訪日客の43.3%はSNSで決める|地方観光協会のサイトは4.9%という差

旅行先を決めた理由を訪日外国人に尋ねると、パンフレットや公式サイトの名前はあまり出てこない。観光庁の「インバウンド消費動向調査」2025年年次報告書によれば、日本へ出発する前に役に立った旅行情報源で最も多く選ばれたのは「SNS」で、43.3%だった。一方、地方観光協会のホームページを挙げた人は4.9%にとどまる。9倍近い開きが、地域の発信をどこに置くかという問いに直結している。

出発前に見られているのは公式サイトではない

観光庁の年次報告書は、出発前に役に立った旅行情報源を複数回答で集計している。上位は「SNS」43.3%、「動画サイト」39.6%、「個人のブログ」23.9%と並び、いずれも旅行者自身や第三者が書いたものだ。これに対して、公的機関が運営する情報源の数字は小さい。日本政府観光局のホームページは12.2%、日本政府観光局の案内所は1.6%、そして地方観光協会のホームページは4.9%である。

注意したいのは、この数字が「地域の情報が要らない」ことを意味しないという点だ。調査はあくまで「どこで受け取ったか」を聞いている。観光協会が書いた祭りの日程や路線バスの時刻が、SNSや動画を経由して旅行者に届いていれば、回答は「SNS」として記録される。届ける中身を持っているのは地域の側で、届ける経路を握っているのが旅行者のタイムラインだという構図になる。

「宿泊予約サイト」10.5%や「口コミサイト」11.0%も、公式サイトと同じ桁にとどまった。旅行ガイドブックは8.1%、テレビ番組は5.0%、新聞は0.7%である。紙と放送が担っていた入口は、すでに別の場所へ移っている。

報告書は、旅行情報源をまったく使わなかった人も記録している。「特になし」は7.1%で、残りの9割以上は何らかの情報に触れてから日本へ来ている。情報源が多すぎて選べない状態ではなく、どの経路に乗るかで届き方が決まる状態だと読めるだろう。

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1位の情報源は国・地域ごとに入れ替わる

全国籍・地域をまとめた順位だけを見ると、SNSに寄せれば足りるという話に見えてしまう。ところが同じ報告書の国籍・地域別の集計を開くと、1位の顔ぶれが変わる。韓国はSNSが47.1%で首位、台湾は動画サイトが45.5%で首位、米国と英国では「自国の親族・知人」が上位に入る。口伝えの比重が国によって違うということだ。

国・地域 1位の情報源 2位 3位
全国籍・地域 SNS 43.3% 動画サイト 39.6% 個人のブログ 23.9%
韓国 SNS 47.1% 動画サイト 43.8% 個人のブログ 42.9%
台湾 動画サイト 45.5% SNS 42.7% 個人のブログ 29.0%
米国 動画サイト 43.0% 自国の親族・知人 35.6% SNS 35.4%
オーストラリア 動画サイト 43.9% SNS 38.4% 自国の親族・知人 36.0%
英国 自国の親族・知人 41.5% SNS 33.2% 宿泊施設ホームページ 32.6%
観光庁「インバウンド消費動向調査」2025年年次報告書の国籍・地域別集計から作成(複数回答)

英国では旅行ガイドブックが31.7%、航空会社ホームページが29.8%と、他の国・地域よりはるかに高い。台湾では日本政府観光局ホームページが17.1%、旅行会社ホームページが16.1%を占める。誰に向けて発信するかを決めないまま媒体を選ぶと、この差を踏み外すことになる。

地方へ足を延ばす人は、すでに半分いる

発信の相手がどれだけいるのかも、同じ調査から読める。観光庁のトピックス分析「地方部訪問者の消費行動等に関する分析」は、2024年の訪日外国人旅行者約3,561万人のうち、地方部を訪れた人を1,803万人と推計した。構成比は50.6%で、三大都市圏のみを訪れた1,758万人(49.4%)をわずかに上回る。

ここでの三大都市圏は埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県・愛知県・京都府・大阪府・兵庫県の8都府県で、それ以外が地方部という区切りだ。地方部訪問者には宿泊を伴う人だけでなく、日帰りで立ち寄った人も含まれる。つまり「泊まってもらえた地域」より広い範囲の数字である。

