制度の文書にSDGsという言葉は書かれていない
地域おこし企業人の募集要項を読んで、SDGsの17の目標が並んでいるのを期待すると拍子抜けする。現在の正式な名称は「地域活性化起業人」で、根拠になるのは総務省が自治体に出した地域活性化起業人制度推進要綱だが、そこに持続可能な開発目標という語は登場しない。
要綱が掲げている目的は別の言い方になっている。人口減少のもとで地域経済を成長させ社会機能を維持する適応策を講じることが重要だという認識を官民で共有し、地方圏へのひとの流れと関係人口の創出・拡大を目指す、という書き方だ。目標番号で語るかわりに、人口と経済と地域社会の課題を一体で扱うと述べている。
ただし、やろうとしていることが目標の体系と無縁なわけではない。要綱が例示する業務には、マーケティング技術を活かした観光客の誘客、地域特産品の販路開拓、企業のノウハウを使った地域中小企業支援、専門知識を活かしたデジタル化の推進が挙がっている。どれも目標8や目標9の射程に入る内容で、言葉が違うだけで中身は重なる。
1,215人はどの分野に置かれているのか
重なりを確かめる一番確実な方法は、実際に配置された人がどの仕事に就いているかを見ることだ。総務省が2026年4月にまとめた令和7年度の状況資料では、全体1,215人が15の区分に分けて集計されている。区分は自治体が報告した業務の内容で決まるので、地域が何を外から来た人に任せたかの一覧になっている。
業務のカテゴリー
人数
構成比
重ねて読めるSDGsの目標
DX(自治体DX・地域社会DX)
293人
24%
9 産業と技術革新の基盤
観光振興・観光誘客対策・DMO設立等
253人
21%
8 働きがいも経済成長も
地域経済活性化・雇用対策・人材育成・企業誘致等
135人
11%
8 働きがいも経済成長も
その他
94人
7%
—
移住促進・都市農村交流・交流人口の拡大等
86人
7%
11 住み続けられるまちづくりを
地域産品の開発・販路開拓・拡大等
85人
7%
12 つくる責任つかう責任
教育
55人
5%
4 質の高い教育をみんなに
広報業務
50人
4%
17 パートナーシップで目標を達成しよう
GX(脱炭素等)
35人
3%
13 気候変動に具体的な対策を
総務(政策調整・行政改革・公有財産利活用等)
35人
3%
16 平和と公正をすべての人に
農林水産(農業・畜産業・林業・水産業振興等)
34人
3%
2 飢餓をゼロに
中間支援機能に関する業務(地域商社支援及び立ち上げなど)
22人
2%
17 パートナーシップで目標を達成しよう
衛生(保健衛生・環境等)
15人
1%
3 すべての人に健康と福祉を
土木(土木管理・道路橋りょう・河川・住宅・空き家対策等)
14人
1%
11 住み続けられるまちづくりを
民生(子供子育て・福祉・災害対応等)
9人
1%
3 すべての人に健康と福祉を
右端の列は、各区分の内容を17の目標と突き合わせた筆者の整理である。一つの業務が複数の目標にかかることは当然あるので、最も近いものを一つだけ置いた。この並べ方をすると、制度全体の重心が目標8と目標9の側にあることがはっきりする。
上位2つで全体の45パーセントを占める
DXが293人、観光が253人。この2区分だけで546人になり、全体の45パーセントに達する。自治体が民間人材に期待しているのは、まず情報システムと集客の2点だと読める。どちらも役所の内部で人を育てるには時間がかかり、外から専門職を入れる効果が出やすい領域だ。
偏りを欠点と見る必要はないが、SDGsの文脈で語るときには注意が要る。目標8と目標9に厚く、目標1や目標5、目標14にあたる業務はこの集計に単独の区分として現れない。「この制度でSDGsを広く進めている」と言い切ると、集計の形と合わなくなる。
内訳の読み方そのものは別の記事で詳しく扱っている。人数の推移や型ごとの違いを先に押さえたい場合は地域おこし企業人は今どこにいるかを、DXの中身に絞って知りたい場合は自治体DXと地域社会DXを読むと早い。
