造成が終わった工業団地に、看板だけが立っている。進出企業の名前が入るはずの区画が、十年たっても草に覆われている。産業誘致が空回りした跡は全国に残っているが、担当者の努力が足りなかったという話で片づけると次も同じことが起きる。経済産業省が毎年出している工場立地動向調査を開くと、努力の前に市場の大きさが決まっていることが分かる。
全国で年854件。これを47都道府県で分け合っている
工場立地動向調査は、工場や研究所を建てる目的で1,000平方メートル以上の用地を取得した事業者を数える調査で、2025年5月30日に2024年分の結果が公表された。2024年の立地件数は854件、立地面積は1,982ヘクタール。前年と比べると件数は55件、6.9パーセント増え、面積は438ヘクタール、28.4パーセント増えている。
増えたとはいえ水準は低い。件数・面積ともピークはバブル景気期の1989年で、いまは件数も面積もピーク時の3分の1から4分の1程度にとどまる。近年の立地件数は800件前後で推移している。単純に47都道府県で割れば、一つの県が一年に迎えられる新規立地は平均18件ほど。市町村の単位まで下ろせば、数年に一度あるかどうかという頻度になる。誘致を担当する職員が何人いても、母数そのものがこの大きさなのである。
決め手は助成制度ではなく、本社との距離だった
企業は何を見て場所を決めているのか。調査は新設事業者に立地地点の選定理由を尋ねている。全国でもっとも多かったのは「本社・他の自社工場への近接性」で、次に多かったのが「地価」だった。既存の拠点から通える範囲にあるか、土地が安いか。この二つが上位に並ぶ。
この順序は、誘致策の設計を根本から揺らす。補助率を上げても、本社が300キロ先にある企業の順位は変わりにくい。実際、地域ブロック別に上位理由を見ると、10ブロックのうち9ブロックで本社・他の自社工場への近接性が挙がり、「地方自治体の誠意・積極性・迅速性」が上位に入ったのは東北経済産業局管内だけである。自治体の姿勢がまったく効かないわけではないが、効くのは条件が並んだ最後の一押しの場面だと読むほうが正確だ。地価や人材のような前提条件を外したところで、熱意だけが差を生む場面は多くない。
工業団地を造っても、そこに入るのは4件に1件
誘致の定番は工業団地の造成だが、調査はその前提も崩す。2024年に工場が工業団地内へ立地した割合は全国平均で26パーセント。4件のうち3件は団地外に建っている。前年までは団地内のほうが平均立地面積が大きい傾向だったが、2024年は団地外が団地内を上回った。大きな用地を求める企業が団地の枠に収まらなくなっている。
団地内立地の割合は地域によって大きく違う。
| 経済産業局管内 | 団地内立地割合 | 立地地点の選定理由(上位) |
|---|---|---|
| 北海道 | 64% | 本社・他の自社工場への近接性/工業団地である/市場への近接性 |
| 東北 | 53% | 本社・他の自社工場への近接性/地方自治体の誠意・積極性・迅速性/工業団地である |
| 中国 | 42% | 本社・他の自社工場への近接性/工業団地である |
| 九州 | 25% | 本社・他の自社工場への近接性/地価 |
| 北陸 | 22% | 本社・他の自社工場への近接性/人材・労働力の確保 |
| 近畿 | 22% | 本社・他の自社工場への近接性/地価 |
| 関東 | 21% | 本社・他の自社工場への近接性/地価 |
| 中部 | 19% | 本社・他の自社工場への近接性/人材・労働力の確保 |
| 四国 | 11% | 地価/本社・他の自社工場への近接性/人材・労働力の確保 |
| 沖縄 | 0% | 人材・労働力の確保/市場への近接性 |
団地内の割合が高いのは北海道と東北で、同時にこの二つは「工業団地である」ことが選定理由の上位に入る地域でもある。用地が限られる地域では団地が選ばれ、選択肢が多い地域では団地が迂回される。造れば入るという関係ではなく、他に適地がないかどうかで決まっている。
6割は県内の移転。外から呼べるパイはさらに小さい
