任用の話より先に、回線の話が来る
赴任しながら前の仕事をリモートで続けたい、という相談は珍しくない。副業や兼業が認められるかは任用の形で決まるが、その手前に確かめることがある。住む家に光回線が引けるかどうかである。許可が下りても回線が来ていなければ、週に何度もある打ち合わせを自宅から通せない。
制度の規模は広がっている。総務省が令和8年4月24日に公表した令和7年度の隊員数等によると、隊員は前年度から286名増の8196人、取組自治体は11団体増の1187団体で、受入可能な1461団体の約81%に達した。活動経費には1人あたり550万円を上限とする特別交付税措置があり、令和8年度からは任期を最大5年とする特例も入った。
広がったのは制度の側で、通信の側は地図のように一様ではない。しかも公表されている整備率は、調べ方が変わった時期があるために年をまたいで比べられない。赴任先を絞る段階で見る数字と、その数字の限界を順に押さえておきたい。
97.13%と99.84%は、同じものを数えていない
総務省は令和8年8月28日に令和6年度末ブロードバンド基盤整備率調査の結果を公表した。調査基準日は令和7年3月31日で、全国の光ファイバ整備率は97.13%、未整備は約160万世帯だった。
ところが令和7年版の情報通信白書には、2022年度末の整備率が99.84%と書かれている。2年で2.7ポイント下がったように見えるが、実際には推計手法が見直されている。令和5年度末の調査から新しい手法に替わり、令和8年版白書は2023年度末を97.09%としている。新しい手法どうしで並べれば97.09%から97.13%への微増で、整備が後退したわけではない。
数え方も確かめておきたい。整備率は、自らの設備でサービスを提供する電気通信事業者への調査をもとに、事業者情報等から一定の仮定を置いて推計したエリア内の利用可能世帯数を総世帯数で割った値である。小数点第三位以下は四捨五入される。総務省は、誤差が生じる場合があり、実際の提供状況は提供エリアの地理的条件や建物の設備状況により異なる場合があると注記している。エリア内と判定された住所でも、その建物に引き込めるかは別に確かめる必要がある。
都道府県の順番は、都市と地方で逆になっている
都道府県別の数字を並べると、直感と合わない並びが出てくる。公表された令和6年度末光ファイバ整備状況では、最も高いのが富山県の99.98%で、鳥取県99.83%、島根県99.73%が続く。東京都は96.27%、大阪府は96.01%、埼玉県は96.08%で、いずれも全国平均を下回った。
| 上位 | カバー率 | 下位 | カバー率 |
|---|---|---|---|
| 富山県 | 99.98% | 和歌山県 | 94.96% |
| 鳥取県 | 99.83% | 佐賀県 | 95.33% |
| 島根県 | 99.73% | 群馬県 | 95.55% |
| 岐阜県 | 99.36% | 福島県 | 95.63% |
| 愛知県 | 99.29% | 鹿児島県 | 95.66% |
| 山梨県 | 99.20% | 宮城県 | 95.74% |
| 長野県 | 99.18% | 大阪府 | 96.01% |
なぜこの並びになるのかは、公表資料に説明が付いていない。確かめられるのは指標の作り方までで、整備率はエリア内の推計利用可能世帯数を総世帯数で割った値であり、実際の提供状況は提供エリアの地理的条件や建物の設備状況により異なるとされている。少なくとも「地方だから回線がない」という前提は、県の単位では数字に合わない。
全国平均の97.13%を上回る県は、関東や近畿の都府県より北陸や山陰に多く並ぶ。協力隊の募集が集まる県が下位に固まっているわけでもない。赴任先を通信環境で足切りする前に、候補の県の値を自分で見ておきたい。
市区町村まで下りると、85の空白が見えてくる
県の平均が高くても、赴任するのは市町村である。総務省はブロードバンド基盤の整備状況のページで、市区町村別のFTTH世帯カバー率を表計算ファイルで公開している。掲載は1896市区町村分で、このうち100%に達しているのは328、逆に90%を下回るのは85あった。
