M&A型の事業承継はどう進むのか|登録3,427件と手数料の決まり方

血縁のない相手に会社を渡す道が、制度として整っている

後継ぎの話は、親から子へという筋書きで語られがちだ。実際には、従業員に渡す形と、社外の第三者に譲る形も制度として用意されている。このうち第三者への譲渡をまとめたのが、中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版)である。令和6年8月に改訂された139ページの文書で、譲り渡す側の手引きと、仲介者やフィナンシャル・アドバイザー(FA)が守る行動指針が1冊に入っている。

使われている規模も小さくない。2026年版中小企業白書によれば、全47都道府県にある事業承継・引継ぎ支援センターが2024年度に扱った第三者承継の成約は2,132件だった。ガイドラインには、小規模企業や個人事業主で成立した例、親族内承継が頓挫してから切り替えた例、廃業を予定していたのに引き受け手が現れた例が並ぶ。赤字や債務超過の会社でも成立しうることは、同書が事例として明記している。

ガイドラインが譲り渡す側に求める姿勢は、二つに絞られる。ひとつは早めに判断すること。経営者が高齢になってから動き出すと、体力や取引先の信用が落ちた状態で相手を探すことになる。もうひとつは秘密保持の徹底である。検討している事実が従業員や取引先に漏れると、交渉がまとまる前に人が離れる。どちらも金額の話より前に効いてくる部分で、同書が意思決定のタイミングが成立内容を左右した事例を挙げているのもこのためだ。

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支援する側を国に登録させる仕組みができた

第三者承継が増えると、間に立つ事業者の質が問題になる。そこで令和3年8月に始まったのがM&A支援機関登録制度である。ガイドラインの遵守を宣言した仲介者やFAを登録し、名簿と手数料体系を公開する。中小企業庁の令和8年10月20日時点の公表では、登録されたFAと仲介業者は3,427件で、内訳は法人2,648件、個人事業主779件だった。

登録は看板の飾りではない。事業承継・M&A補助金の専門家活用枠では、登録された機関の支援にかかる費用だけが補助の対象になる。依頼先を選ぶときに登録の有無を確かめる動機が、制度の側から用意されているわけだ。不適切な対応を受けた中小企業者から情報を受け付ける窓口も、登録事務局に置かれている。

登録は毎年の公募で更新され、月ごとに結果が公表される。令和8年度公募の9月分では65件が新たに登録され、内訳は法人58件、個人事業主7件だった。制度の創設から数えると、ガイドラインの遵守を宣言した事業者は累計で約3,000件に上る。個人事業主が779件を占める点も特徴で、間に立つのは大手の専門会社だけではない。

手数料は4つの名前で請求される

費用の話は、譲り渡す側がいちばん不安を抱える部分である。ガイドラインは、実務で使われる報酬を着手金、月額報酬、中間金、成功報酬の4種類に整理している。着手金は契約時、中間金は基本合意の時点など案件の途中、成功報酬は成立時に発生する。4つすべてを請求する事業者がいる一方、成功報酬だけを取る完全成功報酬型も相当数あるとされ、請求のされ方は事業者ごとに違う。

成功報酬の計算には、階層ごとに率を変えるレーマン方式が多く使われる。ガイドラインが挙げる一例は次のとおりで、基準となる価額が大きいほど上の階層の率は下がる。ただし小規模な案件では最低手数料が設定されることがあり、同書の具体例では着手金100万円に加え、最低手数料500万円という条件が示されている。譲渡額が小さいときほど、率ではなく最低額のほうが効いてくる。

基準となる価額 乗じる割合
5億円以下の部分 5%
5億円超10億円以下の部分 4%
10億円超50億円以下の部分 3%
50億円超100億円以下の部分 2%
100億円超の部分 1%
レーマン方式の一例。中小M&Aガイドライン(第3版)より。階層と割合は事業者により異なる

請求額は税込みで考える必要もある。ガイドラインの具体例では、着手金100万円に消費税を加えた110万円が契約時に発生し、成立時には最低手数料を下回らない成功報酬が別に発生する形で計算されている。着手金や中間金が成功報酬に充当されるかどうかは事業者によって違い、充当されなければその分が上乗せになる。見積もりを比べるときは、率ではなく支払う総額と発生のタイミングで並べたほうが実態に近い。

