未達のKPIが並ぶ事業は、どこで呼び出されるのか
総合戦略の報告書をめくると、目標値と実績値が並んだ表が何十枚も続く。そのうち何枚かは実績が目標に届いていない。ではどこから先が「検証にかける対象」になるのか。島根県益田市が2026年9月に総合戦略審議会へ出した資料は、その線を数字で書いている。単年度でKPIを設定している事業は達成度70%未満、令和3年度から令和7年度までの累計でKPIを設定している事業は達成度60%未満。この基準で抽出された事業だけが重点的な検証にまわり、それ以外は「事業効果があった継続事業」として最後に一括で判定される。
同じ資料には、検証の客観性を担保するために審議会で行うこと、審議会の検証結果は議会に説明して意見を受けること、結果は市のホームページ等で公表することが並んでいる。検証項目はKPIの達成状況、成果の実績状況、改善・見直し事項、今後の方向性の4つ。つまり未達そのものが「失敗」として扱われるわけではなく、未達の幅が一定を超えたときに説明の場へ引き出される、という仕組みになっている。
この線引きを知らずに報告書だけを眺めると、達成度85%の事業と40%の事業が同じ重さに見えてしまう。自治体の側では前者は一括判定、後者は個別説明と、扱いがはっきり分かれている。
国が示すKPIの条件は、達成の前段階に置かれている
内閣府が公表している「地方創生関係交付金を活用した事業の立案・改善に係るチェックリスト」は、交付金事業の評価基準を4点に整理している。目指す将来像及び課題の設定、KPI設定の適切性、自立性、地域の多様な主体の参画である。4つのうち1つが丸ごとKPIの設計に充てられていることが、この制度の性格をよく表している。
同じ資料はKPIの選び方を3つの視点で示す。視点1は「客観的な成果」を表す指標であること。問いの形では「成果・効果を捉えたアウトカム指標となっていますか」「主観的でない、定量化されたKPIとなっていますか」となる。視点2は事業との「直接性」のある効果を表す指標であること。達成を目指す目標と交付金事業のKPIとの因果関係が明確か、交付金事業によって現れた成果だと説明できるかを問う。視点3は「妥当な水準」の目標が定められていること。目指す水準の根拠、費用対効果、そして「到達を予見できる低い水準のKPIを設定していませんか」という一文が入る。
低すぎる目標を置けば達成率は上がるが、この問いに引っかかる。逆に根拠のない高い数字を置けば妥当な水準の説明ができない。達成したかどうかを問う前に、測るものが正しいかを問う順番になっている。
数字が届かなかった事業は、どう記録されるか
設定値と実績値がどのように並ぶのかは、自治体が公開している事業評価書を見るとわかる。宮城県石巻市がまち・ひと・しごと創生総合戦略の評価検証で使った評価書には、事業ごとに設定したKPIと実績が対で載っている。
| 事業名 | 設定したKPI | 実績 |
|---|---|---|
| 離半島部での買物支援事業 | 買物支援利用世帯数172世帯 | 173世帯 |
| 子育て参加促進事業 | 講演会参加者数100人/疑似体験生徒数300人 | 141人/1,168人 |
| 牡鹿地区市民バス運行事業 | バス利用者数29,000人 | 26,455人 |
| 地域包括ケアシステムのサービス拠点設置事業 | サービス利用者数10人/1回 | 7.1人/1回(累計425人) |
| 創業支援・育成事業 | 創業数5件/新規事業補助採択数9件 | 0件/4件 |
並べてみると、同じ「未達」の中に性質の違うものが混ざっていることがわかる。バスの利用者数は目標の9割に達している。拠点の利用者数は1回あたり7.1人で目標の7割。創業数は0件で、これは水準の問題というより事業の立ち上がり方そのものを問う数字になる。石巻市の評価基準は自立性・将来性・地域性・直接性・結果重視の5項目で、担当課評価はA(順調)からD(遅れ)までの4段階、委員は100点満点で採点して76点以上がA、51点以上がBという区分だった。
注目したいのは、この評価の注意書きである。「単にKPIとして設定した数値を上回った、下回った等の評価だけではなく、設定した指標(数値)が適正であったかどうかも考慮する」と書かれている。未達の原因が現場にあるのか、指標の置き方にあるのかを分けて見る、という指示だ。