国籍・地域別では台湾、香港、タイ、マレーシア、欧州、オーストラリアで地方部を訪れる割合が高い。この並びは、先の情報源の表で動画サイトや親族・知人が強く出た国・地域と重なる部分が大きい。地方に来る人ほど、公式サイト以外の経路で下調べを済ませている可能性がある。

滞在が始まると、求められる情報が切り替わる

同じ報告書は、日本滞在中に役に立った旅行情報も聞いている。最多は「交通手段」で65.9%、次に「飲食店」56.0%、「観光施設」39.1%、「宿泊施設」38.0%、「買物場所」33.8%が続く。出発前の上位がSNSや動画という「媒体」だったのに対し、滞在中の上位は乗り方や店といった「中身」である。

細かい項目まで見ると、無料Wi-Fiが15.3%、ATMが9.2%、クレジットカードが使える店舗が7.9%を占めた。日本文化体験プログラムは6.2%、自然体験ツアー・農山漁村体験は4.9%、通訳案内士・観光ガイドは3.8%である。地域の魅力として語られがちな体験の数字は、交通や決済ほど高くない。到着してからの困りごとが先に来るという順番だ。

この順番は、発信の作り方にそのまま返ってくる。景色の写真を並べるより、最寄り駅からのバスの本数と運賃、現金しか使えない店があること、Wi-Fiのつながる場所を書いたほうが、滞在中に開かれる確率は高い。地方で訪日客が何に困るのかは訪日客が地方で困るのはバスと飲食店でも扱った。

学生が引き受けられるのは、翻訳ではなく経路の設計

2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円、訪日外国人旅行者数は41,135,081人、1人当たり旅行支出は228,782円と推計されている。費目別の構成比は宿泊費36.6%、買物代27.0%、飲食費21.9%、交通費10.0%、娯楽等サービス費4.5%だ。この規模に対し、地方の観光協会が自前で多言語の発信体制を持てているところは多くない。

学生が入りやすいのは、原稿を訳す作業よりも、どの言語でどの媒体に何を出すかを決める手前の整理である。たとえば台湾と英国で必要な情報が違うことを表にする、滞在中に聞かれた質問を記録して次の投稿に回す、現地の口コミに出てくる地名の表記ゆれをそろえる。どれも統計を読む手間はかかるが、特別な設備は要らない。

滞在中に役立った情報の上位が交通と飲食だったことを踏まえると、更新の頻度も変わってくる。路線や営業時間は季節で動くため、一度作って置いておく形では追いつかない。学生が関わるなら、年に数回の更新作業を誰が引き継ぐかまで決めておくほうが、写真の枚数を増やすより効く。

自治体や協会の発信に学生が加わるときの決まりごとは、自治体のSNS発信に学生が入るときに整理がある。泊まらずに帰る旅行者の比率については泊まらずに帰る訪日客も参照できる。地域に関わる入口を探している学生は、FLASPOのような窓口から現場の募集を見つけることもできる。

よくある質問

「SNS43.3%」はどのSNSを指すのか。報告書の選択肢はFacebookやX(旧Twitter)、微信などを例示した「SNS」という一つの区分で、個別のサービス名までは分解されていない。YouTubeや愛奇芸などは「動画サイト」として別に集計され、こちらは39.6%だった。

地方観光協会のホームページを作る意味はないのか。4.9%という数字は入口としての弱さを示すが、SNSや動画に載る情報の出どころは依然として協会や自治体である。一次情報が正確に置かれていなければ、転載された側も間違う。順番としては、正しい情報を置いたうえで、届く経路を別に用意するという二段構えになる。

検索サイトは選択肢に入っていないのか。報告書の注記では、「その他インターネット」は列挙された項目以外のウェブサイトを指し、検索サイトはそこに含まれないと明記されている。「その他インターネット」は8.7%だった。

数字はどこで確かめられるのか。出発前と滞在中の情報源は観光庁のインバウンド消費動向調査 2025年年次報告書、地方部の訪問者数は地方部訪問者の消費行動等に関する分析に載っている。最新の四半期の結果は観光庁のインバウンド消費動向調査のページから辿れる。


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