冬の寒さに耐えられるだろうか、雪かきは自分にできるのか。移住の相談で気候の話になったとき、手元の材料は旅行で訪れた記憶か、県名から受ける印象であることが多い。気象庁は1991年から2020年までの30年間を平均した平年値を観測点ごとに公開していて、気温も雪も日照も同じ目盛りで並べられる。県庁所在地などの15地点を使って、候補地の気候を数字で見分ける手順をたどる。
差は年平均気温で14度、ただし暮らしに出るのは最低気温
気象庁の平年値で年平均気温を比べると、那覇の23.3度と札幌の9.2度で14.1度の開きがある。この幅は日本の南北の長さがそのまま出た値である。
ところが日々の体感に近いのは、日最低気温を1年平均した値のほうである。那覇は21.1度で、冬でも気温が二桁を下回りにくい。札幌は5.7度、長野は7.9度、秋田は8.5度と続き、朝の冷え込みが長く居座る土地だとわかる。興味深いのは甲府で、年平均気温は15.1度と東京の15.8度に近いのに、日最低気温は10.4度まで下がる。一方で日最高気温の年平均は21.0度あり、東京の20.3度を上回る。盆地の内陸は夏と冬、昼と夜の振れ幅が大きく、年平均という一つの数字では隠れてしまう。暖かい土地を探しているなら年平均気温の順位ではなく、日最低気温の列を先に見たほうが外れが少ない。下の表は15地点を年平均気温の高い順に並べたものである。
| 観測点 | 年平均気温(度) | 日最低気温の年平均(度) | 年間日照時間(時間) | 年降雪量(センチ) | 最深積雪(センチ) |
|---|---|---|---|---|---|
| 那覇(沖縄県) | 23.3 | 21.1 | 1,727.1 | 0 | — |
| 鹿児島(鹿児島県) | 18.8 | 15.2 | 1,942.1 | 2 | 3 |
| 宮崎(宮崎県) | 17.7 | 13.6 | 2,121.7 | 0 | 0 |
| 高知(高知県) | 17.3 | 13.1 | 2,159.7 | 1 | 1 |
| 福岡(福岡県) | 17.3 | 14.0 | 1,889.4 | 2 | 2 |
| 静岡(静岡県) | 16.9 | 12.9 | 2,151.5 | 0 | 0 |
| 東京(東京都) | 15.8 | 12.1 | 1,926.7 | 8 | 6 |
| 岡山(岡山県) | 15.8 | 11.4 | 2,033.7 | 1 | 1 |
| 甲府(山梨県) | 15.1 | 10.4 | 2,225.8 | 23 | 15 |
| 金沢(石川県) | 15.0 | 11.5 | 1,714.1 | 157 | 32 |
| 富山(富山県) | 14.5 | 10.7 | 1,647.2 | 253 | 51 |
| 新潟(新潟県) | 13.9 | 10.5 | 1,639.6 | 139 | 32 |
| 長野(長野県) | 12.3 | 7.9 | 1,969.9 | 163 | 33 |
| 秋田(秋田県) | 12.1 | 8.5 | 1,527.4 | 273 | 37 |
| 札幌(北海道) | 9.2 | 5.7 | 1,718.0 | 479 | 97 |
雪は積もった量と深さを分けて数える
雪の多さをひとつの数字で言い表すことはできない。気象庁は年降雪量と最深積雪を別に集計していて、前者はその年に降った雪の深さの合計、後者はいちばん深く積もった日の値である。
札幌の年降雪量は479センチ、最深積雪は97センチ、雪の降った日数は134.5日ある。降る日が年の3分の1を超え、除雪は冬の生活の一部になる。秋田は273センチと37センチ、富山は253センチと51センチ、長野は163センチと33センチ、金沢は157センチと32センチと並ぶ。注意したいのは新潟で、139センチと32センチにとどまり、富山市の半分ほどしか降らない。雪国として名の挙がる県でも、県庁所在地の市街地と山沿いでは別の数字になる。甲府は23センチと15センチ、東京は8センチと6センチ、静岡は0センチで雪の降る日が年4.1日という水準である。毎日の手間を知りたいなら降雪量と雪日数、家や車の備えを決めたいなら最深積雪を見ることになる。
制度の上で雪国とされる地域は、国土の半分を占める
気象の数字とは別に、行政には雪国の線引きがある。豪雪地帯対策特別措置法に基づく指定で、国土交通省が令和7年2月にまとめた豪雪地帯対策の実施状況に指定の規模が載っている。