原因の分析は、PDCAの第6手順に置かれている
チェックリストはPDCAを7つの手順に分けている。Plan段階が手順1の達成目標の確認から手順4の目標水準の設定まで、Do段階が手順5の事業実施、Check/Action段階が手順6のKPIによる事業評価と手順7の評価に基づく事業改善である。未達の扱いは手順6に集まっている。
そこに並ぶ問いは3つ。外部有識者を含む検証組織や議会等による客観的な検証を行っているか。地域住民・事業者なども含めた多様な意見を吸い上げ、KPIの達成状況にとどまらない多面的な評価を行っているか。そして「未達成のKPIがある場合にはその要因を分析し、問題点や課題を明らかにしていますか」。続く手順7では、改善方針・改善策を明確にして実行に移すこと、それを次年度以降の事業計画に反映することが問われる。
手順5の側にも伏線がある。設定したKPIの達成状況を含めて定期的に進捗を確認し、結果が伴わない場合は実施方法の見直しなどの軌道修正を行っているか、という項目だ。年度末の評価まで待たずに途中で直す前提が置かれている。手順4には、事業の途中段階での成果や進捗を測ることのできるKPIを設定しているかという問いもある。期末に一度だけ測る指標では、この軌道修正ができない。
読む側がつまずくのは、分母と期間と単価である
公開資料を読み解くときに手が止まるのは、だいたい3か所に絞られる。ひとつは期間だ。益田市の例が示すように、単年度のKPIと5年累計のKPIでは判定の基準そのものが違う。達成度60%という数字が累計なら、残り年度での上積みが前提に組まれている。
ふたつめは分母である。「参加者数300人」のような指標は、対象を広く取れば達成しやすく、狭く取れば届きにくい。チェックリストが因果関係の明確さを問うのは、ここで分母がすり替わることを防ぐためだ。みっつめは単価だ。茨城県の効果検証部会では、委員から「事業に投入した投資額と成果との関連がよく見えない。要は投資のコストパフォーマンスが分からないものが多い」という指摘が出ている。県の回答は、交付金の申請時に最も重要とされるKPIに対応した「交付対象事業における単位あたりコスト」を算出しているというものだった。申請書類の側には単価の数字があり、公表資料の側には出てこないことがある。
地域の活動を調べる学生や、事業を企画する立場で資料を読む人にとっては、達成率の数字より先にこの3点を押さえるほうが早い。地域と若い世代の関わり方を扱うFLASPOの現場でも、評価資料は結論ではなく設計の記録として読まれている。関連する論点は地方創生の失敗はどこに記録されるかと自治体の運営はどこで失敗と判定されるかでも扱っている。
よくある質問
Q. KPIが未達だと交付金を返さなければならないのですか。
チェックリストに返還の規定は書かれていない。求められているのは要因の分析と改善策の提示、そしてそれを次年度以降の計画に反映することである。未達は手続上の不正ではなく、評価と改善の対象として扱われる。
Q. 達成度が何%を下回ると問題になりますか。
国が一律の数値を示しているわけではない。益田市は重点検証の抽出基準として単年度70%未満・累計60%未満を自ら設定していた。基準は自治体ごとに置かれるため、資料を読むときはまず抽出条件が書かれた総括資料を探すのが確実である。
Q. 目標を低く置けば評価は良くなりますか。
視点3に「到達を予見できる低い水準のKPIを設定していませんか」という問いが入っているため、低い水準は水準の妥当性の側で引っかかる。石巻市の評価でも、指標の数値が適正だったかどうかを考慮すると明記されていた。
Q. 外部の委員はどこまで踏み込めますか。
手順6は外部有識者を含む検証組織や議会等による客観的な検証を求めている。茨城県の例のように、委員の指摘が翌年度からの説明方法の改善につながった記録も公開されている。評価の場は形式だけのものとは限らない。
Q. 一次資料はどこで読めますか。
内閣府の立案・改善に係るチェックリスト、島根県益田市の総合戦略の検証について、宮城県石巻市の重要業績評価指標(KPI)評価について、茨城県の事前評価に係る意見及び回答が、いずれも公開資料として参照できる。
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