農業や林業の現場に都市部の企業人材が入ってくる、という話は自治体の募集ページでよく見かける。ところが総務省が令和8年4月24日に公表した令和7年度における地域活性化起業人の状況等を分野で割ると、農林水産を担当した人は34人しかいない。全体は1,215人である。制度の名前に「地域活性化」と入っているぶん、一次産業もその中に含まれていると読んでしまうが、数字の上では端の方に置かれている。どこで差がつくのかを、同じ総務省が出している協力隊の数字と並べて確かめていく。
1,215人を分野で割ると農林水産は34人
令和7年度の地域活性化起業人は、企業派遣型が904人、副業型が299人、シニア型が12人で、合計1,215人。前年度から344人増えている。受け入れた自治体は538団体で、こちらも増加が続く。この1,215人を担当分野で分けた表が公表資料の6ページに載っている。最も多いのはDX(自治体DX・地域社会DX)の293人で24パーセント、次が観光振興・観光誘客対策・DMO設立等の253人で21パーセント。この二つで全体の45パーセントを占める。農林水産(農業・畜産業・林業・水産業振興等)は34人、割合では3パーセントで、15区分のうち下から5番目に位置する。
| カテゴリー | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| DX(自治体DX・地域社会DX) | 293人 | 24% |
| 観光振興・観光誘客対策・DMO設立等 | 253人 | 21% |
| 地域経済活性化・雇用対策・人材育成・企業誘致等 | 135人 | 11% |
| その他 | 94人 | 7% |
| 移住促進・都市農村交流・交流人口の拡大等 | 86人 | 7% |
| 地域産品の開発・販路開拓・拡大等 | 85人 | 7% |
| 教育 | 55人 | 5% |
| 広報業務 | 50人 | 4% |
| 総務(政策調整・行政改革・公有財産利活用等) | 35人 | 3% |
| GX(脱炭素等) | 35人 | 3% |
| 農林水産(農業・畜産業・林業・水産業振興等) | 34人 | 3% |
| 中間支援機能に関する業務 | 22人 | 2% |
| 衛生(保健衛生・環境等) | 15人 | 1% |
| 土木(土木管理・道路橋りょう・河川・住宅・空き家対策等) | 14人 | 1% |
| 民生(子供子育て・福祉・災害対応等) | 9人 | 1% |
制度の作りが一次産業を拾いにくい
34人という数は、一次産業に関心がないから生まれた数ではない。地域活性化起業人制度推進要綱を読むと、入口の条件がそもそも都市の会社員に向けて書かれていることがわかる。企業派遣型の要件は、三大都市圏に所在する企業等に勤務する者、または三大都市圏外の指定都市・中核市・県庁所在市に所在する企業等に勤務する者であること。派遣期間は6か月以上3年以内で、各月において受入自治体の開庁日の半分以上を区域内で働くことが求められる。派遣元として想定されているのは都市部にオフィスを構える企業であり、農協や森林組合、漁協のような地元の組織はこの枠に入らない。
お金の出方も、企業の持つノウハウを買う形に寄っている。受け入れに対する特別交付税措置は、期間前の経費が1団体あたり上限100万円で措置率0.5、期間中の経費が1人あたり上限610万円(令和8年度から引き上げ)、起業人が発案・提案した事業の経費が1人あたり上限100万円で措置率0.5という構成である。610万円はマーケティングやデジタル化の専門人材を1年単位で迎える単価として置かれており、作物を育てて収穫するまでの時間軸とはかみ合いにくい。副業型とシニア型は月4日以上かつ月20時間以上という軽い関わりが前提で、こちらは現場作業そのものより計画づくりや販路の相談に向く。
協力隊では583人が就農・就林へ進む
同じ総務省が同日に公表した地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果を見ると、一次産業の比重はまったく違って見える。令和2年度から令和6年度までの5年間に任期を終えた隊員は8,762人で、そのうち70.3パーセントの6,163人が同じ地域に定住した。活動地と同一市町村内に残った5,038人のなりわいを分けると、起業が2,296人で45.6パーセント、就業が1,753人で34.8パーセント、就農・就林が583人で11.6パーセントである。583人の内訳は農業477人、林業54人、畜産業20人、漁業・水産業12人。就業の側にも農林漁業(農業法人、森林組合等)が138人いる。
