一つの仕事では一年が埋まらない地域で
4月から10月は農業、11月から3月は酒造業。午前は介護事業所、午後はこども園。人口が急に減っている地域の求人を並べると、こうした季節や時間で切れた仕事ばかりが残っていることがあります。働く側は一年分の収入にならず、雇う側は繁忙期だけ人が足りない。どちらも困っているのに噛み合わないという状態が長く続いてきました。
この隙間を埋めるために作られたのが特定地域づくり事業協同組合です。根拠法は地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律で、組合が職員を雇い、組合員である地域の事業者へ派遣します。認定するのは都道府県知事で、10年ごとの更新制です。令和8年度の当初予算額は6.2億円、前年度は5.6億円でした。
認定の対象になる地区は、同法第3条第3項第1号で二つの条件を満たすものとされています。一つの都道府県の区域を越えず、自然的経済的社会的条件から見て一体と認められる地区であること。そして人口規模・人口密度・事業所の数などに照らして、地域づくり人材の確保に特に支援が必要と認められる地区であることです。市町村単位のほか、平成の合併前の旧市町村単位でも設立でき、一つの市町村に複数の組合を置くこともできます。過疎地域の指定基準を扱った記事と見比べると、対象地域の重なりが見えてきます。
組合は141件、41道府県144市町村まで広がった
総務省の資料によれば、認定された組合は令和8年4月1日現在で141組合、所在は41道府県144市町村です(交付決定ベース)。増え方は急です。令和2年12月時点で2組合、令和3年12月に28、令和4年12月に66、令和5年12月に92、令和6年12月に106、令和7年12月に136と、毎年2割から3割のペースで積み上がってきました。
分布には濃淡があります。島根県は松江市・浜田市・益田市・大田市・安来市・雲南市・奥出雲町・飯南町・邑南町・津和野町・海士町・西ノ島町・知夫村・隠岐の島町・吉賀町と15の市町村に組合があり、鹿児島県、熊本県、長崎県、福島県、北海道にもまとまった数が並びます。一方で、茨城県のかすみがうら市、埼玉県の小鹿野町、栃木県の茂木町、富山県の南砺市、沖縄県の伊平屋村のように1市町村だけという県もあります。
今後の見込みも調査されています。令和7年12月1日時点で1,718市町村を対象に行われた活用意向調査では、認定済み140市町村、令和7年度中の認定見込み3市町村、令和8年度中33市町村、令和9年度中12市町村を合わせて活用意向ありが188市町村、検討中が242市町村、合計430市町村という結果でした。全市町村の4分の1がこの制度を視野に入れている計算になります。
働いている833人は、どこから来た誰なのか
令和7年4月1日までに採用された派遣職員の総数は833人です。年代の内訳を見ると、20代が267人で32パーセント、30代が211人で25パーセントを占めます。10代から30代までを合わせると486人、およそ6割がこの層です。40代以上も4割近くいるため、若手限定の枠ではありません。
| 年代 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 10歳代 | 8人 | 1% |
| 20歳代 | 267人 | 32% |
| 30歳代 | 211人 | 25% |
| 40歳代 | 168人 | 20% |
| 50歳代 | 126人 | 15% |
| 60歳代以上 | 53人 | 7% |
住まいの動きのほうがこの制度の性格をよく表しています。他の都道府県から移住した人が424人で51パーセント、同じ都道府県内の他の市町村から移住した人が103人で12パーセント。合わせて6割強が引っ越しを伴って入っています。以前からその市町村に住んでいた人は219人(26パーセント)、転居せずに市町村外から通勤している人は87人(10パーセント)です。資料には、移住した人のうち57人はUターン者、35人は地域おこし協力隊の経験者だという注記が添えられています。過疎化と若者のUターンを扱った記事と並べると、この制度が受け皿の一つになっていることが分かります。