低い側を具体的に見ると、福島県双葉町が0%、高知県大川村が31%、沖縄県北大東村が63.16%、高知県仁淀川町が64.35%、長野県天龍村が67.58%と並ぶ。離島や中山間地、そして避難指示が長く続いた区域が下に集まる。長野県は県平均99.18%だが、その県内に天龍村が含まれているという構造になる。
協力隊の募集が多いのは条件不利地域である。過疎地、辺地、離島、半島、山村、特定農山村、豪雪地帯といった区域が制度上の対象で、総務省はこれらの地域での伝送路設備の整備を高度無線環境整備推進事業として補助している。令和3年度からは離島の光ファイバの維持管理費も、令和6年度からは自治体が持つ設備を民間事業者へ譲渡する前提での高度化費用も対象に加わった。整備は進んでいるが、現在の到達点は市区町村ごとに違う。
市区町村別の表は、県名と市区町村名とカバー率の3列で並んでいる。候補地が複数あるときは、この表で候補を横並びにしてから募集要項を読むほうが早い。県の平均は参考にならないと割り切ってよい。
無線で埋められる部分と、埋められない部分
固定回線が来ていない住所でも、携帯回線なら使えることがある。令和8年版白書によれば、2024年度末時点の全国の5G人口カバー率は98.4%で、都道府県別に見るとすべての都道府県で85%を超えている。数字の上では広い。
ただし人口カバー率は、その地域に住む人のうち何割がエリア内かを示す指標で、面積の広さや屋内での届き方を保証しない。山あいの集落や谷筋では、同じ市内でも場所によって変わる。画面共有を伴う会議や大きなファイルの受け渡しを日常的に行うなら、固定回線を前提に住所を決めるほうが安全である。
実務で確かめる順番は三つある。候補の住所が決まったら、事業者の提供エリア判定にその住所を入れる。次に、役場の担当課に公設光ファイバの民間移行がどこまで進んでいるかを聞く。移行の途中だと、事業者の判定と実態がずれることがある。最後に、受け入れ側が用意しているサテライトオフィスや公共施設を仕事場として使えるかを確かめる。作業場の選び方は、自宅の回線が弱い場合の代替になる。
よくある質問
任期中に前職をリモートで続けてよいのか。これは回線ではなく任用の形で決まる。フルタイムの会計年度任用職員なら許可制、パートタイムなら制限の外という整理になり、詳しくは任用形態による副業の扱いにまとめてある。回線の確認は、その許可が下りた後に困らないための準備である。
地域に関わる人のうち、どれくらいがリモートで働いているのか。関係人口の調査では、テレワークを軸に地域と関わる層が182万人と推計されている。比率でいえば全体の1割ほどで、実施率の水準も含めてテレワーク型の内訳で確かめられる。多数派ではないが、定着した関わり方の一つである。
勤め先の制度があるかどうかは関係するのか。業種によって導入率の差が大きく、同じ地方暮らしでも職種で前提が変わる。二地域居住の文脈では、導入率が92.8%と32.5%に割れる業種差が示されている。自分の職種がどちらに近いかは、二地域居住の業種別の導入率で先に見ておきたい。
整備率の数字はどこを見れば最新なのか。ブロードバンド基盤整備率調査は年度末を基準日として毎年公表され、都道府県別と市区町村別のカバー率は総務省のブロードバンド基盤の整備のページに置かれる。白書の記述は前年度以前の調査を引いていることがあるので、年次の表記を必ず確かめたい。地域と学生をつなぐFLASPOのような場で赴任先を相談するときも、この一次情報を開いて話すと具体的になる。
未整備地域に赴任したら働けないのか。そうとは限らない。自治体が整備した設備を借りてサービスを提供している事業者もあり、公設設備の民間移行が進んだ区域では新たに選べる回線が増えている。判定が未提供と出ても、役場と事業者の両方に当たると結論が変わることがある。
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