副業型の月20時間では社会保険は動かない|起業人の加入要件と二以上事業所勤務届

活動量は「月20時間」、社会保険の線は「週20時間」

地域活性化起業人の副業型に応募しようとして、勤め先の総務から「社会保険はどうなるのか」と聞かれる人がいる。制度の側の数字を先に置くと答えの輪郭が見える。令和8年3月23日付の総行応第68号で改正された地域活性化起業人制度推進要綱は、副業型の要件として「月4日以上かつ月20時間以上の勤務に相当する業務を行うこと」を挙げ、あわせて月1日以上の滞在を求めている。滞在日数は月4日や月20時間に含めてよいとQ&Aが補足している。

一方、健康保険と厚生年金保険の加入要件に出てくる時間は「週の所定労働時間が20時間以上」である。月に20時間なら週あたり5時間前後で、この線には届かない。つまり副業型の活動量をそのまま当てはめる限り、受入自治体の側で新たに被保険者になる形は通常は生じない。制度の違いを俯瞰するには協力隊と地域活性化起業人を分けるものが住民票や任期の面から整理している。

ここで注意したいのは、要綱の「月20時間」が所定労働時間を意味する言葉ではないという点である。要綱は「勤務に相当する業務を行うこと」という書き方をしており、雇用契約に基づく所定労働時間の下限を定めたものではない。身分が会計年度任用職員なのか委託なのかで、そもそも社会保険の適用の土台に乗るかどうかが変わる。数字が似ていても比べている対象が違う。

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令和8年10月に消えた要件と、残った要件

時間の線だけを見て判断すると、今年の改正を取りこぼす。日本年金機構は、短時間労働者の加入要件のうち所定内賃金が月額8.8万円以上という賃金要件を令和8年10月1日に撤廃したと案内している。いわゆる106万円の壁がここで外れた。根拠は令和7年の年金制度改正法で、最低賃金以上の時給で週20時間働けば賃金要件は自動的に満たされるという整理が背景にある。

要件 内容 現在の扱い
労働時間 週の所定労働時間が20時間以上 残っている
賃金 所定内賃金が月額8.8万円以上 令和8年10月1日に撤廃
雇用期間 2か月を超えて雇用される見込み 残っている
学生 学生でないこと 残っている
企業規模 従業員51人以上(令和9年9月まで) 段階的に縮小

企業規模の要件は、令和9年10月から36人以上に下がる。厚生労働省の特設サイトは、従業員36人から50人の企業が令和9年10月、21人から35人が令和11年10月、11人から20人が令和14年10月、10人以下が令和17年10月から対象になるという段階表を示している。副業型の起業人を出している中小企業にとっては、本業側の加入義務が先に広がる話として読める。なお最低賃金法第7条の特例許可を受けて所定内賃金が8.8万円未満の人は原則対象外で、申し出により加入できる扱いが残された。

この撤廃が副業型の実務に与える影響は、本人よりも派遣元企業の側に出る。賃金要件が外れたことで、短い時間で働く従業員のうち週20時間の線を超える人が一律に対象となった。副業型の起業人を出す会社がもともと51人以上の規模であれば、本業の側の被保険者が増えている可能性がある。起業人として送り出す人の処遇を見直すなら、その前提も合わせて確かめておく方がよい。

2か所で要件を満たしたら、10日以内に届書を出す

副業型でも、受入自治体との関わり方が深くなって週20時間以上の勤務に変わればこの話は動き出す。同時に2か所以上の適用事業所に使用されることになった被保険者については、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実の発生から10日以内に提出することになっている。本人がどちらの事業所を選択するかを決め、選択した事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所に出す。

この届書を出すと、保険料の計算が1か所ずつの足し算ではなくなる。日本年金機構の説明では、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額によって標準報酬月額を決定し、決まった保険料額をそれぞれの事業所で受ける報酬月額に基づいて按分する。本業の給与が高ければ本業側の負担が重くなる配分で、片方の給与から全額が引かれる形にはならない。所属元の会社が何を引き受けるのかという論点は所属元の会社は何を引き受けるのかで承諾と労災の側から扱われている。

