学生が地域団体商標に関わる道|831件の分布と15チームの前例

産地の名前は、個人の持ち物にはならない

ゼミで地域の特産品を扱うことになり、商品名をそのままプロジェクト名に使おうとして止められた、という話はよく聞く。地名と商品名を組み合わせた名前には、たいてい先に権利者がいる。特許庁の地域団体商標制度は、「地域名」と「商品やサービスの名称」からなる名前を、地域の団体の名義で登録できるようにした仕組みである。狙いは地域経済の活性化で、通常の商標と違い、個人や一社では出願できない。

出願できるのは商標法第7条の2が定める「組合等」に限られる。農業協同組合、漁業協同組合、事業協同組合といった、法律で設立され、かつ加入を正当な理由なく断れない団体である。加入自由の原則が条件に含まれているのは、産地の名前が一部の事業者に囲い込まれるのを防ぐためだ。登録には、その名前が地域と結びついた商品に使われ、一定の範囲で知られている状態になっていることも要る。つまり先に実績があり、そのあとに権利が追いつく順番になる。

学生の側から見ると、ここが最初の分かれ目になる。産地の名前を使った企画を立てるとき、相手は自治体ではなく、その名前を登録している組合であることが多い。誰が権利を持っているかを調べる作業が、企画の第一歩になる。

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件数は産地の数ではなく、組合の数を映している

特許庁が公表している都道府県別の集計を見ると、制度の広がりかたに偏りがあることが分かる。令和8年9月末現在で、出願は合計1,393件、これまでに登録されたものの累計が831件、いま権利が生きているものが804件である。累計と有効の差は、存続期間の満了などで権利が消えた分にあたる。商標権の存続期間は登録日から10年で、続けるには更新の手続が必要になる。

都道府県 出願件数 累計登録件数 有効登録件数
京都府 154 70 69
兵庫県 75 48 47
北海道 71 45 44
石川県 55 40 38
沖縄県 48 19 18
茨城県 9 5 5
鳥取県 6 6 6
全国計 1,393 831 804
特許庁「地域団体商標 都道府県別出願・登録件数」(令和8年9月末現在)から抜粋。全国計には外国からの出願9件・登録4件を含む

京都府の154件は二番目の兵庫県の二倍を超える。一方で鳥取県は6件だが、出願した6件がすべて登録に至っていて、出した数に対する通り具合では全国で最も高い。沖縄県のように出願48件に対し有効登録18件という県もある。件数の多い県が名産に恵まれているとは限らず、出願の手続を担える組合がどれだけ組織されているかが反映されている。地域ブランドの分布を読むときは、産品の豊かさと組合の体力を分けて見たほうがよい。

学生が産地と組んだ前例は、国の企画として残っている

大学と地域ブランドの関わりは、思いつきの話ではない。特許庁は2017年度に「九州地域ブランド総選挙」を始め、2018年度は東海・北陸、2019年度は東北と対象を広げ、2020年度には全国規模の「全国地域ブランド総選挙」を開催した。地元の学生が地域団体商標の権利者を取材し、その魅力をInstagramで発信して、商品展開やPR方策まで提案する企画である。参加したのは15の団体・学校で、審査を経て9チームが2021年2月6日の決勝に進んだ。

顔ぶれを見ると、組んだ相手の性格がよく分かる。岐阜の「ひるがの高原だいこん」はめぐみの農業協同組合と岐阜大学の地域協学センター、愛媛の「戸島ぶり」は愛媛県漁業協同組合うわうみ支所と県立の水産高校、熊本の「小国杉」は小国町森林組合と熊本大学文学部、香川の「庵治石」は三つの石材関係の組合と香川高等専門学校という組み合わせだった。最優秀賞は「西尾の抹茶」で、西尾茶協同組合と名古屋大学等のTongaliプロジェクトが組んでいる。相手は農協・漁協・森林組合・酒造組合・工業組合・商工会と幅があり、大学の側も農学部から文学部、経営経済学部、生活環境学部まで散らばっていた。

この企画は2020年度をもって終了している。それでも、どの学部からでも産地に入れることと、入るときの単位が「組合ひとつ」であることを示した記録としては使える。大学の地域連携PBLとは|企業連携型との違いと単位の数え方で整理した授業の枠組みに、この相手の選び方を重ねると企画書が組みやすくなる。

