齢の制限はありますか

ありません。制度のQ&Aは年齢制限を置かず、企業で培ったノウハウや本人のスキルを踏まえて受入自治体が判断するとしています。条件になるのは年齢ではなく、受入開始日が退職日からおおむね5年以内かどうかです。

NPO法人の職員は対象になりますか

なります。一般社団法人やNPO法人等は要綱別紙の「企業等」に該当します。ただし対象は定款等に基づいてその法人の主たる活動に直接従事している者で、単に会員になっているだけの人は含まれません。

人数や受入団体数の実績はどこで見られますか

総務省が毎年度まとめて公表しています。人数の内訳は地域おこし企業人は今どこにいるか、送り出す企業の顔ぶれと分野別の中身は企業から来た社員は何をしているかで扱っています。


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