「地域に貢献する大学」という言い方は、三つの別のものを指している
地域と大学の話を聞くと、ゼミの調査、商店街のイベント、自治体との共同研究といった具体例がまず出てくる。どれも実際に起きていることなので間違いではないが、個別の活動を並べただけでは、なぜそれが続いているのかが見えない。続いている理由は、その上に法律と交付金と事業という三つの層が積まれているからである。
層が違えば、決めている人も時間の単位も違う。法律は十年単位で定員の置き場所を動かし、交付金は数年単位で自治体の計画に国費を入れ、事業は年度単位で学生を地域に運ぶ。自分の目の前にあるプログラムがどの層から降りてきたのかがわかると、来年も同じ形で存在するのかどうかの見通しが立つ。
| 層 | 名前 | 決めていること |
|---|---|---|
| 法律 | 地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律 | 学生の定員をどこに置くか。東京23区の収容定員の増加抑制を含む |
| 交付金 | 地方大学・地域産業創生交付金 | 自治体が出した計画のうち、どれに国費を入れるか |
| 事業 | ふるさとミライカレッジ、国内留学、大学間連携など | 学生が実際に地域へ動く経路をどうつくるか |
以下はこの三層を下から順に開いていく。先に全体像を言ってしまうと、法律は入口の広さを決め、交付金は地域ごとの濃淡をつくり、事業は個人が使える窓口になる。学生が直接触れるのは三つ目だが、三つ目が細いか太いかは上の二つで決まっている。
一層目で争われているのは、学生の定員をどこに置くかである
根拠になっているのは、平成30年法律第37号という番号を持つ法律だ。名前が長く、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」と続く。短く地方大学・産業創生法と呼ばれることが多い。条文そのものはe-Govの条文で読める。
この法律で最も議論になったのは、東京23区内の大学の収容定員を増やさないという措置である。地方に大学を増やすのではなく、東京側で受け入れる枠を広げないという方向から入った。期限付きの措置として置かれており、地方創生2.0基本構想は、法の附則に基づいて2027年度末までに検討を行い、必要な措置を講ずると書いている。つまり、この入口の広さは近いうちにもう一度決め直される。
定員の話が大学の役割の話になるのは、進学が人の移動とほぼ同じ意味を持つからである。どの県にどれだけ学生の席があるかは、都道府県別の大学で見たとおり大きく偏っている。席の配置を動かせば十八歳の移動先が変わり、その四年後の就職先の分布も変わる。法律がこの層を触りたがるのは、効き方が遅い代わりに広いからだ。
二層目の交付金は、計画に国費を入れるかどうかを選んでいる
同じ法律の下に置かれているのが地方大学・地域産業創生交付金である。内閣官房・内閣府の交付金のページによれば、自治体が地域の産官学で組み立てた実施計画を出し、評価委員会が書面と現地と面接で評価し、採択された計画が法に基づく認定を受ける。大学に直接配るのではなく、自治体の計画を通して配る形になっている点が特徴である。
どこが選ばれてきたかは公開されている。同じページに載っている採択自治体の資料から年度ごとに並べると、地域の偏りと空白の年が見えてくる。
| 採択年度 | 自治体 |
|---|---|
| 平成30年度 | 岐阜県、島根県、広島県、徳島県、高知県、富山県、北九州市 |
| 令和元年度 | 秋田県、神戸市 |
| 令和3年度 | 函館市 |
| 令和4年度 | 石川県、熊本県 |
| 令和6年度 | 北海道・札幌市・千歳市、鶴岡市、福島県、新潟市、静岡市・静岡県 |
| 令和7年度 | 帯広市、今治市・愛媛県 |
| 令和8年度 | 山口県 |
平成30年度の七件に対して、令和2年度と令和5年度は一覧に名前が出てこない。毎年均等に配られる仕組みではなく、計画が出てきた年に採択されるという運用になっている。自分が通う大学のある県がこの表にいるかどうかで、産学官連携の枠が制度として張られているのか、現場の努力で持っているのかが分かれる。