制度の入口は、いまは別の形で開いている

総選挙が終わったあと、特許庁の広報は展示型の催しに移っている。令和7年度の「魅力発見!地域ブランドフェスタ」は8月・10月・12月の3回、各回2日間で計6日間開かれ、合計で約3万名が来場した。第1回が約1万名、第2回が約9千名、第3回が約1万1千名以上で、第3回では農林水産省と連携して地理的表示に登録された産品も出店している。来場者アンケートでは、地域団体商標についての知見が深まったと答えた割合が92.4パーセント、全体の印象に満足したと答えた割合が81.6パーセントだった。

相談の窓口も用意されている。知財総合支援窓口は全国47都道府県に置かれ、出願に関する相談を無料で受ける。制度説明やセミナーの講師派遣も行われていて、旅費や謝金は不要とされている。勉強会にも使ってよいと明記されているので、ゼミや学生団体が最初に当たる先としては現実的である。産地の名前を扱う企画を立てるなら、組合に話を持ち込む前にこの窓口で制度の形を押さえておくと、提案の精度が上がる。

出願できる団体の範囲は、少しずつ動いている

組合等に限られていた主体の要件には、例外が加わっている。地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律、通称の地域未来投資促進法に基づき、同法第23条第1項または第2項の要件を満たす一般社団法人は、商標法第7条の2第1項の「組合等」とみなされ、地域団体商標の出願ができる。条件は、都道府県知事等に承認された地域経済牽引事業計画の承認事業者に含まれていること、査定の時点でその計画の実施期間内にあること、そして定款に加入自由の原則が書かれていることである。

この特例は、産地に組合がない、あるいは組合をまとめきれないという場面を想定している。新しく法人をつくって産品を売り出すような動きが、権利の側から取り残されないようにする手当てだと読める。提出する書類は、事業計画の承認申請書の写し、承認の通知書、定款の写し、登記事項証明書などで、手続は軽くない。ただ、組合がないから無理だという前提は、もう正しくない。地域の名前を事業にしようとする若い世代が制度の外に置かれない設計になりつつある、という点は押さえておきたい。

地域の名前を誰が預かるのかという論点そのものは、産地の名前は誰のものか|若者が地域ブランドに加わる前の確認事項で扱った。大学が地域に対して負っている役割の全体像は大学は地域の何を担っているのか|法律・交付金・事業の三層で読むにまとめてある。地域と関わる進路そのものを考えている段階なら、FLASPOのような地域と若者をつなぐ場も入口のひとつになる。

よくある質問

学生の団体で地域団体商標を出願できるか。できない。出願できるのは法律に基づいて設立され加入自由の原則を満たす組合等、または地域未来投資促進法の要件を満たす一般社団法人に限られる。学生側の役割は、権利を持つ団体と組んで発信や商品提案を担うところにある。

すでに登録されている名前を、企画やイベントの名称に使ってよいか。権利者の許諾なく商品やサービスの表示として使うことはできない。取材記事や研究発表で言及するのとは別の話になる。使い方を決める前に権利者へ確認するのが安全で、都道府県別・分野別・五十音順の登録案件一覧が特許庁のサイトで公開されているので、まず誰が持っているかを調べられる。

地理的表示とは何が違うのか。地理的表示は農林水産省が所管する制度で、その地域の自然的・人文的・社会的な要因のなかで育まれた品質や評価を持つ産品の名称を保護する。地域団体商標は特許庁が所管する商標権の一種で、権利者が自ら侵害に対応する形をとる。令和7年度のフェスタ第3回では両制度の産品が同じ会場に並んでおり、併せて取得している産地もある。

権利は取ったあと放っておけるか。存続期間は登録日から10年で、更新しなければ消える。累計登録831件に対して有効登録が804件であることは、更新されなかった権利が実際にあることを示している。審査官の拒絶査定に納得できない場合は拒絶査定不服審判を請求できる仕組みもあり、出願から維持までを担う人が組合の中にいるかどうかが、産地の体力を測る一つの目安になる。

出典は特許庁「地域ブランドの保護は、地域団体商標制度で」(制度の案内)、同「地域団体商標 都道府県別出願・登録件数」(令和8年9月末現在)、同「全国地域ブランド総選挙」による。


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