住民794人の地域にデジタル村民1,800人|NFTが開いた関係人口の形

新潟県長岡市山古志で2021年に始まったこと

地域に関わりたいが移住はできない、という前提をそのまま制度にした例が新潟県長岡市にある。旧山古志村の住民が集まる山古志住民会議は、2021年12月14日、地域の象徴である錦鯉をシンボルにしたデジタルアート「Nishikigoi NFT」を発行した。単なるアートの販売ではなく、山古志地域の電子住民票という意味合いを持たせている点が特徴である。購入者は「デジタル村民」と呼ばれる。

この取組は内閣官房のデジタル田園都市国家構想のサイトにある「デジ田メニューブック」に、2022年冬のDigi田甲子園の事例として収録されている。取組開始年度は2021年度、主な実施地域は新潟県長岡市、連携団体は株式会社TARTと記載され、関連タグには「関係人口創出」が付いている。国の側が関係人口の創出事例として位置づけているわけで、個別の地域の思いつきとして扱われているのではない。

背景には人口の減り方がある。地方自治研究機構の令和6年度の先進事例調査研究によると、きっかけは2004年10月の新潟県中越地震と2005年の長岡市への編入だった。被災当時は2,200名以上いた村民が2021年にはおよそ720人まで減っている。なお集計の範囲によって2021年前後の住民数は720人台から830人台までの幅があり、どの区域を数えた値なのかを確かめないと比較を誤る。

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発行から1年で住民の数を追い越した

数字の並べ方を間違えなければ、この事例で何が起きたのかは一目で分かる。内閣官房の掲載情報では、Nishikigoi NFTを保有するデジタル村民は2022年11月28日現在で1,032名だった。同じ時期の山古志住民は2022年12月1日現在で794名、その1年前の2021年12月1日現在では834名である。発行から約1年で、デジタル村民の数がその地域に実際に住む人の数を上回った。

時点 山古志住民 デジタル村民 帰省の延べ人数
2021年12月1日 834名 発行直後 記録なし
2022年11月から12月 794名 1,032名 約140名
2024年11月末 公表なし 約1,800名 公表なし
2025年1月末 公表なし 公表なし 1,000人

その後も増えている。地方自治研究機構の報告では、錦鯉NFTの発行数は2024年11月末現在で約3,000点にのぼり、デジタル村民は約1,800名で、実際の地域住民より多い状態が続いている。発行数と村民数が一致しないのは、1人が複数を保有する場合があるためである。2年で住民数の2倍以上に増えた関わり手を、住民40名ほどの減少と並べて見ると、関わりの総量だけは増えている。

ただし人数が増えたこと自体を成果と呼ぶのは早い。保有者の名簿が増えても地域で何も起きなければ、それは名義の集まりにすぎない。見るべきは、その人たちが実際に動いたかどうかである。

「帰省」と呼ばれる訪問が延べ1,000人になった

デジタル村民が山古志を訪れることは、この地域では「帰省」と呼ばれる。内閣官房の掲載情報では、2022年の時点でデジタル村民の帰省人口は延べ約140名を超えたとされ、デジタル村民を主体とするプロジェクトの立ち上げやコミュニティへの参画が進み、自律的なコミュニティ運営が始まりつつあると書かれている。

その2年後の数字が地方自治研究機構の報告に載っている。錦鯉NFTの発行後、2025年1月末までに延べ1,000人が訪問し、地域住民と対話しながら地域課題の共有を行ってきた。延べ約140名から延べ1,000人へ、2年余りで7倍である。この過程で地域住民とデジタル村民をつなぐ役割を果たす存在も生まれ、新しい文化の育成につながったとまとめられている。

関係人口の議論では、訪問をともなう関わりと訪問をともなわない関わりが分けて数えられる。デジタル村民は購入の時点では訪問をともなわない側に入るが、帰省という形で訪問側へ移った人が延べ1,000人いる。オンラインの関わりが実際の来訪に変わった割合を追える事例は少ない。非訪問系379万人の内訳と並べて見ると、この移り方の意味が分かりやすい。

NFTが持たせた機能は所有ではなく参加だった

仕組みの面で参考になるのは、権利の設計である。地方自治研究機構の報告によれば、錦鯉NFTはコミュニティへのアクセス権やガバナンストークンとしての機能を持ち、デジタル村民の帰属意識を高める役割と、村おこし活動に参画する権利を与える役割を担っている。そして村おこし活動の財源は錦鯉NFTの売上である。買った金額が活動資金になり、買った人が使い道を決める側に回る。

