愛媛県の地図を開いて、協力隊の人数を市町村ごとに置いてみると、南予の内陸に数字がひとつ飛び出す。県全体で162人のうち30人が西予市にいる。人口は3万3千人ほどで、県庁所在地の松山市より人口は15分の1以下なのに、隊員の数は7倍を超える。偏りの理由は予算の額ではなく、誰が募集要項を書いているかにあった。
県内162人のうち、30人が一つの市に集まっている
総務省が令和8年4月に公表した令和7年度の隊員数は、全国で8,196人、取組自治体は1,187団体(20道県と1,167市町村)である。前年度からの増加は286人で、受入可能な1,461団体のうち8割強が制度を使っている段階にある。このうち愛媛県は162人、受入自治体は17で、県内の配分は均されていない。
最も多いのが西予市の30人、次が今治市の21人、しまなみの島嶼部をもつ上島町が17人と続く。松山市は4人、四国中央市は集計に名前が出てこない。県庁所在地や工業都市より、人口の少ない市町が隊員を抱える構図になっている。
| 市町 | 隊員数(令和7年度) |
|---|---|
| 西予市 | 30人 |
| 今治市 | 21人 |
| 上島町 | 17人 |
| 伊方町 | 14人 |
| 内子町 | 12人 |
| 愛南町 | 11人 |
| 伊予市 | 11人 |
| 松山市 | 4人 |
| 愛媛県合計 | 162人(17自治体) |
西予市は平成16年4月1日に明浜町・宇和町・野村町・城川町・三瓶町の5町が合併してできた市で、面積は約515平方キロメートル、標高は0メートルから1,400メートルまで広がる。総務省の事例紹介によると、人口は33,128人(令和7年6月末の推計)、高齢化率は約44.1パーセント(令和2年国勢調査)である。一つの市のなかに海沿いの集落と高原の集落が同居していて、課題のかたちが地区ごとに違う。
隊員を選んでいるのは、市役所ではなかった
募集要項を書く主体が行政でないという点が、この市の数字をつくっている。西予市では旧小学校区を単位に27の地域づくり組織が設立されていて、どんな人を何のために呼ぶかは、この組織が決める。構成するのは行政職員ではなく、地域任用職員などの住民である。
段取りは年ごとの決まった流れになっている。9月ごろに地域側がミッションの素案をつくり、市のまちづくり推進課と3年間の継続性や定住の可能性を詰める。11月ごろに要項が完成して予算査定へ回り、1月半ばに市全体で一斉に募集が始まる。要項ができるまでに3か月ほどかかる計算で、呼ぶ側が自分の言葉で課題を書き直す時間がここに入っている。
着任したあとの日常の支援も地域づくり組織が担い、行政職員である地域づくり活動センターの主事が後ろから支える。市の担当課の役割は、研修情報の周知、報償費の支払い、活動報告会の準備と進行に寄っている。隊員が20人を超えているため定例会は開かず、支援団体を経由した月報と、年に1回の地域づくり組織との個別ヒアリングで状況を拾う形をとっている。募集の数が多い自治体ほど一人あたりの面倒見が薄くなりがちだが、見る人を地域側に分散させることで成り立たせている。
業務委託22人という雇い方が、生活の設計を変える
令和7年7月1日に活動していた23人の内訳は、個人事業主としての業務委託が22人、会計年度任用職員が1人である。ほぼ全員が業務委託という構成は、同じ制度を使う自治体のなかでも偏っているほうだ。呼び方は制度上の区分の話にとどまらず、着任した人の手取りと手続きを左右する。
業務委託であれば報償費は事業の収入として扱われ、確定申告は自分で行い、健康保険や年金も自分で組む。一方で活動時間の使い方に裁量が生まれ、任期中に自分の屋号で仕事を始める助走がとりやすい。会計年度任用職員なら給与と社会保険の扱いが整うかわりに、勤務時間と兼業の線引きが行政の規律に沿う。募集要項のどちらに当たるかを読み落とすと、着任後の収支の見通しが丸ごとずれる。
公費の裏づけも確かめておきたい。令和7年度の特別交付税措置は、隊員の活動に要する経費が1人あたり550万円を上限とし、うち報償費等が350万円、その他の活動経費が200万円という内訳になっている。ほかに募集等の経費が1団体350万円まで、日々のサポートに要する経費が1団体200万円まで、任期2年目から任期終了の翌年までの起業に1人100万円までの枠がある。上限であって支給額ではないため、実際にいくら受け取れるかは要項の報償費の欄で見るほかない。
50代が6人という年齢の散らばり