令和6年4月1日現在、豪雪地帯は532市町村で、全国1,719市町村の30.9パーセントに当たる。面積では19万1,990平方キロメートルと国土の50.8パーセントを占める一方、人口は1,824万8千人で全国の14.5パーセントにとどまる。さらに積雪の厳しい特別豪雪地帯は201市町村で、市町村数の11.7パーセント、面積の19.8パーセント、人口では2.2パーセントである。地方別の市町村数は北海道が179、東北が161、北陸が81、中国が41、中部が34、近畿が19、関東が17で、かっこ内の特別豪雪地帯はそれぞれ86と69と30と0と14と1と1になる。国土の半分が雪の地域で、そこに住む人は7人に1人という偏りが、移住先を選ぶときの情報量の差にもつながっている。指定区域に入っていれば除雪や雪対策に財政措置が働くので、候補地が線の内側か外側かは、備えと支援の両方を左右する。
日照時間は暖かさとは別の軸で動いている
南に行けば日当たりがよくなるとは限らない。15地点で年間日照時間が最も長いのは甲府の2,225.8時間で、高知の2,159.7時間、静岡の2,151.5時間、宮崎の2,121.7時間が続く。
最も短いのは秋田の1,527.4時間で、甲府との差は698.4時間ある。1日あたりにすると2時間近い違いになる。日本海側の金沢が1,714.1時間、富山が1,647.2時間、新潟が1,639.6時間と下位に並ぶのは、冬に雪雲が居座る地域の特徴である。意外なのは那覇の1,727.1時間で、札幌の1,718.0時間とほぼ変わらない。亜熱帯の気候でも雨と雲が多ければ日照は伸びないという、暖かさと日当たりが別物であることの実例になる。内陸の長野は1,969.9時間で、気温は低いのに日照は東京の1,926.7時間を上回る。洗濯物の乾きや太陽光発電の見込み、冬の気分の落ち込みまで考えるなら、気温と日照は別々に確かめるのが筋である。
気候は光熱費という形で家計に戻ってくる
寒い土地の暮らしは暖房費になる。総務省統計局が令和8年9月18日に公表した2025年の消費者物価地域差指数で、光熱・水道の指数を都道府県別に見ると、全国平均を100として北海道が117.8で最も高い。
次いで岩手が112.2、青森が110.3、山形が109.7、島根が109.5と、寒冷地と日本海側が上位を占める。低いほうは大阪の90.6と東京の93.7で、北海道と大阪の間には約1.3倍の差がある。北海道は総合の指数が102.4で全国3位に入るが、全国平均との差を10費目に分けた寄与度を見ると、光熱・水道が1.61ポイントと最も大きく押し上げている。物価の安さで候補地を絞っても、暖房と給湯の費用で戻ってしまう場合があるということである。費目ごとの地域差を細かく見るなら、都道府県別の生活費を指数で読み解いた記事が参考になる。希望と実際の移住先がどこでずれているのかは、都道府県別の移住先ランキングを扱った記事にまとめてある。
よくある質問
平年値はいつの数字なのか。現行の平年値は1991年から2020年までの30年間の平均で、資料年数は30年である。観測点ごとに月別と年別の値が公開されているので、候補地の最寄りの地点を選んで確かめられる。観測が途切れた期間があると資料年数が30に届かない地点もある。
県庁所在地の値を県の代表として使ってよいのか。同じ県でも沿岸と内陸、平地と山間で気候は変わるため、県単位の判断は危うい。新潟市の年降雪量139センチと富山市の253センチが並ぶのは、県名の印象と観測点の実測が一致しない好例である。候補を市町村まで絞ったら、その近くの地点を見直したい。
雪が少なく、日当たりもよい土地はどこか。15地点では静岡と宮崎が年降雪量0センチで、年間日照時間も2,100時間を超えている。高知も降雪量1センチで日照は2,159.7時間ある。ただし静岡の年降水量は2,327.3ミリ、高知は2,666.4ミリと多く、雪ではなく雨の多い土地である点は押さえておきたい。
寒冷地に移るとき、何から準備すればよいか。住まいの断熱と暖房設備の確認が先に来る。光熱・水道の指数が高い地域ほど設備の差がそのまま費用に出るので、内見のときに窓の仕様と暖房の方式を聞いておくと見通しが立つ。除雪の担い手や雪捨て場の決まりは集落ごとに違うため、短期の滞在で冬を一度経験しておくのが確実である。地域との関わり方を試す入口を探すなら、FLASPOのような地域に参加する仕組みから始める手もある。
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