地域経済循環とは|稼いだお金が域外へ流れ出る仕組みを読む

地域経済循環とは|稼いだお金が域外へ流れ出る仕組みを読む

工場を誘致して雇用が増えたのに、町の商店は閉まっていく。補助金で施設を建てたのに、住民の暮らし向きは変わらない。地域振興の現場でよく聞く食い違いは、稼いだお金がどこへ行ったかを追いかけないかぎり説明できない。地域経済循環という考え方は、まさにその追跡のために用意されている。環境省と内閣府が公開している分析の枠組みから、お金の通り道を見ていく。

お金は町の中で三度、姿を変える

地域経済循環分析では、地域のお金の流れを生産・分配・支出という三つの局面に分けてとらえる。企業が付加価値を生み、それが所得として人や企業に配られ、配られた所得が消費や投資として使われる。原則としてこの三つの金額は等しくなり、三面等価と呼ばれる。

この一巡を図にしたものが地域経済循環図だ。環境省の説明によれば、地域の長所と短所を分析し、所得の流出入や域内の産業間取引を見えるようにすることが目的とされている。金額の大小ではなく、どの段のつなぎ目で外に漏れているかを見る道具である。

分配の段には用語の区別がある。雇用者所得は労働の対価として得る賃金や給料等で構成され、その他所得は財産所得、企業所得、交付税、社会保障給付、補助金等で構成される。後者が厚い地域は、稼ぎではなく再分配で家計が支えられていることになる。

つなぎ目ごとに漏れ方は違う。生産から分配への段では、域外の本社に利益が吸い上げられることで漏れる。分配から支出への段では、住民が域外の店やネット通販で使うことで漏れる。同じ「お金が出ていく」でも、対処の相手がまるで別になる。

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循環率という一つの数字

全体の性格を一目で示す指標が地域経済循環率である。定義は単純で、生産(付加価値額)を分配(所得)で割った値だ。地域経済の自立度を示すとされ、値が低いほど他地域から流入する所得への依存度が高いと読む。

注意したいのは、高ければ良いという指標ではない点だ。100パーセントを超える場合、稼ぐ力は高いものの、その地域で生み出された付加価値が分配の段で域外へ流出していると考えられる。工場は回っているが利益も給与も外に出ていく、という状態がここに入る。

逆に100パーセント未満なら、域外で働いて得た雇用者所得や、交付金・社会保障給付といった財政の再分配に大きく依存している可能性がある。都市部へ通勤する住宅地は、この形になりやすい。100パーセント前後で生産と分配が釣り合っている状態が、循環構造としては望ましいとされる。

循環率の水準 読み取れる状態 疑うべき漏れ口
100%を大きく超える 稼ぐ力はあるが付加価値が域外へ出る 域外本社への利益移転、域外からの通勤者
100%前後 生産と分配がおおむね釣り合う 支出段での域外消費
100%を大きく下回る 域外所得や財政移転への依存が強い 域内の雇用不足、企業所得の薄さ

この読み分けができると、同じ数字への処方箋が変わる。前者に必要なのは域内への再投資を促す交渉であり、後者に必要なのは域内で稼ぐ事業そのものだ。指標の定義は内閣府地方創生推進室の地域経済循環分析の資料で確認できる。

最も大きな漏れ口はエネルギー代金

支出の段でいちばん静かに、いちばん確実に出ていくのが電気・ガス・ガソリンの代金だ。環境省の集計では、9割の自治体でエネルギー代金の収支が赤字になっている。ほとんどの市町村が、燃料や電力を域外から買う側に立っている。

額の重さも示されている。7割の自治体では、流出額が地域内総生産の5パーセント相当以上に達する。さらに10パーセント以上が域外に出ている市町村が151ある。地域内総生産の一割が毎年出ていく状態は、観光客が数万人増えた程度では埋まらない。

この支出の厄介な点は、景気や施策と無関係に発生し続けることだ。工場が止まっても家庭の電気は使われ、人口が減っても一世帯あたりの光熱費はさほど下がらない。固定的な漏れとして毎年積み上がる。

