青森駅の前に、ガラス張りの建物が立っている。もとは商業施設で、いまは市役所の窓口が入っている。1階から4階までの店が閉じたのが平成29年2月、同じフロアに駅前庁舎が開いたのが翌年の1月である。コンパクトシティの先進例として紹介されてきた街で、何がどこまで届かなかったのか、市が自分で出した報告に数字が残っている。
中心に施設を置く、という考え方のどこで折れたか
人口が減る街で、住む場所と店と役場を中心に寄せていく。徒歩で用事が済む範囲に生活を収めれば、道路や水道の負担も軽くなる。考え方としては筋が通っていて、国も平成26年の都市再生特別措置法の改正で立地適正化計画という枠を用意した。
青森市はこの考え方を早くから掲げた自治体として知られてきた。駅前の中核施設に人を集め、まちなかに住む人を増やし、空き店舗を埋める。平成24年4月から平成30年3月までの6年間を計画期間として、市は4つの目標指標を立てていた。
計画が終わったあと、市は最終フォローアップの報告を平成30年5月に公表している。そこには計画に載せた事業のうち11事業が完了し、42事業に着手したと書かれている。進め方そのものが止まったわけではない。それでも目標指標の達成状況は分かれた。
市が自分で付けた4つの評点
報告書は指標ごとに基準値と目標値、最新の実測値と評点を並べている。評点のAは目標を超えたもの、Bは基準値は超えたが目標に届かなかったもの、Cは目標にも基準値にも届かなかったものである。
| 目標指標 | 基準値(H22) | 目標値(H29) | 実測値 | 評点 |
|---|---|---|---|---|
| 歩行者通行量(20地点・人/日) | 74,048 | 77,554 | 57,882 | C |
| 年間観光施設入込客数(人/年) | 1,117,370 | 1,719,100 | 1,582,878 | B |
| 夜間人口(人) | 3,547 | 3,737 | 3,259 | C |
| 空き地・空き店舗率(%) | 16.4 | 13.1 | 13.1 | A |
目標を達成したのは空き地と空き店舗の率だけである。16.4パーセントから13.1パーセントへ改善し、報告書は官民の取組による効果だと書いている。観光の入込客数も基準値からは伸びた。
一方で歩行者通行量は基準値より1万6,166人少ない水準まで落ちた。中心市街地に夜も住んでいる人の数は3,547人から3,259人へ減っている。店の空きは埋まり、観光客は増えたのに、歩く人と住む人は減った。この組み合わせが、青森の事例をめぐる評価の分かれ目になっている。
926人増やす計画が、0人で終わっている
報告書は指標の下に、達成に寄与するはずだった主要事業の結果も載せている。青森駅周辺整備推進事業は、歩行者通行量を926人増やすことを目標に掲げていた。最新値の欄には0人増加と記され、達成状況は目標未達成である。理由は事業期間の延長で、計画期間の後に完成する見込みと書かれている。
もうひとつ、老朽化したビルと空き地を共同化する中新町ウエスト地区の事業では、地区の歩行者通行量の目標が10,012人に対して実測が7,754人だった。こちらの未達の理由として報告書が挙げているのは、街区の賑わい創出には一定の効果があったものの、全体の回遊性の向上が図られなかったという点である。
歩行者通行量全体の未達についても、市は同じ筋で説明している。青森駅前地区とウォーターフロント地区で増えた交流人口による賑わいを、地区の全体へ広げきれなかったという見立てである。拠点はできた。拠点と拠点の間を人が歩かなかった。この街で起きたのは、施設の失敗というより面の失敗に近い。
全国の集計でも、3割の都市が逆を向いている
青森だけの話ではない。国土交通省都市局は2025年6月の資料で、立地適正化計画の進み方と効果を集計している。計画を公表した都市は令和7年3月に636となり、600都市という目標を達成した。取組中の都市は907にのぼる。計画の数は順調に増えている。
同じ資料は、計画を公表した都市で区域の中身がどう動いたかも評価している。令和6年4月1日時点の数字は次のとおりである。
