銀行の創業支援は、銀行の中だけで決まっていない
地元で起業したいと思ったとき、最初に思い浮かぶのは地方銀行や信用金庫の窓口だろう。ところが銀行が地域の創業にどう関わるかは、その銀行の方針だけで決まっていない。産業競争力強化法という法律が、市区町村を主役に置いた枠を用意しているからである。
その枠では、市区町村が民間の創業支援等事業者と連携して「創業支援等事業計画」を作り、国が認定する。連携相手として法律が名前を挙げているのが、地域金融機関、NPO法人、商工会議所・商工会などだ。計画の期間は最長5年で、認定は経済産業省と総務省、関係各省が共同で行う。農林水産業に関わる計画であれば、関東農政局のように農政局長が共同認定に加わる形になる。
規模はすでに小さくない。中小企業庁が令和8年6月25日現在で公表している累計は1,414件で、47都道府県の1,580市区町村が認定を受けている。令和8年6月25日の第17回認定では、農林水産省に関連する計画として関東農政局が共同認定した分だけでも、新規が長野県小谷村の1件、変更が30件・32市区町村にのぼった。制度は平成30年7月9日施行の改正産業競争力強化法で「創業支援等事業計画」という名称になり、現在も毎年更新が続いている。
認定された計画の中で、銀行は何をするのか
計画に書き込まれる取組は、融資そのものではない。法律が想定しているのは、ワンストップ相談窓口の設置、創業セミナーの開催、起業家教育事業、そして創業機運の醸成である。資金を出す前の段階、つまり相談と学びの場を地域に用意する役割が、銀行や商工会議所に割り振られている。
このうち、経営や財務、人材育成、販路開拓の知識習得を目的として継続的に行われるものは「特定創業支援等事業」として別に位置づけられる。受けた側には具体的な効果がついてくる。
| 区分 | 対象 | 得られるもの |
|---|---|---|
| 認定を受けた創業支援等事業者 | 一般社団法人・一般財団法人・NPO法人 | 融資の際の信用保証枠の拡大等 |
| 特定創業支援等事業を受けた創業者 | 個人・これから創業する人 | 登録免許税の軽減措置 |
| 同上 | 同上 | 日本政策金融公庫の新創業融資制度における自己資金要件の撤廃 |
信用保証枠の拡大が使えるのは法人形態が限られており、地域金融機関そのものがこの優遇を受けるわけではない点は読み落としやすい。銀行にとっての実益は、計画に入ることで市区町村の相談窓口と地続きになり、創業前の段階から相手を知れることにある。公庫の創業融資の条件と見比べると、自己資金要件の撤廃がどれだけ重い特例かが分かる。
金融庁は創業の件数を共通の指標に置いた
もうひとつの枠は監督側にある。金融庁は平成28年9月に金融仲介機能のベンチマークを公表し、金融機関が自らの取組を数で示す物差しを並べた。ここで創業は、数えるべき対象として明示されている。
| 区分 | 番号 | 指標 |
|---|---|---|
| 共通ベンチマーク(全5項目) | 3 | 金融機関が関与した創業、第二創業の件数 |
| 選択ベンチマーク(全50項目) | 16 | 創業支援先数(支援内容別) |
| 選択ベンチマーク | 20 | ファンド(創業・事業再生・地域活性化等)の活用件数 |
| 選択ベンチマーク | 44 | 本業支援に関連する他の金融機関、政府系金融機関との提携・連携先数 |
共通ベンチマークはわずか5項目しかなく、そのうちの1つが創業と第二創業の件数である。経営改善が見られた取引先数や事業性評価に基づく融資の割合と並ぶ扱いで、創業支援は余技ではなく本業の評価軸に置かれた。選択ベンチマーク50項目のほうは、支援内容別の内訳や外部との連携まで細かく分かれている。
つまり同じ「創業支援」という言葉が、自治体の認定計画では取組の種類として、金融庁のベンチマークでは件数として数えられている。銀行がどちらの枠でどう名乗っているかを見ると、看板と実務のずれが見えてくる。
学生や若手が実際に当たる窓口はどこか
在学中や卒業直後に地元で何かを始めたい場合、支店の融資担当に飛び込むより先に確かめたいのは、その市区町村が認定計画を持っているかどうかである。認定があれば、ワンストップ相談窓口と創業セミナーが制度として置かれているため、入口が一本化されている。1,580市区町村という広がりは、多くの地域で窓口が用意されていることを意味する。
そのうえで、登録免許税の軽減や公庫の自己資金要件の撤廃を使うには、特定創業支援等事業を受けたという市区町村の証明が必要になる。相談に行く順番を間違えると、本来使えた特例を逃す。資金の相談が先に立ちがちだが、制度の側から見れば学びの場に入ることが起点として設計されている。
地域の金融機関を就職先として見る場合も、この二つの枠は手がかりになる。自分が受ける銀行が自治体の認定計画に名を連ねているか、ベンチマークの創業関連の項目を開示しているかは、地域貢献の実態を測る材料になる。地方銀行の就活で比べるべき開示項目と合わせて読むと、面接で聞くべきことが絞れる。学生起業の全体像は大学発ベンチャーの分布に整理があり、地域での起業という選択肢を広く見るにはFLASPOも参考になる。
この数字が答えていないこと
注意しておきたいのは、1,414件という数が計画の数であって、支援を受けた人の数ではないという点である。認定は市区町村が体制を整えたことの証明にすぎず、年間に何件の創業が生まれたかは、この数字からは分からない。
金融庁のベンチマークも、全国の集計値が定期的に公表される仕組みにはなっていない。共通ベンチマークは各金融機関が自ら開示する前提で、選択ベンチマークに至っては名前のとおり選んで使うものだから、どの項目をどこまで出すかは行ごとに違う。個別の開示資料に当たると、関与した第二創業の件数が年度によって0件と記載されている例もある。横に並べて優劣を論じられる形には、まだ整っていない。
それでも、二つの枠があること自体は使える情報である。自治体側には認定計画という書面があり、金融機関側にはベンチマークという物差しがある。どちらも公開を前提とした制度なので、地域の創業支援が看板だけなのか中身があるのかを、外から確かめる手段は残されている。
よくある質問
創業支援等事業計画の認定を受けている市区町村かどうかは、どこで確認できますか。中小企業庁が市区町村別の認定計画の概要を一覧で公開しています。都道府県単位でまとめられているため、自分の出身地や進学先の自治体が入っているかを確かめられます。
特定創業支援等事業は、誰でも受けられるのでしょうか。制度上は創業を予定している人や創業後間もない人が対象で、学生であっても排除されていません。ただし実施している内容と対象の範囲は市区町村ごとに異なるため、窓口で確認が必要です。
地方銀行に相談するのと、商工会議所に相談するのは何が違いますか。認定計画の枠では、どちらも創業支援等事業者として並び立つ立場です。実務では資金の相談が銀行、事業計画の作り方や各種手続が商工会議所に寄る傾向がありますが、計画上は役割を分担した一体の体制として位置づけられています。
信用保証枠の拡大は、自分が受けられる支援ですか。これは認定を受けた創業支援等事業者のうち、一般社団法人・一般財団法人・NPO法人が活用できる支援策です。創業者本人への直接の優遇ではないため、混同しないよう気をつけてください。
銀行が関与した創業の件数を比べれば、支援の熱心さが分かるのでしょうか。単純には比べられません。共通ベンチマークの項目ではあるものの、開示の形式や集計範囲が各行に委ねられており、営業地域の人口規模によっても数は左右されます。件数だけでなく、認定計画への参加や支援内容別の内訳と併せて見る必要があります。
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