起業人の受入が広がらない理由|接点あり59.8%とHP経由5.1%の入口

対象1,433市町村のうち、使っているのは421

数字だけを並べれば、この制度は順調に伸びている。総務省の集計によると令和6年度の地域活性化起業人は871人で、前年度から92人増えた。企業が社員を送り出す企業派遣型が780人、自治体と個人が直接契約する副業型が91人という内訳である。令和3年度は395人、令和4年度は618人、令和5年度は779人だったので、4年で2倍を超えたことになる。

ところが受け入れる側の広がりは、人数の伸びとまったく違う形をしている。企業派遣型を活用した市町村は421団体、副業型は45団体にとどまる。制度の対象となる市町村は1,433あるため、企業派遣型でも3割に届いていない。残る1,000団体あまりは、使える立場にありながら使っていない。地方創生の施策が空振りした話では要件の厳しさが先に語られがちだが、この制度のつまずきはもっと手前で起きている。

手前というのは、そもそも自治体と企業が出会っていないという意味である。制度の中身を知る前の段階で止まっているなら、交付税の上限を引き上げても人数は増えない。総務省の調査には、その入口の様子がはっきり出ている。

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入口の6割は、もともと付き合いのあった会社

令和6年度に企業派遣型で受け入れた780人について、総務省は受入自治体に「制度を知ったきっかけ」を尋ねている。回答のうち、派遣元が従前から接点を持っていた企業だったという答えは合わせて59.8%を占めた。内訳は自治体から打診した例が314人、企業から打診を受けた例が152人である。

対して、接点のなかった企業と総務省のホームページを通じてつながった例は、企業側からの打診35人と自治体側からの打診5人を合わせて40人。全体の5.1%しかない。公開情報を置いておけば勝手にマッチングが進む、という前提が成り立っていないことがわかる。

制度を知ったきっかけ(企業派遣型) 人数 割合
接点あり・自治体から打診した 314人 40.3%
接点あり・企業から打診を受けた 152人 19.5%
接点なし・第三者の仲介で出会った 64人 8.2%
接点なし・自治体から打診した(HP経由を除く) 59人 7.6%
接点なし・企業から打診を受けた(HP経由を除く) 55人 7.1%
接点なし・内閣府に相談して機会を得た 36人 4.6%
接点なし・総務省HPを見た企業から打診 35人 4.5%
接点なし・総務省HPを見て自治体から打診 5人 0.6%
その他・無回答 60人 7.7%
合計 780人 100%

この表の読み方は難しくない。すでに企業とのつながりを持つ自治体は、そのつながりを制度に乗せ替えて人を得ている。つながりがない自治体は、相談先を探す段階で止まる。地域によって差が開くのは当然で、企業の本社が集まる地域と縁のない町ほど不利になる。

分野も派遣元も、特定のところに寄っている

受け入れた人の中身を見ると、もうひとつの偏りが出てくる。令和6年度の企業派遣型で最も多い活動分野はDXの238人で、全体の30%を占めた。次が観光の170人で22%、地域経済活性化の78人で10%と続く。副業型も観光19人、DX17人、地域経済活性化15人の順で、上位は入れ替わらない。

派遣元の顔ぶれも散らばっていない。企業派遣型ではJTBが40人、DMM.comが24人、ソフトバンクが22人、AKKODiSコンサルティングが21人、富士通Japanが17人を送り出している。送り出し企業は390社あるが、上位の数社に人数が集中している形だ。企業側に制度の経験が蓄積されるほど次の派遣が決まりやすくなるので、この集中は年を追って強まりやすい。

福祉や教育のように、民間の専門人材を呼びたい分野は他にもある。それでも実際に動くのはDXと観光で、ここに当てはまらない課題を抱えた自治体は制度の使い道を描きにくい。地域活性化起業人871人の内訳を見ると、人数の多い自治体と分野がきれいに重なっていることがわかる。

副業型は条件が軽いのに91人で止まった

令和6年度に新しく加わった副業型は、条件のうえでは入りやすい。求められるのは月4日以上かつ月20時間以上の勤務と、受入自治体に月1日以上滞在することである。企業派遣型のように受入自治体の区域内で月の半分以上働く必要はなく、本業を続けながら関わることができる。