届書の名前が長いので取り違えやすいが、70歳以上の人が複数の事業所で働く場合には別の様式が用意されている。提出のきっかけは「同時に2か所以上の適用事業所に使用されることになった」という事実そのもので、本人の希望ではない。10日という期限は短いため、受入自治体との勤務形態が変わる話が出た段階で社会保険の担当に伝えておくのが確実である。

雇用保険は別の線で引かれている

同じ「週20時間」という言葉が出てくるので混ざりやすいが、雇用保険の要件は社会保険と別に置かれている。厚生労働省の資料では、週の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込みがあれば原則として適用対象となり、65歳以上の労働者についても平成29年1月1日から同じ扱いになった。企業規模の要件はない。

複数の職場を合算して加入できる仕組みもあるが、対象は限られている。令和4年1月に始まった雇用保険マルチジョブホルダー制度は、65歳以上で複数の事業所に雇用され、2つの事業所の労働時間を合計して週20時間以上、それぞれの雇用見込みが31日以上という3つの条件を満たす人が使える。片方の所定労働時間は5時間以上20時間未満であることが必要で、手続きは本人がハローワークに申し出る形をとる。申し出た日から被保険者となり、それより前に遡ることはできない。

制度の位置づけも押さえておきたい。厚生労働省の資料は、マルチジョブホルダー制度をまずは65歳以上の労働者を対象に本人の申出を起点として試行的に導入したものと説明し、効果等は施行後5年を目途に検証するとしている。65歳未満の副業については、複数の職場を合算して雇用保険に入る仕組みが今のところない。

企業派遣型は、給与の出どころが協定書で決まる

副業型と企業派遣型では、お金の流れそのものが違う。要綱によれば企業派遣型は派遣元企業と受入自治体が協定を結ぶ形で、給与は協定書で定める。特別交付税の措置は市町村に対して行われ、派遣元企業へ直接振り込まれるわけではない。給与を支払う事業所がどこかという点は社会保険の適用を決める出発点になるため、協定書の書き方が実務上の分かれ目になる。派遣の決まり方は地域活性化起業人の派遣はどう決まるかに詳しい。

労災保険等については要綱のQ&Aが明確に線を引いていない。原則として協議により決定されるものと考えているという書き方で、起業人の身分によって各種災害補償の対応可否が変動すると思われるという注記が付く。身分が決まらないと補償の帰属も決まらないという構造で、受入自治体と派遣元が先に話をまとめておく必要がある。令和7年度の起業人は企業派遣型904人・副業型299人・シニア型12人の計1,215人、受け入れたのは538団体で、この一つずつに協議がある。地域で働く入口を探すときはFLASPOのような窓口から制度名を手がかりにするとよい。

よくある質問

副業型で活動すると、本業の社会保険が切り替わりますか。受入自治体の側で被保険者にならないのであれば、本業側の加入関係はそのまま続く。週20時間以上の勤務に変わって2か所で要件を満たしたときに、所属選択の届書で保険者を決める手続きが入る。切り替わるのではなく、合算して決め直すという扱いになる。

勤め先の承諾はどの段階で必要ですか。要綱は、副業型として活動する旨と副業形態等の承諾等を事前に得ることを求め、受入自治体への承諾書等の提出が必要としている。社会保険の手続きより前に置かれる要件で、承諾がなければ制度に乗らない。

週20時間に残業は含みますか。厚生労働省の要件の説明では、残業時間は原則として含まないが、常に残業が発生している場合などは算出に含むことがあるとされている。所定労働時間が19時間でも実態が毎月それを超えているなら、判断が変わる余地がある。

シニア型は社会保険の扱いが違いますか。要綱はシニア型を退職からおおむね5年以内の人を対象とし、年齢制限を置いていない。社会保険の側に年齢による別の要件があるわけではないが、65歳以上であれば雇用保険のマルチジョブホルダー制度を使える場合がある。制度の側は退職証明書等で退職の時期を確認する扱いになっている。

出典:総務省「地域活性化起業人制度推進要綱の一部改正について」、日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」、同「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」、厚生労働省「社会保険加入の要件」、同「雇用保険マルチジョブホルダー制度の概要」


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