ほかに相談できなくなる条項に注意する

契約書に入りやすいのが、並行して他の事業者へ依頼することを禁じる専任条項である。同じ買い手候補に複数の窓口から打診が行くと候補先の心証を害し、情報も広がるため、条項そのものには理由がある。とはいえ助言の内容に疑問が生じたとき、ほかに意見を求められないと妥当性を判断できない。

ガイドラインは、専任条項を設けるとしても対象範囲をできるだけ狭くすべきだとし、合理的な理由がなければセカンド・オピニオンを認めるよう求めている。相談先を秘密保持義務のある士業や事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関に限る、相手方の情報は開示しない、といった配慮も示されている。契約期間についても、専任条項を置く場合は最長で6か月から1年以内が目安とされる。署名の前に確かめるべき点が、文書の形で公開されている意味は大きい。

契約の途中で解約できるかどうかも、確かめておく点として挙げられている。専任条項が置かれた契約で中途解約の条件が曖昧なままだと、相性が合わないと感じても動けない期間が続く。依頼する前に、専任の範囲・契約期間・中途解約の3点を声に出して確認するだけで、後の選択肢が残る。

市場が広がった分、健全化の手も打たれている

件数の伸びは問題も連れてきた。白書は、2024年以降に不適切な譲り受け側が経営の苦しい会社を買い、資金を吸い上げる一方で経営者保証を解除しないまま連絡を絶つ手口が指摘されていると記している。保証が残れば、会社を手放したのに負債だけが前の経営者に残る。ガイドラインの参考資料では最終契約のひな形が改訂され、保証の解除などが履行されない場合に譲り渡し側の意思で買い戻せる条項が新設された。

中小企業庁は2025年4月に検討会を設け、同年8月に中小M&A市場改革プランを取りまとめている。譲り渡す側・市場・譲り受ける側の3本立てで、支援機関の実績開示を強めることや、登録機関から集めた取引データをもとに譲渡対価の相場を把握できるツールを公表することが挙げられた。非上場の株式には参照できる相場がなく、言い値になりやすい。その穴を埋めようという方向である。地域での関わり方は事業承継を副業で引き受けられるかや後継ぎのいない店を若者が継ぐときでも取り上げている。

譲り渡す側の準備としては、財務の状況を先に把握しておくことが挙げられている。白書によれば、経営者が60代以上で承継の方針が未定の中小企業のうち、資産超過かつ黒字の企業は約5割で、残りは赤字または債務超過だという。成立の見込みも想定される価額も、この違いで大きく変わる。損益計算書と貸借対照表の両面から見る道具としてローカルベンチマークの活用が勧められ、士業による精査を促す方向が示されている。不安を下げるための広報として、各地でのシンポジウム開催も計画に入った。

よくある質問

「仲介とFAはどう違うのか」。仲介は売り手と買い手の双方と契約して間に立ち、FAは一方の側に付いて助言する。利益が相反しうる場面の扱いが変わるため、ガイドラインは手数料の説明と併せて、どちらの立場なのかを明示するよう求めている。

「相談は有料か」。事業承継・引継ぎ支援センターへの相談は公的な窓口として設けられており、まずここで全体像を聞いてから民間の支援機関を選ぶ順番がとりやすい。税制や補助金を含む一覧は中小企業庁の支援策のページにまとまっている。

「価格はどう決まるのか」。株式価値の算出方法は統一されておらず、複数の手法を比べるのが望ましいとされる。相場データの公表が改革プランに盛り込まれたのは、裏を返せば現時点では比較材料が乏しいということでもある。

「赤字の会社でも引き受け手は見つかるのか」。ガイドラインは、経営状況が良好でない会社で成立した事例を掲げている。設備や取引先、免許や人材といった資産に値段が付くためで、損益だけで可否が決まるわけではない。

「学生のうちに関われることはあるか」。買い手や売り手として動く話ではなく、産地や商店街に通って事業者と関係をつくる段階から始まる。地域と学生をつなぐFLASPOのような窓口は、その入口として使える。先に失敗の型を知っておきたいなら学生起業の失敗例に共通する型も参考になる。


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