もう一つ、誘致計画でよく見落とされる数字がある。県内立地、つまり本社が所在する都道府県内への工場立地が6割程度を占めるという点だ。854件のうち6割前後は、もともとその県に本社を置く企業が県内に建てた案件だということになる。県外から企業を引っ張ってくる取り合いの対象は、残りの4割、件数にすれば年間340件前後にすぎない。
しかもその動きには方向がある。調査は、工場の転出入が周辺地域へ移転する傾向が続いていると整理し、過去10年では東京と大阪からの転出が多いと指摘している。都心から周辺県への短距離移動が主流で、遠方の地方圏へ飛ぶ流れは細い。2024年の都道府県別では茨城県が73件で最多、次いで愛知県67件、岐阜県49件と続き、東京都は0件、佐賀県は1件、高知県と沖縄県は2件だった。地域経済の構造そのものは地域経済の現状を数字で読むでも扱っているが、工場の立地に関しては大都市の縁に寄る力がはっきり働いている。
インターチェンジから5キロ。勝負は用地の前に決まる
立地の条件をさらに具体的に見ると、交通インフラとの距離が効いている。調査によれば、立地件数の約半数が高速道路のインターチェンジから5キロメートル以内に収まっている。直近5年の各交通インフラとの平均距離の推移でも高速インターチェンジへの近接傾向がみられ、立地場所としてこの近さが重視されていることがうかがえると整理されている。
この条件は、ほとんどの自治体にとって短期間では変えられない。インターチェンジから遠い土地をいくら安く造成しても、半分の企業の検討対象から外れる。そこで問われるのは、誘致をやめるかどうかではなく、何を誘致と呼ぶかだ。大規模な製造拠点の取り合いに参加できない地域でも、研究所は2024年に全国で12件しかない一方、小規模な加工や物流、地域資源を使う事業なら土地の広さより人の有無が効く。人材・労働力の確保が選定理由の上位に入る地域が複数あることは、その余地を示している。地域で働く人や始める人をどう増やすかという問いに戻すなら、FLASPOのような地域と人の接点づくりのほうが、工業団地の造成より先に手が届く。地域ごとの打ち手の違いは地域の特性別に見る地方創生の事例も参考になる。
よくある質問
工場立地動向調査は何を数えている調査ですか
工場立地法に基づく調査で、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、研究所の施設を建てる目的で、その年の1月から12月までに1,000平方メートル以上の用地を取得または借地した事業者を集計している。2024年分は調査票送付1,415件のうち対象1,174件で、回収417件に行政が持つ情報による補完449件を加え、集計率は73.8パーセントだった。小規模な設備投資や既存建物への入居は対象外になる。
補助金や税の優遇はまったく無駄なのでしょうか
無駄ではないが、順番が逆になると効かない。選定理由の上位は本社や自社工場への近さと地価で、自治体の姿勢が上位に入ったのは1ブロックだけだった。候補地が数カ所に絞られたあとの比較では意思決定の速さや手続きの丁寧さが効く余地がある。一方、候補地にすら入っていない段階で優遇だけを厚くしても、検討の入口は開かない。
未分譲の工業団地を抱えている場合はどうすればよいですか
立地の実態から逆算して、想定する相手を変えるのが現実的だ。団地外への立地が4件に3件を占め、しかも2024年は団地外の平均面積が団地内を上回った。区画割りが企業の求める面積と合っていない可能性がある。インターチェンジからの距離、周辺の労働力、既存企業との距離という条件のうち、自分の団地がどれを満たしているのかを先に確かめたほうが、売り込み先の絞り方が変わる。
自分の県の立地件数はどこで調べられますか
経済産業省の工場立地動向調査の結果ページに都道府県別・業種別の個別表が公開されており、概要資料には経済産業局ごとの立地動向と選定理由も収録されている。各都道府県が独自に公表している企業立地動向の集計と突き合わせると、県内移転と県外からの進出の比率まで見えてくる。
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