比率を並べると落差がはっきりする。起業人は1,215人に対して農林水産が34人で2.8パーセント、協力隊は定住者5,038人に対して就農・就林が583人で11.6パーセント。4倍の開きがある。理由は制度の形に戻る。協力隊は住民票を移して1年以上3年以内で活動し、報償費を受け取りながら地域に住む。土を触る仕事は住んでいないと続かないため、住むことを条件に組み込んだ制度の側に一次産業が集まる。二つの制度の違いは協力隊と地域活性化起業人を分けるものでも整理した。
受け入れ側の一次産業はどれだけ縮んだか
34人を少ないと感じるかどうかは、受け入れる側の規模にもよる。農林水産省の農業労働力に関する統計によれば、個人経営体の基幹的農業従事者は令和8年に98.7万人となり、100万人を下回った。令和7年の農林業センサスでは103.6万人、令和2年は136.3万人だった。令和8年の数値は全数調査ではなく農業構造動態調査による標本調査の推定値なので、センサスの値と直接比べるときは注意が必要だと同省も断っている。年齢の偏りも大きく、令和8年の65歳以上は69.3万人で全体の約7割、平均年齢は67.7歳である。
98.7万人という母数に対して、企業から派遣される人材が34人という数字は、現場の人手として数えるには小さすぎる。一方で、起業人のカテゴリーには農林水産と別に「地域産品の開発・販路開拓・拡大等」が85人いる。作る側ではなく売る側に企業人材が置かれている、という配置である。つまり起業人制度に期待されているのは労働力の補充ではなく、できたものを都市へ流す回路の設計だと読める。一次産業で独立するまでの時間の感覚は一次産業の起業は6年目で10倍に開くで扱っている。
一次産業に関わりたい人はどの入口を通るか
学生や社会人が「農業や林業に外から関わりたい」と考えたとき、34人と583人という数字は進路の選び方に直結する。会社に在籍したまま関わりたいなら起業人の副業型が近い。自治体と個人が契約を結ぶ形で、月4日以上かつ月20時間以上、受入自治体での滞在は月1日以上という条件なので、勤務を続けながら産品の販路や情報発信を担当する余地がある。報償費等は1人あたり上限100万円、旅費が同じく上限100万円で、合計の上限は200万円である。退職後に関わるシニア型も令和7年度から立ち上がり、初年度は12人が10団体で活動した。
現場の作業や就農そのものを目標にするなら、協力隊の側が実績を持っている。募集は市町村が出すため、農業・林業・畜産といった担当業務が募集要項の段階で書かれていることが多い。都市部の勤務先という条件は付かず、応募の起点は居住地の要件になる。どちらの制度も自治体の公募から始まるので、興味のある分野を決めてから自治体名で探す順番になる。学生のうちに地域との接点を作りたい人は、FLASPOのような学生向けの活動の場も含めて、在学中に通れる入口を先に並べておくと判断しやすい。
よくある質問
農林水産の34人は増えているのか。公表資料はカテゴリー別の人数を当該年度分として示しており、過去との接続を同じ表で追えるようには作られていない。確実に言えるのは、全体が871人から1,215人へ344人増えた年度に、農林水産は34人で3パーセントの位置にあるという点である。
起業人として受け入れられる自治体はどこか。対象は三大都市圏外の市町村、および三大都市圏内のうち条件不利地域を有する市町村・定住自立圏に取り組む市町村・人口減少率が高い市町村で、合わせて1,433市町村である。ただし三大都市圏外の指定都市・中核市・県庁所在市に所在する企業の社員を活用できるのは、このうち1,375市町村に限られ、企業が受入団体と同一道県内に所在する場合は除かれる。
起業人は何歳くらいの人が多いのか。令和7年度の1,215人の年齢構成は、20代が14.6パーセント、30代が24.6パーセント、40代が26.5パーセント、50代が23.4パーセント、60歳以上が10.9パーセントである。男女比は77.9パーセントと22.1パーセントで、男性に偏っている。
企業派遣型を出している会社はどんな企業か。令和7年度の活用企業数は前年度から85社増えて475社。人数の多い順では株式会社JTBが30人、AKKODiSコンサルティング株式会社が22人、ソフトバンク株式会社が21人と続く。旅行・IT・コンサルティングの比重が高く、カテゴリー別でDXと観光振興が上位に来る構図と重なる。全体の分布は地域おこし企業人は今どこにいるかで確かめられる。
副業型で一次産業に関わるとき、所属先の会社の許可は必要か。要綱は自治体と「企業に所属する社員」または「所属していた個人」が契約を締結する形を定めている。勤務先に在籍したまま契約する以上、就業規則上の副業の扱いは自分で確認しておく必要がある。制度の側が勤務先の承諾を代わりに取ってくれるわけではない。
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