10万人を超えた名簿の、中身の方を見る
人手が足りない地域の事業者を手伝いながら、その土地に滞在する。そういう形の移動を仲立ちする「おてつたび」の登録者が、2026年6月時点で106,000人になった。運営する株式会社おてつたびの発表によれば、受け入れ側の登録事業者は2,800件を突破し、連携している自治体は70を超える。節目の数字は見出しになりやすいが、関係人口の観点で効くのは滞在の長さと参加後の行き先である。同じ発表に、その両方を測った数字が付いている。
登録者106,000人を登録事業者2,800件で割ると、1事業者あたり38人という比になる。もちろん全員が全事業者に行くわけではないので、これは混み具合の目安にすぎない。ただ、受け入れ枠より登録者がはるかに多い構造であることは読み取れる。参加者の層も偏っていて、約半数が10代と20代である。一方で50代以上の利用が急に伸びているとされ、学生の体験枠という括りからは外れ始めている。
平均2週間という滞在の長さが意味するもの
発表されている平均滞在期間は約2週間である。募集の幅は最短で1泊2日、長いものは2か月未満まで用意されている。2週間という長さは、観光の日程としては長く、移住の試行としては短い。旅行であれば宿の客として過ぎていく時間だが、作業の手として入ると、受け入れ先の都合や繁忙の波がそのまま体験の中身になる。収穫期の農家や、連休だけ人手が要る宿が主な受け入れ先になるのはそのためだ。
この長さは、国や自治体が用意する枠と比べると位置がわかりやすい。国土交通省が地域づくりインターンで示していた受入期間は2週間から1か月程度で、ほぼ重なる。一方で地域おこし協力隊の任期は年単位である。農業の現場に入る体験が制度ごとにどう呼び分けられているかは農業体験は関係人口のどこに入るか|参加・交流型と就労型の落差で整理しているので、そちらと見比べると自分の持ち時間に合う枠が決まる。
参加後のアンケートに出た4つの割合
同社が参加者に取った調査では、4つの割合が示されている。普段なら行かない場所に滞在したと答えた人が80%。参加する前はその地域を知らなかった人が49%。その自治体を訪れたのが初めてだった人が70%。そしてまた訪れたいと答えた人が85%である。初訪問が7割という数字は、観光の宣伝では届いていなかった層に届いていることを示す。
| 項目 | 値 | 読み方 |
|---|---|---|
| 登録者数(2026年6月) | 106,000人 | 参加希望の側の規模 |
| 登録事業者数 | 2,800件超 | 受け入れ枠の規模 |
| 連携自治体 | 70以上 | 行政が窓口に入っている数 |
| 平均滞在期間 | 約2週間 | 募集は1泊2日〜2か月未満 |
| その自治体が初訪問 | 70% | 観光の導線に乗っていなかった層 |
| また訪れたい | 85% | 再訪意向。実際の再訪率ではない |
表の右端に書き添えたとおり、85%は意向であって実績ではない。再訪したかどうかを追った数字は公表されていないため、ここを関係人口の定着として読むのは行き過ぎになる。就農のような次の段階まで追った調査は制度側にもほとんどなく、農業体験は就農につながるのか|現地就労型109万人と新規参入3,360人で触れた落差と同じ構図である。
民間のサービスが、法律の名簿に載った
2026年に入って位置づけが一つ変わった。国土交通省が令和8年2月にまとめた資料の中に、鳥取県北栄町が指定した二地域居住等支援法人として「(株)おてつたび」の名前がある。指定日は令和7年7月28日。この指定は改正広域的地域活性化基盤整備法に基づくもので、市町村長がNPOや民間企業を指定し、二地域居住者に住まい・なりわい・コミュニティを提供させる仕組みだ。令和7年12月31日時点の指定は全国で51法人にとどまる。
北栄町は6法人を指定していて、商工会や人材系の会社と並んでいる。お手伝いを入口に人を呼ぶ事業が、仕事の受け皿として数えられたことになる。法人指定の制度そのものの中身は特定居住促進計画とは|二地域居住を市町村が進める3つの新しい仕組みで扱っている。民間の募集に応じて地域へ行く行為が、自治体の計画の一部として位置づけられる段階に入った点は押さえておきたい。
