地域で事業を起こす人の多くは、学校で起業を学んでいない。では学校で学べる機会は実際にどれだけあり、受けた生徒は何が変わるのか。中小企業庁の委託を受けた中小企業基盤整備機構が令和6年度に実施した起業家教育事業の報告書に、全国70校ぶんの実績と生徒4,599人の回答が載っている。数字を追うと、起業への関心と地域課題への関心が同じ方向に動いていることが見えてくる。
学校に届いている支援は二種類ある
報告書が扱うのは、令和6年4月から令和7年2月末までに行われた二つの支援である。一つは起業家教育プログラム実施支援で、起業家教育の標準的なカリキュラムを導入する高等学校等を対象に、年間を通じた伴走を行う。支援先は20校だった。もう一つは起業家教育出前授業実施支援で、起業家を招いた講演や授業を希望する学校に中小機構から起業家を派遣する。こちらは50校である。
規模の差は、学校側に求められる体制の差でもある。前者はビジネスプランの作成とプレゼンテーションまで進むため、カリキュラムに時間を確保する必要がある。後者は単発の講演で成立するので、導入の負担が小さい。両者を合わせても全国で70校なので、高等学校の総数から見れば行き渡っているとは言えない。
| 項目 | プログラム実施支援 | 出前授業実施支援 |
|---|---|---|
| 支援校数 | 20校 | 50校 |
| 生徒の有効回答 | 1,216件 | 3,383件 |
| 起業への関心が高まった | 77.1% | 84.3% |
| 教員の有効回答 | 27名 | 113名 |
| 役に立ったと回答した教員 | 20校すべて | 93.8% |
生徒1,216人の起業意向は11.5ポイント上がった
変化が最もはっきり出たのは、プログラム実施支援を受けた20校の事前事後比較である。将来起業してみたいと思うかという問いに肯定で答えた生徒は、事前調査では32.7パーセントだった。年間のプログラムを終えた事後調査では44.2パーセントまで上がり、差は11.5ポイントになる。
さらに踏み込んだ数字がある。事後調査で「どちらともいえない」と答えた生徒に、将来のキャリアを考える上で起業は一つの選択肢として考えられそうかと尋ねると、71.0パーセントが考えられると答えた。はっきり起業したいとは言えない層の多くが、選択肢として排除はしていないという状態である。
起業そのものから一歩引いた項目の数字も高い。新しくモノやアイデアを生み出すチャレンジをしたいと思うようになったと答えた生徒は69.7パーセント、自分自身の意思や考えで何かに取り組んでみたいと思うようになったと答えた生徒は72.0パーセントだった。身の回りの起業家や創業者を応援したり助けたいと思うようになったという回答も71.9パーセントある。
プログラムの締めには、学校を越えた発表の場が置かれている。令和7年2月1日に開かれた実施報告会には各校の代表が集まり、参加した生徒41名のうち87.8パーセントが創業・起業に対する興味が高まったと答えた。自由記述には、他校の発表からその県の文化や問題点を知ることができたという声が残っている。自分の地域だけを見ていた視野が、他地域と比べることで動いたということである。
関心は地域課題のほうへも一緒に動いた
地域起業という観点で見逃せないのは、学校外の取組への関心を尋ねた項目だ。プログラムを受けた生徒のうち66.3パーセントが、地域や社会課題、まちおこしなど学校外での取組に対する関心が高まったと答えている。出前授業の側でも、地域や社会の課題を自分のアイデアで解決したいと思うようになったという回答が70.3パーセントに達した。
起業の授業なのに地域課題への関心が動くのは、題材の置き方による。報告書の支援校一覧には、大阪府立豊中高等学校能勢分校の総合学科「里山起業学習群」、兵庫県立武庫荘総合高等学校の「起業ゼミ」、福井県立福井商業高等学校の会計科、山口県立西京高等学校の総合ビジネス科・情報処理科、英心高等学校桔梗が丘校の通信制普通科探究コースなどが並ぶ。地域の素材を使ってビジネスプランを立てる授業であれば、起業の学習と地域の学習は分けられない。
