創業まもない会社に個人が数百万円を出す。この行為には、上場株を買うのとはまったく違う税金の扱いが用意されている。制度の名前はエンジェル税制で、措置は4種類ある。どれを使えるかは出資した相手の設立年数と資本構成で決まるため、投資を決めた後に調べると選べる措置が残っていないことがある。順番を逆にしないための勘所を先に置いておきたい。
上場株への投資と決定的に違う二つの点
第一の違いは換金のしにくさである。未上場株には取引所がなく、売りたいときに売れる保証がない。回収の機会は、投資先が上場するか、他社に買われるか、どちらかが起きたときにほぼ限られる。数年単位で資金が動かせなくなる前提で金額を決める必要があり、生活費や近く使う予定のある資金を充てる対象ではない。
第二の違いは、損が出たときの救済が制度として組まれている点にある。未上場のスタートアップ株式を売って損失が出た場合、その年の他の株式譲渡益と通算できるだけでなく、その年に相殺しきれなかった損失は翌年以降3年にわたって順次譲渡益と通算できる。投資先が上場しないまま破産や解散をして株式の価値がなくなった場合も、同じように翌年以降3年の繰越が認められる。失敗率の高さを前提に設計された救済だと読める。
同じ「個人がお金を出す」行為でも、株式投資型のクラウドファンディングを経由する形とは手続きが分かれる。資金の性質ごとの違いはクラウドファンディングの種類を整理した記事と金融型クラウドファンディングの記事で扱っている。
4つの措置を控除先と上限で並べてみる
投資時点で使える措置は、控除の相手先が「総所得金額」なのか「株式譲渡益」なのかで性格が割れる。前者に当たるのが優遇措置Aで、後者が優遇措置Bと二つの非課税措置である。経済産業省が示している整理を表にすると、選択の軸がはっきりする。
| 措置 | 控除先 | 内容 | 控除上限額 | 設立年数 | 外部資本比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 起業特例 | その年の株式譲渡益 | 非課税 | 上限なし(非課税は20億円までで超過分は課税繰延) | 1年未満 | 1/100以上 |
| 優遇措置A | その年の総所得金額 | 課税繰延 | 総所得金額×40%と800万円の低い方 | 5年未満 | 1/6以上 |
| 優遇措置A-2 | その年の総所得金額 | 課税繰延 | 総所得金額×40%と800万円の低い方 | 5年未満 | 1/20以上 |
| 優遇措置B | その年の株式譲渡益 | 課税繰延 | 上限なし | 10年未満 | 1/6以上 |
| プレシード・シード特例 | その年の株式譲渡益 | 非課税 | 上限なし(非課税は20億円までで超過分は課税繰延) | 5年未満 | 1/20以上 |
起業特例は他人の会社への投資ではなく、自分が会社を設立するときの自己資金による出資額の全額を対象とする。優遇措置Aは控除の対象が投資額から2,000円を引いた額になる点が他と異なる。優遇措置A-2は、優遇措置Aにプレシード・シード特例の企業要件(営業損益0未満など)を追加で満たす場合に、外部資本比率の条件が1/6以上から1/20以上へ緩む扱いを指す。詳細は経済産業省のエンジェル税制のページに掲げられている。
投資する個人の側に付いてくる三つの条件
制度を使えるかは、金額ではなく立場で切られる。払込みをした日の時点で、次の三つを満たしていることが求められる。一つめは同族の支配との距離で、投資先が同族会社である場合、持株割合の大きいものから第3位までの株主グループの割合を順に加算して初めて50%超になるときの株主グループに属していないことが条件になる。身内の会社に身内が出すだけの形は対象外という線引きである。
二つめは事業承継との切り分けで、投資した会社に自らが営んでいた事業の全部を承継させた個人およびその親族等は対象から外れる。個人事業を法人に移しただけの形で優遇を取ることはできない。三つめは払込みの方法で、金銭の払込みによって株式を取得していることが必要になる。現物出資や既存株主からの買い取りでは条件を満たさない。
なお2024年4月1日以降に取得した有償新株予約権については、株式を取得した時点、すなわち新株予約権の行使日にすべての要件を満たせば、その新株予約権の取得に要した金額も対象の取得価額に含められるようになった。J-KISSのような形で入る場合に関わる改正で、2024年3月31日以前に権利を取得したものは対象にならない。新株予約権の仕組みそのものはストックオプションと税制の違いを扱った記事に整理がある。
