課題があることと、誰かが払うことは別の話
空き家が増えている。買い物に行けない高齢者がいる。祭りの担ぎ手が足りない。地域を歩けば課題はいくらでも見つかる。見つかるのに事業にならないのは、課題の数と支払いの意思が一致しないからだ。
困っている人がいることと、その人が月いくら払えるかは別の問題である。買い物に行けない高齢者が三十人いる集落で、移動販売を週二回回すのに必要な売上はいくらか。三十人が一回に千円使っても週六万円で、車両費と人件費と仕入れを引くと残らない。学生起業で地域課題を扱うときに最初に詰まるのはここで、課題の深刻さに比例して払える額が増えるわけではない。
だから順番を入れ替えて考える必要がある。どの課題に取り組むかを決める前に、その領域で誰が支払う側に立っているかを確かめる。地域の場合、その相手は住民だけではない。国の制度と自治体の予算が、支払い側として制度の中に書き込まれている。
国の制度は社会的事業という言葉で範囲を決めている
内閣府の地方創生起業支援事業は、地域の課題解決に資する社会的事業を新たに起業する人を対象に、伴走支援と事業費への助成を行う制度である。助成は最大200万円で、起業等に必要な経費の2分の1に相当する額が交付される。
どの分野が社会的事業にあたるのか。内閣府は子育て支援、地域産品を活用する飲食店、買い物弱者支援、まちづくり推進などを挙げ、地域の課題に応じた幅広いものが想定されると説明している。ただし要件となる具体的な分野と申請書類、受付期間は各都道府県または各市町村が設定する仕組みで、国が全国共通の一覧を配っているわけではない。
この設計は、学生にとって手間と機会の両方を意味する。手間というのは、応募先ごとに対象分野を読み直す必要があることだ。機会というのは、自分が取り組みたい領域を分野として掲げている自治体を探せば、同じ事業計画の通りやすさが変わるという意味である。計画を先に固めて全国どこでも出せる制度ではなく、分野の設定が合う土地を選ぶ制度だと捉えたほうが近い。
制度の説明は内閣府の起業支援金のページにまとまっている。
居住要件が、在学中に応募できるかどうかを分ける
在学中に出せるのか、卒業を待つのか。この判断を決めるのは年齢ではなく場所の要件である。
新たに起業する場合の要件は三つある。東京圏以外の都道府県や市町村、または東京圏内の条件不利地域で社会的事業を起業すること。国の交付決定日以降、補助事業期間完了日までに個人開業届または法人設立を行うこと。そして起業地の都道府県内に居住しているか、居住する予定であることだ。年齢の上限や下限はページには書かれていない。
在学中の学生にとって効いてくるのは三つ目である。大学のある県で起業するなら居住の条件は現状で満たせるが、帰省先の県で起業するなら居住する予定であることを示す必要が出てくる。二つ目の要件も見落としやすい。交付決定より前に開業届を出してしまうと対象から外れるため、思い立った順に手続きを進めると要件を自分で壊してしまう。
実施している自治体の範囲にも制約がある。東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府はこの事業を実施しておらず、令和8年度は他の43道府県で行われている。都内の大学に通いながら都内で起業する計画には、この制度は使えない。
継続的な売上の相手は、多くの場合その町の役所
立ち上げの資金が一度きりの助成で埋まっても、翌年からの売上は別に要る。地域で課題解決型の事業を続けている事業者の収入源をたどると、かなりの割合が自治体からの発注に行き着く。その代表が公の施設の指定管理である。
総務省の調査によると、令和6年4月1日現在で指定管理者制度が導入されている施設は79,332施設ある。内訳は都道府県が6,658施設、指定都市が8,016施設、市区町村が64,658施設で、令和3年4月1日現在の前回調査の77,537施設から1,795施設増えた。
| 区分 | 導入施設数 | うち民間企業等が指定管理者 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 都道府県 | 6,658施設 | 2,810施設 | 41.9% |
| 指定都市 | 8,016施設 | 4,019施設 | 49.0% |
| 市区町村 | 64,658施設 | 28,743施設 | 44.2% |
| 合計 | 79,332施設 | 35,572施設 | 44.5% |
民間企業等という区分には株式会社、NPO法人、企業共同体等が含まれ、全体で35,572施設、44.5パーセントを占める。前回調査の43.1パーセントから1.4ポイント増えている。公民館や体育館、観光施設、道の駅、子育て支援拠点といった施設の運営が、四割を超える割合で民間に開かれているということだ。地域課題を扱う事業にとって、ここは探すべき発注元である。
数字は総務省の公の施設の指定管理者制度の導入状況等に関する調査結果による。
五年と半分という二つの数字が、参入の時機を決める
発注元が分かっても、入れる時期が合わなければ意味がない。同じ調査には、そこを読むための数字も載っている。
指定期間の分布は、5年が77.1パーセントで最も多く、5年超が7.0パーセント、3年が10.9パーセント、4年が3.2パーセント、3年未満が1.8パーセントである。前回調査では5年が72.7パーセントだったので4.4ポイント増え、期間は長期化の傾向にある。つまり一つの施設の運営権が動くのは、平均して五年に一度しかない。
さらに公募で選ばれているのは全体の53.4パーセントにとどまる。都道府県では66.1パーセント、指定都市では67.7パーセント、市区町村では50.3パーセントで、前回調査の50.9パーセントから2.5ポイント増えてはいるが、市区町村では半分が公募を経ていない。小さな自治体ほど、既存の団体がそのまま継続する形が残っているということだ。
この二つを合わせると、学生が狙うべき動き方が見える。今すぐ受注できる枠を探すより、関心のある自治体の指定管理の更新時期を調べて、その年に間に合うよう実績を積むほうが現実的である。更新の時期は各自治体が公表しており、募集要項が出る半年から一年前には準備を始める必要がある。
学生起業そのものの現状は学生起業の現状を数字で読むに、課題解決型の事業の定義はソーシャルビジネスの定義に整理してある。起業する土地の選び方は起業家の移住先はどう絞るかが扱っている。地域とのつながりを先に作りたい場合は、FLASPOのように学生と地域をつなぐ事業者を経由する手もある。
更新時期を調べる手順も具体にしておきたい。自治体のサイトで指定管理者の選定結果を探すと、施設名と指定期間の開始年月日と終了年月日が一覧で載っている。終了年月日から逆算して、募集要項が出る時期に何を持っていれば審査に乗るかを考える。選定基準として最も多く挙げられているのはサービス向上で、次に業務遂行能力、管理経費が続く。価格の勝負ではなく、運営の中身で比べられる設計になっている。
よくある質問
在学中に法人を作らないと起業支援金は使えませんか。個人開業届でも要件を満たす。重要なのは交付決定日以降、補助事業期間完了日までに手続きを行うことで、順番を逆にすると対象外になる。
助成の200万円は全額もらえますか。交付されるのは起業等に必要な経費の2分の1に相当する額で、上限が200万円である。400万円の経費を見込んでようやく上限に届く計算になる。
指定管理に学生の会社でも手を挙げられますか。制度上は株式会社やNPO法人が指定管理者になっており、設立年数の全国共通の制限はない。ただし選定基準にはサービス向上や業務遂行能力が置かれるため、実績のない段階では既存の事業者と組む形が入りやすい。
どの課題から手をつければいいですか。自治体が分野として掲げているものと、指定管理の対象施設が重なる領域が最も探しやすい。子育て支援や買い物弱者支援は両方に現れやすく、制度の側から見ても事業の側から見ても手がかりが多い。
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