北栄町が指定した6法人の内訳を見ると、役割の分け方がはっきりする。令和7年7月1日に北栄町商工会、一般社団法人Work Design Lab、一般社団法人EI、株式会社パソナJOB HUBの4者をまとめて指定し、7月28日におてつたび、8月8日に株式会社LASSICが加わった。商工会が地元の事業者との橋渡しを持ち、人材系の会社が仕事の口を持ち込み、おてつたびが短期で来る人の流れを作る。一つの町が同じ時期に性質の違う6者を並べたのは、住まい・なりわい・コミュニティのどれか一つでは足りないという判断だと読める。
運営会社と、表彰制度から見える受け入れ先の構成
運営する株式会社おてつたびは2018年7月の設立で、代表は永岡里菜。資本金は70,286,500円、拠点は東京都品川区と静岡県浜松市の2か所である。登録者10万人を機に第1回のおてつたびアワードを実施し、受け入れ先の事業者を2部門で表彰した。宿泊部門が大賞1件と4件、一次産業と食などの部門が大賞1件と4件で、合わせて10事業者である。
部門の立て方は、受け入れ側の構成をそのまま映している。宿が一つの塊で、農林水産と食品加工がもう一つの塊だ。どちらも繁忙期が季節に強く縛られる業種で、通年の雇用では埋めにくい穴を短期の滞在者で埋める構図になっている。地域側の受け皿を設計するときに、FLASPOが扱ってきた学生の関わり方と同じ論点が出てくるのはこの部分である。繁忙期だけ人が要るという事情は、継続的な関係をつくる設計とは噛み合いが悪い。
よくある質問
学生でなくても参加できるのか。参加者の約半数が10代と20代だが、年齢で制限されているわけではない。発表では50代以上の利用が急に増えているとされている。募集ごとに作業の内容と必要な体力が違うため、年齢よりも募集要項に書かれた作業内容を見るほうが実際的である。
どのくらいの期間から参加できるのか。募集の幅は最短1泊2日から2か月未満までで、実際の平均は約2週間である。学校の長期休暇や仕事の合間に収めるなら、2週間前後の募集が最も数が多い帯だと考えてよい。短い枠は繁忙期のイベントや連休に寄りやすい。
自治体が関わっている募集とそうでない募集の違いは何か。連携自治体は70以上あり、行政が窓口に入っている地域では受け入れ先の紹介や滞在の環境づくりに自治体の事業が乗ることがある。鳥取県北栄町のように支援法人の指定まで進んでいる場合は、市町村の計画の中に位置づけられるため、交通費や滞在費の支援が制度として用意されやすい。個別の事業者の募集では、条件は事業者ごとの提示になる。
再訪意向85%という数字はどう受け取ればよいか。参加直後の気持ちを測った数字で、実際に戻った人の割合ではない。関係人口として続いたかを知るには、2回目以降の参加者がどれだけいるかという実績値が必要になる。その種の追跡調査は公表されていないので、意向と実績を分けて扱うのが安全である。
受け入れ側として登録するにはどうするのか。登録事業者は2,800件を超えていて、宿泊業と一次産業や食品関係が中心である。繁忙期に人手が集まらない事業者が自分で募集を出す形になるため、作業の内容と期間、滞在中の寝る場所をどう用意するかを決めておく必要がある。自治体が連携している地域では、行政の窓口を経由して相談できる場合がある。
この仕組みは関係人口の施策としてどう位置づけられるのか。国の整理では、関係人口は移住した定住人口でも観光に来た交流人口でもない層を指す。初訪問が70%という数字は交流人口の入口に近いが、平均2週間という滞在の長さと作業への参加は観光より深い。支援法人の指定を受けた地域では、二地域居住へ向かう段階の一つとして扱われている。どの層に数えるかは、2回目以降の関わりが続くかどうかで分かれる。
出典
株式会社おてつたび「登録者10万人突破記念 第1回 おてつたびアワード受賞事業者を発表」/国土交通省国土政策局「二地域居住等の促進について」(令和8年2月)/おてつたび公式サイト
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