同じ6年目で、収入が10倍離れている
起業の話で最初に知りたいのは平均値ではなく、うまくいった人といかなかった人がどこまで離れるかだろう。農林水産省経営局就農・女性課の新規就農をめぐる現状と課題(令和7年8月1日)に、その分布が載っている。
対象は平成24年度から平成30年度に青年就農給付金を受けた人で、経営を始めて6年目の収入を見ている。上位3割は約1,900万円、下位3割は約190万円。同じ年数を同じ制度の下で走って、売上が10倍の幅に開いている。
この幅は、一次産業の起業が「軌道に乗るか乗らないか」で二つに割れることを示している。平均を出すと600万円前後の数字になるが、その平均に近い人が多数派だという保証はどこにもない。6年という長さも効いている。1年目の赤字は織り込み済みでも、6年目でまだ190万円なら、生計の組み方そのものを変える必要が出てくる。
受け皿の側の事情も見ておきたい。同じ資料によれば、令和6年2月1日現在の基幹的農業従事者は111.4万人で、65歳以上が71.7%の79.9万人、49歳以下は11.2%の12.5万人。経営主の平均年齢は69.0歳である。参入する人が少ないから困るのではなく、辞めていく人の規模が大きいから入口の数が追いつかない、という構図になっている。
一次産業で起業にあたるのは、年に3,360人
では入口は何人なのか。令和7年新規就農者調査結果(令和8年8月25日公表)では、令和7年の新規就農者は4万2,850人。内訳は新規自営農業就農者が2万9,240人、新規雇用就農者が1万250人、新規参入者が3,360人である。
このうち起業に近いのは新規参入者だけだ。定義は、土地や資金を独自に調達して新たに農業経営を開始した経営の責任者および共同経営者で、相続や贈与で親の農地を譲り受けた場合は除かれる。親元に戻る形や、農業法人に雇われる形とは、負うリスクの種類が違う。
その3,360人は前年の3,750人から10.4%減った。49歳以下は2,300人で、こちらも10.2%の減少である。全体の新規就農者が1.5%減にとどまったなかで、自力で始める層だけが二桁で落ちている。資材価格や初期投資の重さが、雇われる形より先に独立の形を削っている可能性がある。
何を作って始めるかは偏っている。部門別に並べると次のようになる。
| 部門 | 令和6年 | 令和7年 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 露地野菜作 | 1,150人 | 1,050人 | 8.7%減 |
| 果樹作 | 910人 | 810人 | 11.0%減 |
| 稲作 | 530人 | 540人 | 1.9%増 |
| 施設野菜作 | 590人 | 480人 | 18.6%減 |
| 畑作 | 210人 | 220人 | 4.8%増 |
| 花き作 | 150人 | 100人 | 33.3%減 |
露地野菜作と果樹作で全体の55.4%を占める。土地と設備の初期費用が比較的軽く、少量多品目でも売り先を作れる作目に集まっていると読める。逆に施設野菜作の18.6%減は、建てる費用が効く部門から人が引いた形だ。
共同で始める形が、1年で4割近く細った
同じ調査には、もう一つ見落としにくい動きがある。新規参入者を経営の責任者と共同経営者に分けると、令和7年は責任者が3,100人、共同経営者が260人。前年の共同経営者は420人だったので、38.1%の減少になる。構成比では11.2%から7.7%へ下がった。
責任者の側は6.9%減にとどまっている。つまり全体の落ち込みの多くが、二人以上で立ち上げる形の縮小から来ている。夫婦で就農する、仲間と法人を作るといった組み方が、1年で4割近く減った計算だ。
背景を数字だけから断定はできないが、共同経営は一人あたりの初期負担を割れる代わりに、収入が立つまで複数世帯の生活費を支える必要がある。6年目で190万円という下位3割の水準を思い出すと、その期間を二世帯でしのぐ難しさは想像がつく。
男女別では男性2,720人、女性640人で、女性の構成比は20.3%から19.0%へ下がっている。共同経営の減少と女性比率の低下は、同じ現象の裏表かもしれない。地域に移って始める人の動機や進路の実際は一次産業のやりがいを数字で読んだ記事も合わせて見ると立体的になる。
制度に乗っている経営体は10,902、入口は年3,360人
起業として扱われるかどうかは、制度の認定で分かれる。農業経営基盤強化促進法に基づき、有効期間5年の青年等就農計画を作って市町村の認定を受けた人を認定新規就農者と呼ぶ。認定新規就農者の認定状況(令和7年4月18日公表)によれば、令和6年3月末で10,902経営体、前年から96経営体の増加である。