選ばれた側が何を書いているかというと、中核になる産業と、それを支える専門人材の育成を十年規模で結びつけた計画である。大学の学部再編が計画に含まれることもある。研究費の配分ではなく地域産業の設計図に近いので、学生から見ると関係が薄そうに見えるが、新しい講座や長期インターンの枠がここから生まれることがある。
三層目の事業が、学生が実際に通れる道になっている
政策文書のなかで学生の名前が直接出てくるのは三層目である。基本構想は「地方における高等教育の充実」という項目を立て、地域の産学官連携による地方大学の創出、デジタル分野を含む専門人材の育成、国内留学の促進を含む大学間連携の強化を並べている。あわせて、大学等を核とした地域の産学官金の連携基盤の整備と、地方私立大学の取組に応じた重点的な支援、高等専門学校の地域ニーズに即した改組への支援も書き込まれている。
具体的な名前がついた事業もある。同じ構想の「若者や女性の地域交流の促進」には、大学等と地域が連携して学生のフィールドワークを受け入れる「ふるさとミライカレッジ」が挙がっている。小中高生を対象にした「地域留学」や、都市部の若者が地域で働きながら暮らしを体験する「ふるさとワーキングホリデー」も同じ並びにある。年代の切れ目なく地方への人の流れをつくる、という言い方で束ねられている。
出口の側も書かれている。地方移住の促進の項目では、若者の地方への流れを強めるために、大学生や大学院生の地方就職への支援を関係府省庁が連携して進めるとされている。入口が進学、出口が就職で、そのあいだに置かれているのが大学の役割ということになる。単位の扱いまで含めた入り方は大学の地域連携PBLで整理した。
なぜ大学が地方創生の話に毎回出てくるのか
理由は人口の動き方にある。内閣府が2017年に示した試算では、東京圏への転入超過約12万人のうち、高校卒業時や大学進学時、大学卒業後の就職時が多いと見られる15歳から24歳の層が約10万人を占めていた。大学進学時の東京圏への転入超過は毎年度およそ7万人という数字も置かれている。移動の山が十八歳と二十二歳に集まっているため、そこに関わる機関を外して対策が立てられない。
国土交通省の資料も、若者が東京に流入する一因として大学の学校数や学生の東京圏への偏在を挙げている。ただし、この診断から導かれる処方には異論もある。大和総研は、東京23区の定員抑制も地元大学への進学率の引き上げも、転出入を均衡させる策としては効果が疑わしいと論じている。地方に残る理由をつくらずに出口をふさいでも、動きが変わるとは限らないという指摘である。
この対立は、三層のどこを触るかという選択に対応している。定員は法律で動かせるが、残る理由は交付金と事業の側でしか作れない。基本構想が若者に選ばれる地域づくりを一本目の柱に置いたのは、後者に重心を移したという意思表示とも読める。地域と学生の接点を追いかけているFLASPOの視点から見ると、この十年で変わったのは制度の数ではなく、学生を数として数えるか担い手として数えるかという扱い方のほうである。
よくある質問(FAQ)
自分の大学が制度の対象かどうかはどう調べればよいか。まず県や市が交付金の採択を受けているかを交付金のページで確かめ、次に大学の地域連携センターや産学連携部門の事業一覧を見るのが早い。採択の有無で、学外の資金が入った枠があるかどうかの見当がつく。
国立と私立で役割は違うのか。文書の上では書き分けられている。基本構想は、地域に不可欠な人材育成機能の強化という文脈で地方私立大学の取組への重点的な支援に触れており、エッセンシャルワーカーや地域経済の担い手の輩出がその例として挙がっている。研究拠点の整備では国立大学や大学共同利用機関の名前が出てくる。
高専や短大は入らないのか。入っている。基本構想は大学、短期大学、高等専門学校、専門学校、養成校を並べて人材の養成に触れており、高専については地域ニーズに即した改組や新設への支援も書かれている。四年制大学だけの話として読むと範囲を狭くとりすぎる。
学生の立場で最初に動くならどこからか。制度の全体像を先に覚える必要はない。学内で単位になる地域活動の一覧を取り、そのうち外部の資金や自治体が関わっているものに印をつけると、三層のどこから来た枠かが自然に分かれる。関わり方の型を整理した大学生が地域活性化でできることを横に置くと、自分が向いている入口の見当もつけやすい。
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