生徒の自由記述にも「地域の課題を解決するプランを考えるのは面白かった」「地域の現状や課題について学べた」という声が残っている。起業の入口として地域を使ったことが、結果として地域への関心を押し上げている。学生が地域課題で起業するならで扱った受注側の枠組みと合わせると、学んだ先の行き先が見えやすくなる。
教員が置いた目的は起業そのものではない
では学校側は何のためにこれを入れているのか。プログラム実施支援を受けた20校の教員27名に目的を複数回答で聞くと、最も多かったのは「起業家精神(チャレンジ精神、創造性、探究心)を有する人材を育成するため」で66.7パーセントだった。出前授業の側の教員113名では、「将来の可能性について考えさせるため」が76.1パーセントで最多、次が起業家精神の育成で55.8パーセント、進路選択の一助とするためが54.0パーセントと続く。
起業する生徒を増やすことより、考え方と進路の幅を広げることに重心が置かれている。続ける意向も高く、プログラム実施支援では88.9パーセントの教員が次年度も実施したいと答え、出前授業では77.9パーセントだった。中小機構からの情報提供やサポート紹介を希望するという回答は95.8パーセントに上る。
一方で、自由記述には限界も書かれている。この分野を得意とする教員は非常に少なく抵抗感も強い、教員だけでは到底実施不可能だと思う、という記述が残る。外部の起業家と専門家に依存する構造なので、支援が途切れたときに残るかどうかは学校ごとに違う。
地域での起業につなげるには像の作り直しが必要になる
報告書の中で、地域起業という観点から気になる数字がもう一つある。起業家のイメージを複数回答で聞いた項目で、出前授業を受ける前の生徒の60.5パーセントが「独創的な発想で新たなビジネスを行い、大きな成功を遂げた人」を選んだ。プログラム実施支援を受けた生徒でも、授業後にこの選択肢を選んだのは55.5パーセントである。
地域で起業する人の大半は、この像から離れたところにいる。自分の資格や得意なことをビジネスに活かし自由な働き方をしている人という選択肢を選んだ生徒は、授業前で35.8パーセントだった。地域の老舗企業や伝統産業のビジネスを引き継ぐ形も選択肢に入っている。授業が成功者像だけを強めると、地域での小さな起業や事業承継は視野から外れてしまう。
実際の地域起業の姿は数字で確かめられる。地域起業と若者では開業の割合を、地域起業と移住では任期を終えた隊員のその後を扱っている。学校で学んだ関心を実際の事業に接続する段では、FLASPOのような地域側の案件に触れる機会のほうが像を具体にしてくれる。
よくある質問
中学生や小学生でも受けられますか。令和6年度の二つの支援はいずれも高等学校等を対象にしている。支援校一覧には中学校を併設する学校も含まれるが、事業の建て方は高校生向けである。小中学生向けの起業体験は自治体が独自に行っている例がある。
受けた生徒は実際に起業しているのですか。報告書は事業の年度内の変化を測ったもので、卒業後の進路は追跡していない。44.2パーセントという数字は意向であり、開業の実績ではない点は区別して読む必要がある。
自分の学校で導入するにはどうしますか。中小機構が公募の形で支援校を決めている。標準的なカリキュラムの内容と応募の要件は中小機構のページに掲載されており、出前授業のほうが導入の負担は小さい。
回答数の差は結果に影響しませんか。プログラム実施支援は20校で1,216件、出前授業は50校で3,383件と母数が違い、授業の時間も形式も異なる。関心が高まったという回答は出前授業のほうが高いが、事前事後の比較ができるのはプログラム実施支援だけである。二つの数字は並べて比べるのではなく、別の設計の結果として読むのが正しい。
出典はどこですか。数値は令和6年度 創業支援等事業計画機能強化事業にかかる起業家教育事業 実施報告書から取った。カリキュラムの説明は中小機構の起業家教育のページ、制度の位置づけは中小企業庁の起業家教育で確認できる。
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