内訳は49歳以下が9,225人で119人増、原則45歳未満の青年が8,589人で91人増。計画の有効期間が5年なので、この10,902は直近5年ぶんの在庫に近い。年3,360人という入口と突き合わせると、認定まで進む人は入口の全員ではないことがわかる。
認定に乗ると金額が動く。就農準備資金は研修期間中に年間最大150万円を最長2年、経営開始資金は新たに経営を始める人に年間最大150万円を最長3年。機械や施設の導入には国の補助上限500万円が、経営移譲を伴う世代交代円滑化タイプでは600万円が置かれている。雇われる形で入る人を正規雇用した農業法人側にも、年間最大60万円が最長4年交付される。
合計すると、準備から経営開始までで最大750万円の交付に補助500万円が重なる設計だ。6年目に190万円の層がいる現実を前にすると、この制度は「黒字になるまでの時間を買う」ための仕組みだと見たほうが実態に近い。移住を伴う場合の資金と定着の関係は農業で移住する人の移住先選びで整理している。
二本目の柱は、加工と直売に寄っている
売上の幅を埋める道として、作って売るだけで終わらせない選択がある。農林水産省の6次産業化の動向では、令和6年度の農業生産関連事業の販売金額は2兆2,244億円。令和2年度の2兆329億円から4年で1,915億円増えた。
内訳は農産物直売所が1兆1,344億円、農産加工が1兆61億円で、この二つで2兆1,405億円を占める。残りの839億円が観光農園、農家民宿、農家レストランの合計になる。つまり六次化という言葉で語られる市場は、実態としては売り場と加工場の二本に集中している。
起業する側から見ると、この偏りは機会の在りかを示している。観光や飲食をくっつけた形は件数が多くても金額が小さく、立ち上げの労力に対して戻りが薄い。一方で直売と加工は市場が大きいぶん、既存の売り場に棚を借りられるかどうかが分かれ目になる。地域の商社や中間支援と組む選択肢もあり、地域と若者をつなぐ企画を手がけるFLASPOのような外部の担い手と組む形も実際にある。
売り場の規模をどう読むかは直売所という入口を扱った記事に詳しい。ここで押さえておきたいのは、二本目の柱を作るかどうかが6年目の分布のどちら側に立つかに関わる、という順序である。
よくある質問
一次産業で起業するのに、農家の家に生まれていないと不利ですか。
雇われる形で入る人については、むしろ非農家出身が多数派である。経営局の資料によれば、2023年の新規雇用就農者9,300人のうち非農家出身は87%の8,100人、農家出身は13%の1,200人だった。49歳以下も74%の6,880人を占める。農業法人で数年働いて技術と販路を見てから独立する経路が、実際に使われている。
始めるのにいくら必要ですか。
必要額は作目と規模で大きく変わるため、一つの数字で言える性質のものではない。手がかりになるのは制度側の上限で、機械や施設の導入補助が国の上限500万円に置かれていることから、その規模の設備投資が想定されていると読める。先に挙げた部門別の偏りも、投資額の軽重を映している。
どの作目を選ぶべきですか。
令和5年新規就農者調査の組替集計では、新規参入者の就農時の中心作目は野菜が50%、果樹が21%、稲作が12%、畑作が8%で、花き・花木と畜産がそれぞれ3%だった。園芸作物に7割が集まる形で、稲作と畑作は2割にとどまる。年齢構成も作目で違い、稲作では50歳以上が84%を占める一方、野菜は49歳以下が38%、畜産は44%を占めている。
認定新規就農者にならなくても始められますか。
始めること自体は可能で、年3,360人の新規参入者と10,902経営体の認定数の差は、認定を経ない形も存在することを示している。ただし就農準備資金や経営開始資金、機械・施設の補助は計画の認定とひもづいているため、資金を使うなら市町村への計画提出が前提になる。
6年目に下位3割だった場合、立て直せますか。
公表資料は分布を示すだけで、その後の推移は追っていない。言えるのは、約190万円という水準は農業以外の収入か世帯内の支え手を前提にしないと生計が成り立ちにくいことだ。規模を広げる、加工や直売で単価を取る、労働力を確保するのいずれかに手を打つ必要があり、どれも数年単位の話になる。6年目の数字を見てから考えるのでは遅い、というのがこの分布の読み方である。
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