数の少ない区分にこそ地域の事情が出る
一桁から十数人という区分を見ていくと、制度の性格がまた違って見える。民生が9人、土木が14人、衛生が15人。子育てや福祉、空き家、保健衛生は、どの自治体でも課題として挙がる分野なのに、外部人材の受け入れ先としては選ばれていない。
理由を資料は説明していないが、業務の性質から推測はできる。福祉や土木は法令上の権限や資格と結びつき、民間企業の社員が6か月から3年の期間で担当しても成果が残りにくい。反対に観光やDXは、計画づくりから発信までを比較的短い期間で一巡させられる。
年齢の構成も、この偏りと関係している。令和7年度の全体1,215人のうち20代は14.6パーセント、30代が24.6パーセント、50代が23.4パーセント、60歳以上が10.9パーセントで、40代以上が半分を超える。即戦力として送り出される人材が中心なので、現場で長い時間をかけて関係を築く種類の仕事とは噛み合いにくい。
その中で、GXの35人と教育の55人は中間的な位置にいる。脱炭素は計画策定と設備更新の両方に専門知識が要り、教育は学校や教育委員会との関係づくりに時間がかかる。どちらも数は少ないが、目標4と目標13という番号を自治体が自分の言葉で説明できる数少ない接点になっている。
自治体が外に説明するときの材料
制度を使う側が報告書や広報でSDGsに触れるなら、根拠として置ける事実はいくつかある。一つは要綱が関係人口の創出・拡大を明記していること。もう一つは、企業の側がこの枠組みに参加し続けている事実で、企業派遣型を使った企業数は令和7年度に475社となり、前年度から85社増えた。
年度
企業派遣型を活用した企業数
令和3年度
188社
令和4年度
252社
令和5年度
330社
令和6年度
390社
令和7年度
475社
財政の裏づけも書いておける。要綱では企業派遣型について、受入れ期間中に要する経費の上限が1人あたり年間610万円と定められ、副業型とシニア型は報償費等が年間100万円、旅費が年間100万円を上限として特別交付税の対象になる。同一の派遣元企業から複数名が来る場合は、受入自治体1団体あたり2名までが算定の対象だ。
学生が自分の地域の取り組みを調べるときも、この順番が使える。まず自治体の受け入れ実績を探し、次に業務の区分を見て、最後に17の目標のどれに寄せて説明されているかを確かめる。地域と関わる入口を探している人は、FLASPOで地域側の募集を見ながら制度の名前を照らし合わせると、募集文の背景が読み取りやすくなる。
よくある質問
制度の正式な名称はどちらなのか。現在の要綱と総務省の制度紹介ページでは「地域活性化起業人」が使われている。「地域おこし企業人」は以前の呼び名で、検索や自治体の古い資料では今も見かけるが、指している仕組みは同じものだ。
SDGsに関係する業務を希望して応募できるのか。募集は自治体ごとに出るので、業務の内容はその募集文で決まる。目標番号で募集されることはほとんどないため、脱炭素や教育といった分野名で探すほうが見つかる。
協力隊とはどちらがSDGsに近いのか。比べる軸が違う。企業人は企業に在籍したまま6か月から3年の業務に就き、協力隊は住民票を移して地域に住む。目標11のような定住に関わる論点は協力隊のほうが扱いやすい。隊員側の整理は協力隊の活動はSDGsのどこに入るかにある。
企業にとっての利点は何なのか。総務省は、企業側には地域と連携した社会貢献の推進や社員の人材育成、社員側には多彩な経験による自己研鑽とキャリアアップがあると説明している。派遣される社員の給与等は派遣元企業と受入自治体の協定書で定める形になっている。
この集計はいつ更新されるのか。総務省は年度ごとに状況をまとめて公表しており、令和6年度分は2025年4月、令和7年度分は2026年4月に出ている。区分の立て方も年によって変わるため、前年度と比べるときは区分名の一致を先に確認したい。
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