全国の年齢構成を見ると、令和7年度は20代が33.6パーセント、30代が30.1パーセントで、両方を合わせて6割を超える。40代が20.1パーセント、50代は11.5パーセント、60歳以上は4.4パーセントにとどまる。男女比は男性59.7パーセント、女性40.3パーセントである。
西予市は今年度の隊員のうち6人が50代で、全国の比率から見れば厚い。市が50代以上を優先して採っているわけではなく、年齢より人柄と意欲と実行力を見て選んでいると説明されている。結果として50代が集まるのは、要項を書いているのが地域の側だからだと読める。一次産業の支援や獣害対策のように、段取りを自分で組める人が要る仕事では、年齢の若さが条件に上がりにくい。
学生の立場からは、ここは応募先ではなく観察先として役に立つ。栗や柑橘の農家支援、獣害対策、農業振興といったミッションの名前は、その地区がいま誰の手を欲しがっているかの一覧になっている。市は移住フェアや移住マッチング事業、短期で試せる「おためし地域おこし協力隊」も移住定住交流センターに委託して走らせており、在学中に現地を一度見る経路は用意されている。就職の選択肢を広げる前段として、こうした地域の受け入れ方を知っておく価値は小さくない。学生の活動と地域をつなぐ取り組みはFLASPOでも扱っている領域である。
定住率は市内53.8パーセント、県内まで広げて63.4パーセント
協力隊の成果は、任期が終わったあとに残るかどうかで測られることが多い。総務省の令和7年度調査では、令和2年度から6年度に任期を終えた8,762人のうち6,163人、70.3パーセントが同じ地域に定住している。愛媛県に限ると任期終了者193人に対して定住は130人で67.4パーセントとなる。
西予市の数字は、市内に残った人が53.8パーセント、県内まで範囲を広げると63.4パーセントである。全国平均と比べて低く見えるが、同じ地域という言葉の範囲が調査と市の集計で違うため、並べて優劣をつけるのは筋が悪い。総務省の全国値には活動した市町村の近隣に移った人も入っていて、その分だけ数字が上がる。
そのうえで平成22年度からの累計受入が75人(令和7年9月1日時点)という厚みを見ておきたい。15年で75人を受け入れ、いまも30人規模が動いているなら、地域の側には隊員と仕事をした経験が積み上がっている。任期後の支援として、市は起業や事業承継の補助金の活用を促し、県の起業研修も案内している。残るかどうかを本人の意思だけに任せず、出口の制度を並べて見せる運用になっている。
よくある質問
西予市の協力隊は、市役所に応募するのですか。
窓口と報償費の支払いは市ですが、募集要項をつくり、着任後の日常を支えるのは27ある地域づくり組織です。要項に書かれた活動の中身は、その地区が自分たちで決めた課題なので、応募前に地区の名前と内容を照らし合わせて読むことをすすめます。
業務委託と会計年度任用職員では、どちらが有利ですか。
有利不利ではなく設計が違います。業務委託は時間の裁量と任期中の独立の助走がとりやすく、社会保険と確定申告を自分で持ちます。会計年度任用職員は給与と保険の扱いが整うかわりに、勤務時間と兼業の扱いが行政の規律に沿います。
30人という人数は多すぎませんか。
一人の担当職員が30人を見るなら無理がありますが、西予市は支援を地域側に分散させ、定例会ではなく月報と年1回のヒアリングで状況を拾う運用に切り替えています。人数の多さそのものより、支える主体が何人いるかで読むほうが実態に近づきます。
在学中に関われる入口はありますか。
短期で試せる「おためし地域おこし協力隊」や移住マッチング事業が動いています。全国では令和7年度のおためし参加者が1,450人、インターン参加者が1,414人まで増えており、任期3年を決める前に現地を見る経路は制度の側にも用意されています。
出典:総務省「令和7年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」(PDF)、総務省 地域おこし協力隊ナビ「50代はまだ若手 愛媛県西予市に学ぶミドル世代協力隊の活躍と受け入れ術」、総務省「地域おこし協力隊について」。関連記事:高齢化率46.5%の尾鷲市に協力隊28人、協力隊の増加は286人に落ちた、任期を終えた協力隊の23%はどこへ行ったか。
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