| 評価の対象 | 増加 | 維持 | 減少 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 都市機能誘導区域内に立地する施設数の割合 | 172都市(38.4%) | 132都市(29.5%) | 144都市(32.1%) | 448都市 |
| 居住誘導区域内に居住している人口の割合 | 319都市(72.2%) | — | 123都市(27.8%) | 442都市 |
読み方は二通りある。維持と増加を合わせれば3分の2を超えるので、資料はおおむね順調という評価を置いている。同時に、施設の割合が減った都市は32.1パーセント、区域内の人口割合が減った都市は27.8パーセントある。計画を作ってなお、3割前後の都市で狙いと逆の動きが続いている。
失敗と呼ばれているものの中身を分けて考える
コンパクトシティの失敗という言い方でまとめられている現象は、分解すると性質が違う。ひとつは核になる一施設に賭けて、その経営が傾いた場合である。青森の駅前の建物はこの形で語られることが多いが、報告書の数字が示しているのは、商業フロアが閉じたあとも空き店舗の率は改善したという事実で、街全体の指標と施設の帰趨は一致していない。
二つめは拠点が点のままで終わる場合である。駅前と海側それぞれに人が来ているのに、その間の通りを歩かない。回遊性という言葉で報告書が指しているのはこの状態で、926人のはずが0人という数字はその帰結である。三つめは、計画を作った数だけが進捗として積み上がる場合で、636都市という達成の裏に3割の逆行が残るのはそのためである。
学生が地域の調査や提案に関わるとき、この分け方は使える。拠点を増やす提案より、拠点と拠点の間で人が歩かない理由を数えるほうが、既存の計画に足りていない情報を出せる。通行量は20地点で午前9時から午後7時まで、1時間のうち30分を測って2倍する方法で集計されていて、調査主体は中心市街地活性化協議会である。手順が公開されているので、同じ形で自分の街を測れる。
箱を作ること自体が抱える構造はハコモノはなぜ失敗するのか|地方創生の施設整備が抱える構造に、交付金のKPIが続かなくなる境目は補助金頼みの地方創生はなぜ続かないのか|交付金KPIが示す境目にまとめてある。空き店舗の側から街区に入る手順は商店街活性化の学生プロジェクト|空き店舗率13.59%から組むが近い。地域に関わる入口の探し方はFLASPOでも紹介している。
よくある質問
青森市のコンパクトシティは失敗したのですか。
4つの目標指標のうち達成はひとつ、基準値を超えたのがひとつ、残る二つは基準値を下回った。市の報告書はこの結果を踏まえて、回遊性の向上と住環境の整備促進について更なる取組が必要だと書いている。全体としての成否を断ずる記述は置かれていない。
富山市は成功した例と聞きます。
国土交通省の資料は個別の都市を成功と失敗に分けては示していない。公表されているのは区域内の施設数と人口割合が増えたか減ったかという集計である。都市ごとの評価を知りたい場合は、その市が出している立地適正化計画の進捗報告を読む形になる。
立地適正化計画を作れば人口の集約は進むのですか。
令和6年4月1日時点の集計では、居住誘導区域内の人口割合が増えた都市が319、減った都市が123である。計画の作成は条件のひとつにすぎず、作っただけでは向きが変わらない都市が3割近く残っている。
歩行者通行量はなぜ減ったのですか。
市の報告書が挙げている要因は、駅前地区とウォーターフロント地区で生まれた賑わいを地区の全体へ波及させきれなかったことである。あわせて、市の総人口が平成22年から27年の5年間で約4.0パーセント減り、東北6県の県庁所在都市の中で最も減少が著しいという前提も記されている。
元の数字はどこで読めますか。
青森市の指標と個別事業の結果は平成29年度 認定中心市街地活性化基本計画の最終フォローアップに関する報告に、全国の集計は国土交通省都市局都市計画課の立地適正化計画の現状及び新たな機能の検討に掲載されている。前者は平成30年5月、後者は2025年6月20日の資料である。
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