決める場も用意されている。デジタル村民は専用のコミュニティチャットであるDiscordで、地域を存続させるためのアイディアや事業プランを出し、その実施の可否を投票で決める。この投票は「山古志デジタル村民総選挙」と呼ばれ、錦鯉NFTの売上の一部を活動費に充てることを宣言したうえで、アクションプランをデジタル村民から募る形で行われた。第1弾では、山古志住民に対して錦鯉NFTを無償配布するかどうかを問う投票も行われ、結果は100%賛成だった。地域住民にも投票権としての錦鯉NFTが渡っている。

組織の形も動いた。2023年2月11日、地域住民とデジタル村民によって「ネオ山古志村」が設立され、それを支える「世話人DAO」も発足して、チームごとに分かれて運営している。NFTの発行業務は、この取組の中から生まれた株式会社クリプトヴィレッジが担当するようになった。関わる人を増やす仕組みと、その人たちが決める仕組みと、実務を回す法人が別々に立っている。関係人口の登録制度389団体の内側と比べると、登録して終わりにしない設計になっている点が違う。

真似する前に見ておくべき二つの課題

同じ形を別の地域に持ち込もうとする相談は多い。内閣官房の掲載情報でも、この取組を参考にした同様のプロジェクトが各地で構想され、相談が多数寄せられていると書かれている。ただし担当者が挙げた課題は二つあり、どちらも人数の話ではない。

ひとつは新しいデジタル村民をどう獲得するかである。山古志で生まれた現象は「LocalDAO」と定義され、山古志DAOはネオ山古志村と世話人DAOへ進化し、錦鯉NFTは各LocalDAOへの入口として機能するようになった。この経緯を理解してもらったうえで新しい参加者を確保することは容易ではなく、広い視点と個別の視点の両方から継続的に情報を発信して認知度を高めることが課題だとされている。経緯が積み上がるほど、入口の説明は長くなる。

もうひとつは住民との接点を保ち続けることである。内閣官房の掲載情報では、融合を加速させたい思いの反面、実際に住む人とデジタル村民のコミュニティを融合させる難しさを感じていると率直に書かれている。地方自治研究機構の報告も、延べ1,000人の帰省は摩擦や葛藤を乗り越えながら双方が共に歩んできた結果だと記している。助言として挙げられているのは、デジタルとリアルの双方を理解して丁寧につなぐブリッジ役となる人材を育てること、または見出すことである。技術ではなく人の配置が要になる。学生のうちから関わり方の種類を知っておきたい場合は、関係人口2,263万人と協力隊8,196人を関わりの深さで並べた整理やFLASPOが参考になる。

よくある質問

デジタル村民になると住民票が移るのですか

移らない。錦鯉NFTは山古志地域の電子住民票という意味合いを持たせたものだが、法律上の住民登録とは別である。保有によって得られるのはコミュニティへのアクセス権と村おこし活動に参画する権利で、行政上の住民としての地位ではない。

人数の出典はどこですか

2022年までの値は内閣官房のデジ田メニューブックの掲載ページにある。デジタル村民1,032名は2022年11月28日現在、山古志住民794名は2022年12月1日現在、834名は2021年12月1日現在の値である。2024年11月末の約1,800名と発行約3,000点、2025年1月末までの帰省延べ1,000人は、地方自治研究機構の令和6年度先進事例調査研究の報告による。

売上は誰がどう使うのですか

村おこし活動の財源に充てられ、使い道はデジタル村民の投票で決まる。山古志デジタル村民総選挙では、売上の一部を活動費に付与すると宣言したうえでアクションプランを募り、実施の可否を投票で決めた。地域住民にも投票権として錦鯉NFTが配布されているため、住民とデジタル村民の双方が決定に加わる形になっている。

他の地域でも同じことができますか

仕組みだけを移すことは可能だが、担当者が課題に挙げた二点が先に来る。経緯を理解してもらったうえで新規の参加者を集めることと、実際に住む人との接点を保ち続けることである。デジタルとリアルをつなぐブリッジ役の人材がいるかどうかが、助言として最も強く挙げられている。発行の前に、誰がその役を担うのかを決めておく必要がある。

この取組は関係人口の施策として評価されているのですか

内閣官房の掲載情報では関連タグに「関係人口創出」が含まれ、成果の欄には、web3と地方創生の先進事例として広く認知され、国の審議会等での事例紹介が増えたと書かれている。地方自治研究機構も令和6年度の先進事例として調査対象に選んでいる。国と研究機関の双方が事例として扱っている取組である。


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