最初の分岐は机をどこに置くかで決まる
地域で事業を始めるとき、商品より先に決まってしまうのが作業場所である。自宅の一室で始めるか、誰かと共有する場所を借りるか、自前の事務所を構えるか。この選択は家賃の多寡の話に見えて、実際には人を雇えるか、来客を迎えられるか、設備を置けるかという事業の天井を先に決めてしまう。
判断の材料になるのが、総務省が集計している「地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィス」の調査である。自治体が空き家や廃校を改修して用意した拠点や、民間のシェアオフィスに自治体が関与した例がここに含まれる。地域で場所を借りて仕事をする選択肢が、この10年でどれだけ厚くなったかを数字で追える数少ない資料にあたる。調査の対象は自治体が誘致や関与をしたものに限られるため、民間が単独で運営するコワーキングスペースの総数とは別物である点は、先に断っておきたい。
10年で14倍になった借りられる場所
開設数の推移を並べると、増え方の形がはっきり見える。令和3年度末時点の開設数は1,348箇所で、令和3年度の1年間だけで505箇所が新たに開設され、73箇所が減少した結果である(総務省「地方公共団体が誘致又は関与したサテライトオフィスの開設状況調査結果」)。
| 年度末時点 | 開設数 |
|---|---|
| 平成24年度末 | 92箇所 |
| 平成26年度末 | 169箇所 |
| 平成28年度末 | 320箇所 |
| 平成30年度末 | 576箇所 |
| 令和元年度末 | 710箇所 |
| 令和2年度末 | 916箇所 |
| 令和3年度末 | 1,348箇所 |
開設の勢いそのものは、地域で事業を起こす人の数とは別の動きをしている。開業率と協力隊の起業率の差については地域起業と若者で扱ったが、拠点が増えることと起業が増えることは同じではない。空いている机の数だけを見て町を選ぶと、取引先も相談相手もいない場所に座ることになりかねない。
都道府県別では北海道が110箇所で最も多く、新潟県が95箇所で続く。人口の多い都市圏が上位に並ぶわけではないところに、この数字の性格が出ている。誘致の政策を長く続けてきた自治体に拠点が集まっており、同じ県の中でも町によって有無が割れる。起業の場所を選ぶ段階なら、県単位ではなく市町村単位で空き状況を当たったほうが早い。
借りている側の内訳が示す使われ方
同じ調査では、拠点を開設した企業の側にも質問をしている。384箇所から回答があり、オフィスの形態は独自事務所が244箇所で64パーセント、シェアオフィスが132箇所で34パーセントだった。入居の形態は、常駐の要員を配置する常駐型が250箇所で65パーセント、常駐を置かず短期的に使う循環型が127箇所で33パーセントである(総務省「サテライトオフィスの開設状況について(開設企業調査)」)。
注目すべきは常駐型の人数で、常駐社員が1人から5人の拠点が193箇所、77パーセントを占める。10人を超える拠点は21箇所しかない。つまり地域の拠点は、小さな単位で回す前提で作られている。起業の初期に2人か3人で使うという想定は、例外ではなく標準的な使われ方にあたる。設備や会議室の規模も、その人数を基準に整えられていると考えてよい。
自前の事務所が6割を超えていることにも意味がある。シェアオフィスは入口としては使いやすいが、人が増えたり設備を据えたりする段階で自前に切り替える例が多い。借りる場所を決めるときは、次の移転先が同じ町にあるかどうかまで見ておくと、二度手間が減る。
情報サービス業が68パーセントという偏り
開設企業の業種は、情報サービス業等が261箇所で68パーセントを占める。ソフトウェア開発、ホームページやウェブの制作、データ入力、広告の作成といった仕事が主な業務として挙げられている。残りの30パーセント、117箇所がその他である。
この偏りは、どの商売が地域の拠点と噛み合うかを率直に示している。納品物が通信で運べて、設備が机と端末で済み、取引先が都市にあっても成立する仕事が入りやすい。逆に、食品の加工、修理、対面の接客といった業態は、同じ建物では要件が合わないことが多い。保健所の許可が要る設備や、搬出入の動線を必要とする事業は、拠点の仕様から外れる。
とはいえ、情報サービス業以外に道がないわけではない。地域の産品を扱う商いでも、受注と販売と経理を担う部分だけを拠点に置き、加工や保管を別の場所で行う形なら成り立つ。事業を工程に分けて、通信で済む部分と現物が動く部分を切り分けると、置き場所の選択肢が広がる。地域で何から始めるかを組み立てる順番は、学生が地域課題で起業するならでも触れている。
場所代より先に効いてくる公費の形
拠点を借りる費用そのものより、設備と運転資金のほうが重い。総務省のローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)は、地域金融機関の融資と組み合わせて立ち上げを支える仕組みで、施設整備・改修費と備品費も対象に含まれる。令和8年度からは公費による助成の上限が原則3,000万円に引き上げられ、融資額が公費助成額の4倍以上になる場合は5,500万円まで上がる(総務省「ローカル10,000プロジェクトに係る事業の募集について(令和8年度分)」)。
公費のうち国が持つ割合は原則2分の1だが、財政力指数が0.25以上0.5未満の自治体では3分の2、0.25未満では4分の3にかさ上げされる。地域脱炭素の推進に関連する事業と、地域の女性や若者の活躍に関連する事業も重点支援分野として4分の3が適用される。要件は、地域密着型であること、地域課題への対応であること、地域金融機関による融資等があること、新規事業であること、モデル性があることの五つで、国の有識者審査を経て判断される。
申請の主体は事業者ではなく都道府県または市区町村である。つまり拠点を探す段階で役場の担当課と話をしておくことが、そのまま資金調達の下準備になる。机を借りる相談と資金の相談は、同じ窓口でつながっていることが多い。地域との関わりを学生のうちから持っておきたいなら、FLASPOのような接点を使って、拠点を運営する人と先に顔を合わせておくと話が早い。
よくある質問
コワーキングスペースの全国の数は分かるか。国の統計として施設数を網羅した数字はない。総務省の調査は自治体が誘致または関与したサテライトオフィスに限られ、令和3年度末で1,348箇所である。民間が単独で運営する施設はここに含まれないため、実際に借りられる場所はこれより多い。
シェアオフィスと独自事務所はどちらが向くか。開設企業の回答では独自事務所が64パーセント、シェアオフィスが34パーセントだった。人数が2人から3人で設備が要らない段階なら共有の場所で足りる。人を雇い、在庫や機材を置く段になると自前に移る例が多い。移る先が同じ町にあるかを先に確かめておきたい。
地方の拠点は情報系の仕事でないと使えないのか。開設企業の68パーセントが情報サービス業等だが、要件として業種が限られているわけではない。受注と販売と経理だけを拠点に置き、加工や保管を別の場所で行う分け方なら、産品を扱う事業でも使える。許可や搬出入の条件は建物ごとに違う。
ローカル10,000プロジェクトで内装や備品は賄えるか。施設整備・改修費と備品費も対象に含まれる。ただし地域金融機関による融資等を受けることが前提で、融資と公費の比率によって助成の上限が3,000万円から5,500万円まで動く。自己資金をどれだけ入れるかも計画書に書くことになる。
拠点が1つもない町では始められないか。自治体が関与した拠点の有無は町によって大きく割れており、北海道の110箇所のような集積は例外に近い。空き店舗や空き家を自分で借りて改修する道もあり、その費用は交付金の対象になりうる。まず役場の担当課に、使える建物と制度の両方を聞くところから始めるのが近道である。
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