出資を受ける会社の側に求められる六つの要件
投資家が条件を満たしていても、相手の会社が外れていれば優遇は受けられない。会社側には、設立5年未満の中小企業者であること(優遇措置Bでは設立10年未満)、外部からの投資を1/6以上取り入れていること(プレシード・シード特例の適用を受ける場合は1/20以上)、大規模法人グループの所有に属さないこと、未登録・未上場の株式会社であること、風俗営業等に該当する事業を行う会社でないこと、という条件が並ぶ。
さらに厄介なのが、設立からの経過年数ごとに別の条件が重なる仕組みである。設立1年未満で最初の事業年度を未経過なら、研究者または新事業活動従事者が2人以上で、かつ常勤の役員・従業員に占める割合が10%以上といった要件が課される。最初の事業年度を経過していれば試験研究費等の対収入金額比率や営業キャッシュ・フローの状態が見られ、設立1年以上2年未満では売上高成長率25%超という選択肢も加わる。どの年次にいるかで通る道筋が変わるため、出資の前に会社側と年次を確認し合うのが現実的である。
確認書が出るまでの流れと2026年からの変更点
手続きは会社が先に動く。スタートアップが都道府県へ、エンジェル税制の適用対象企業であることと投資が行われたことなどの確認申請を行い、都道府県が確認して会社へ確認書を交付する。会社はこれを投資家へ渡し、投資家が確定申告の際に税務署へ提出して完了する。資金調達の前に対象かどうかを確かめられる事前確認制度もあり、事前確認が行われた場合は経済産業省のサイトで会社名等が公表される。
経済産業大臣の認定を受けた投資事業有限責任組合を経由する場合や、認定少額電子募集取扱業者の株式投資型クラウドファンディングで株式を取得する場合は、要件の一部が免除され、組合や事業者が確認書を発行できるため都道府県への確認申請が不要になる。手続きの重さがかなり変わる部分で、どの経路で入るかは税務上の実務に直結する。経路ごとの要件はエンジェル投資に対する措置のページにまとまっている。
令和7年度の税制改正では二点が変わった。再投資期間が延び、株式譲渡益が発生した年分の確定申告時の手続き等を前提に、譲渡益が生じた翌年末まで(最大2年間)に投資した場合も適用を受けられるようになった。もう一点は保有期間の設定で、非課税措置については株式を取得した翌年末までの保有が条件に加わった。ただしIPOやM&A等の一定の場合の譲渡は除かれる。どちらも令和8年1月1日以降に取得した株式が対象で、つまり2026年に入ってからの出資から効いてくる。
よくある質問(FAQ)
優遇措置Aと優遇措置Bはどちらが得なのでしょうか。どちらが得かは、その年に株式の譲渡益があるかどうかで決まる。譲渡益がないなら総所得金額から引ける優遇措置Aしか機能しない。まとまった譲渡益があるなら、控除上限のない優遇措置Bのほうが大きく効く場面が出てくる。
課税繰延と非課税はどう違いますか。課税繰延は税金が消えるのではなく、将来その株式を売るときまで先送りされる扱いである。優遇を受けた控除対象金額のうち課税繰延分は、取得価額から差し引いて売却損失を計算することになる。非課税措置はこの先送りが生じない点で性質が異なる。
投資先が上場せずに解散したら、出したお金は何も戻らないのですか。出資金そのものは戻らない。ただし株式の価値がなくなった場合でも損失の繰越が認められており、その年の譲渡益と通算し、相殺しきれない分を翌年以降3年にわたって持ち越せる。
確認書がないまま確定申告をしてしまった場合はどうなりますか。確認書の提出が手続きの一部であるため、揃っていない状態では優遇を受けられない。会社側の申請が終わる時期を見込んで申告の段取りを組む必要があり、年末に近い出資ほど余裕を見ておきたい。
どの会社が対象か事前に知る方法はありますか。事前確認制度を使った会社は経済産業省のサイトで一覧として公表されている。加えて、認定を受けた投資事業有限責任組合と認定少額電子募集取扱業者の一覧も同省が公開している。学生や若手のチームが制度の入口を探す段階では、FLASPOのような場で実績を作ってから出資の話に進む順序も取りやすい。
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