お金の流れは利用料と公費で半分ずつ
組合の収入は二つに割れています。派遣先の事業者から受け取る利用料金収入が2分の1、市町村からの助成が2分の1という構成です。市町村が出す助成のうち4分の1は特定地域づくり事業推進交付金として国が負担し、8分の1は特別交付税で措置され、実質的な地方負担は8分の1に収まります。利用料だけでは成り立たない仕事を、公費が半分支えている形です。
補助対象経費には上限があり、令和8年度に引き上げられました。派遣職員の人件費は1人・年あたり400万円から450万円へ、事務局運営費は1組合あたり600万円から670万円へ。組合の設立年度だけに使える特別交付税措置も、対象経費の上限が1組合300万円から390万円へ上がりました(措置率2分の1)。人件費の上昇を踏まえた見直しだと説明されています。
認定の基準には就業条件への配慮も入っています。地区内の他の事業者の正規職員の給与等の水準を踏まえた一定の給与水準を確保すること、職員を健康保険・厚生年金保険に加入させること、派遣労働者のキャリア形成のための段階的・体系的な教育訓練と相談の体制を整えることの3点です。大型特殊免許の取得費用を助成した農業関係の例や、草刈機の取扱研修を行った林業関係の例が挙げられています。
辞めたあとの行き先と、地域おこし企業人との違い
退職者の動向も公表されています。組合員企業に直接雇われた人が103人で29パーセント、市町村内の組合員以外の企業に就職・起業等をした人が87人で25パーセント。この二つを合わせた約半数が、組合のある市町村にそのまま住み続けています。組合が所在する市町村外へ転居した人は116人(33パーセント)、所在不明が46人(13パーセント)です。地域に入る入口としてだけでなく、出口の実績も数字になっている制度だと言えます。
同じ総務省の制度でも、地域活性化起業人は組み立てが違います。こちらは都市部の企業等に勤める社員が身分を変えずに受入自治体へ派遣される仕組みで、期間は6か月以上3年以内、通算3年が上限です。企業派遣型の場合、受入自治体が支出した対象経費のうち一般財源の合計額が特別交付税で措置され、1名につき610万円が上限になります(令和8年3月23日改正の要綱による。令和8年度から対象)。副業型とシニア型では報償費等と旅費がそれぞれ100万円を上限とする扱いです。
雇う主体が組合なのか派遣元企業なのか、期間に上限があるのかないのか、という点で両者は別の道具です。組合は地域の中で一年分の仕事を組み立てる装置であり、起業人は外の知見を期間限定で持ち込む装置だと整理すると選び分けられます。社会保険の扱いの違いは副業型の加入要件を扱った記事に詳しく、地域で何かを始める入口を探している人はFLASPOの企画も選択肢に入ります。
よくある質問
組合の職員になると、雇用はいつまで続きますか。
組合が雇用主となり、所得の安定と社会保障の確保が制度の目的に置かれているため、任期で区切られる仕組みではありません。認定そのものは10年ごとの更新制ですが、これは組合に対する認定の期間であって、職員の雇用期間を定めたものではありません。実際の契約条件は組合ごとに確かめる必要があります。
市町村の施設へ派遣されることもありますか。
令和7年の法改正でそこが変わりました。中小企業等協同組合法の制約で、市町村は組合員になれず、組合員以外への派遣(員外利用)は員内利用の20パーセントまでに抑えられていました。改正後は市町村等への派遣に限り、この上限が員内利用の50パーセントまで緩和されています。施行日は令和7年7月1日です。直営のスキー場やイベント時期の人手不足と、組合側の閑散期の派遣先確保という双方の事情が背景にあります。
組合の一覧や最新の件数はどこで確認できますか。
総務省地域力創造グループ地域自立応援課が制度概要の資料を公表しており、認定された組合の都道府県別・市町村別の一覧と組合数の推移が載っています。出典は総務省の特定地域づくり事業協同組合についての資料で、地域活性化起業人側の条件は推進要綱の改正通知で確かめられます。
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