再生可能エネルギーの地域導入が経済政策として語られる理由もここにある。域外へ払っていた代金の一部が域内の事業者に回れば、同じ支出が循環の内側に戻る。数値の根拠は経済財政諮問会議に提出された資料に示されている。

漏れを塞ぐ仕事と、稼ぐ仕事は別物である

循環という言葉は、域内でお金を回せばよいという印象を与えがちだ。しかし閉じた系の中で同じ金額を回し続けても、総額は増えない。増やすには域外から稼いで持ち込む必要があり、減らさないためには漏れを塞ぐ必要がある。二つは別の作業だ。

稼ぐ側の代表は、域外に売る産業である。製造業でも農産物でも観光でも、対価が外から入ってくるものはここに数えられる。一方、塞ぐ側の代表は、域内調達への切り替えや、エネルギーの地産地消、地元金融機関を通じた資金の還流といった取り組みになる。

両方を同時に見ないと判断を誤る。域外から稼ぐ事業を誘致しても、資材も人材も燃料も外から買っていれば、通過するだけで地域には薄い雇用しか残らない。逆に漏れを塞ぐだけでは、縮小した規模のまま均衡してしまう。

金融の役割は、この二つをつなぐ位置にある。地元の預金が域外の運用に向かえば資金の側でも漏れが起きるため、地域内の事業に投じる回路が要る。取り組みの実例は地方銀行と地方創生の関わりを扱った記事にまとめられている。ふるさと納税のように外から資金を呼び込む制度との組み合わせは地方銀行とふるさと納税の記事が詳しい。

自分の町の循環図を出してみる

分析は専門機関に頼まなくても始められる。環境省は地域経済循環分析の自動作成ツールを公開しており、自治体を選ぶだけで産業別の生産額や雇用者所得、石油・ガスなどの収支を含むレポートが出力される。RESASの地域経済循環マップでも同じ図を確認できる。

読む順番を決めておくと迷わない。まず循環率で全体の性格をつかみ、次に生産の段で稼ぎ頭の産業を特定し、最後に支出の段でエネルギーと域外消費の額を見る。上から順に見ていけば、どの段で手を打つべきかが絞れる。

出てきた図は、そのままでは計画にならない。数字の背景にある事情、たとえば大きな事業所の有無や通勤圏の広さを知る人の解釈が要る。地域と若い世代をつなぐFLASPOが関わる現場でも、データを開くところまでは進んでも、読み解く人手が足りずに止まる例は珍しくない。

分析を施策に落とすときは、対策の順序も意識したい。漏れの大きい項目から着手するほうが効果は見えやすく、住民にも説明しやすい。地域振興策の全体像は過疎化対策の施策をまとめた記事とあわせて見ると位置づけが整理できる。ツールの入口は環境省ローカルSDGsのページにある。

よくある質問

地域経済循環率が高い町は豊かなのか

必ずしもそうではない。100パーセントを超える地域は生産力が高い一方で、生み出した付加価値が分配の段で域外に出ている可能性がある。住民の所得が増えているかどうかは、循環率ではなく雇用者所得の水準や推移で確かめる必要がある。

三面等価というのは、どの地域でも成り立つのか

会計上の恒等式として成り立つように組まれている。ただし等しくなるのは総額であって、生産した人と所得を受け取る人、使う人が同じ地域にいるとはかぎらない。そのずれの大きさこそが、循環分析で見たい情報である。

エネルギーの流出を減らすと、どれくらい効くのか

自治体によって幅がある。地域内総生産の5パーセント相当以上が流出している自治体が7割を占め、10パーセント以上の市町村も151ある。流出額の大きい地域ほど、同じ取り組みでも戻る金額は大きくなる。まず自分の町の流出額を確かめるのが先だ。

学生や社会人が外から関われる部分はあるか

ある。循環図の出力そのものは誰でもできるため、読み解いて資料にまとめる工程は外部の人でも担える。域外消費の実態を聞き取る調査や、域内事業者の販路づくりの支援も、居住を前提としない関わり方として成立する。


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