それでも初年度の実績は91人、45団体、80社だった。企業派遣型の780人と比べると1割強にすぎない。条件の軽さが参加者の多さに直結していない理由は、やはり入口にある。副業型は自治体と個人の契約なので、自治体が個人を見つけるか、個人が自治体の募集を見つけるかのどちらかが必要になる。企業同士の協定と違って、窓口になる担当者が最初から存在しない。

令和6年度の副業型8件の事例を見ると、きっかけは視察先での紹介、業務での面談、ふるさと納税の委託業者からの紹介、市の募集への応募とばらばらだった。再現できる型があるわけではなく、偶然に近い出会いが契約に育っている。要件を満たせるかどうかより先に、出会えるかどうかで決まっているのが現状である。

国が足したのは、お金ではなく出会いの場だった

総務省もこの構図を把握している。令和5年度の補正予算では、三大都市圏の企業およそ5万5千社に制度の周知を兼ねた調査を行った。返信は約1万3千社から届き、そのうち約3千社が制度に関心があると答えている。関心を持つ企業は確かに存在していたわけだ。

同じ資料には、制度を活用したい自治体や企業から「どのようにアプローチを行えば良いかわからない」という声があることも書かれている。関心のある3千社と、使えるのに使っていない1,000団体が、互いを見つけられずにいる。そこで用意されたのがマッチング支援のプラットフォームと、自治体と企業を集めるマッチングセミナーである。

令和7年度には、組める相手の範囲も広げられた。三大都市圏外の政令市・中核市・県庁所在市にある企業が、同一道県内でなければ対象に加わっている。都市圏の企業にしか声をかけられなかった町にとっては、近場の企業と話せるようになった分だけ入口が増えた。同一道県や指定都市の扱いでつまずいていた自治体には効く改正である。

ただし、増えたのは選択肢であって出会いそのものではない。接点のない相手と組んだ例が全体の3割強にとどまっている以上、プラットフォームとセミナーが実際に機能するかどうかが次の分かれ目になる。

地域と関わる働き方を探している学生や社会人にとっても、この制度は入口のひとつになる。FLASPOでは地域に関わる仕事の形を扱っているが、どの制度を選ぶにしても、自治体側がどこでつまずいているかを知っておくと話が早い。

よくある質問

制度の呼び方や、似た仕組みとの違いについて聞かれることが多い点をまとめた。

「地域おこし企業人」と「地域活性化起業人」は同じものかという質問が最も多い。平成26年度から令和2年度までは地域おこし企業人という名称で、令和3年度に地域活性化起業人へ変わった。古い資料や記事では旧称が使われているため、検索すると両方が出てくる。

自分で手を挙げて参加できるのかという点では、型によって答えが変わる。企業派遣型は自治体と企業が協定を結ぶ方式なので、社員個人が応募する形にはならない。副業型とシニア型は自治体と個人の契約なので、自治体の募集に応じる道がある。募集の有無は市町村の公式サイトで確認することになる。

活動の期間は6か月から3年までである。協力隊のように住民票を移す必要はなく、企業派遣型なら受入自治体の区域内で月の半分以上働けばよい。生活ごと移る覚悟までは求められない点が、協力隊の受け入れでつまずく場面との大きな違いになる。

報酬はどこから出るのかという疑問もある。企業派遣型では自治体が派遣元企業に負担金を払い、その経費に特別交付税が措置される。社員の給与は派遣元から支払われる在籍派遣の形が基本で、自治体が直接雇うわけではない。副業型は自治体が本人に報償費を払う形になり、上限は旅費と合わせて年200万円である。

出典

本文の数値は次の資料から取った。制度の要件と令和6年度の実績、知ったきっかけの集計は総務省「地域活性化起業人について」、副業型の事例は総務省「地域活性化起業人 令和6年度活用事例集(副業型)」、令和3年度と令和4年度の人数は総務省「令和4年度における地域活性化起業人の活動状況等」による。


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