ハコモノはなぜ失敗するのか|地方創生の施設整備が抱える構造

ハコモノはなぜ失敗するのか|地方創生の施設整備が抱える構造

体育館ができ、図書館ができ、交流施設ができる。開館の日は人が集まるのに、三年たつと駐車場に車が数台しか停まっていない。地方創生の失敗談でハコモノが挙がるとき、理由はたいてい「需要を読み違えた」の一言で片づけられる。ところが国の資料を開くと、読み違えよりも根の深いところに原因が見える。建てるときの財布と、建てたあとの財布が別だという構造である。

使われない建物は、誰かが一人で決めたわけではない

利用者のまばらな施設を前にして「これを建てたのは誰か」と問うと、話はそこで止まる。実際には一人の判断ではなく、市町村合併、国の補助制度、議会の合意といった事情が重なった結果であることが多い。合併を経た自治体では、同じ機能の施設が旧町村ごとに残る。総務省が各団体に公共施設等総合管理計画を求めた背景にも「市町村合併後の施設全体の最適化を図る必要性がある」ことが挙げられている。

つまり多くの事例は、建てすぎたというより、減らす決断が誰の担当でもなかったところから生じている。加えて計画段階の需要見込みは、人口が横ばいである前提で組まれやすい。総務省は同じ資料で「人口減少等により今後の公共施設等の利用需要が変化していく」と明記した。開館時点では適正だった規模が、十年後には過大になる。建物は三十年も四十年も残るのに、利用見込みの精度は数年先までしか効かない。このずれが、後から振り返ると失敗に見える施設を生んでいる。

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建設費は外から来るが、維持費はずっと自前である

ハコモノが止まらない理由を財政の側から見ると、構造がはっきりする。建設費は国の補助金や交付金、地方債によって大部分をまかなえる。これに対して開館後の光熱水費、人件費、修繕費、指定管理料は、原則として自治体の一般財源から出ていく。外からお金が来るのは建てる瞬間だけで、使っている間は毎年の持ち出しが続く。

この非対称があるかぎり、担当部署にとって「とりあえず建てる」は合理的な選択に見えてしまう。建設は今年度の自分の成果になり、維持費の負担は将来の誰かに回るからだ。総務省は現状を「過去に建設された公共施設等がこれから大量に更新時期を迎える一方で、地方公共団体の財政は依然として厳しい状況にある」と整理している。更新の波と財政の細りが同時に来ることが、すでに前提として語られている段階にある。地方創生の全体像をつかみたい場合は地方創生の現状と課題もあわせて読むと位置づけがわかりやすい。

国の制度は、すでに増やす側から減らす側へ寄っている

ハコモノ批判が過去のものになりつつある理由は、制度がもう切り替わっているからだ。公共施設等総合管理計画は原則として平成28年度までに全団体が策定を終えている。国はさらに令和5年度までに個別施設計画等を踏まえた見直しを要請し、令和7年3月31日時点で1,788団体のうち1,778団体、99.4パーセントが見直しを完了した。都道府県は47団体すべて、市区町村は1,741団体のうち1,731団体である。

財政措置の中身を見ると、国がどちらを向いているかはもっと明確になる。公共施設等適正管理推進事業債は令和7年度の事業費が5,000億円、事業期間は令和8年度までとされている。

対象事業 充当率 交付税措置率 主な要件
集約化・複合化 90% 50% 延床面積や維持管理経費等が減少する場合に限る
長寿命化 90% 30〜50% 法定耐用年数を超えて使用年数を延ばす事業
転用 90% 30〜50% 総合管理計画等への位置づけが必要
立地適正化 90% 30〜50% 同上
除却 90% 交付税措置なし 同上
総務省自治財政局財務調査課「公共施設マネジメントの推進」(令和7年9月25日)から作成。30〜50%は財政力に応じた幅

読みどころは要件の欄である。集約化・複合化に手厚い50パーセントが付く条件は、延床面積や維持管理経費が減ること。面積が増える整備には使えない。一方で単に壊すだけの除却には交付税措置が付かない。減らす方向のうち、次の使い道まで設計したものだけを国が後押しする形になっている。

難所は工事ではなく、住民の足と合意だった

壊すか建て替えるかという二択で考えているうちは出口が見えない。国土交通省は平成30年に所管分野の将来の維持管理・更新費を推計し、壊れてから直す事後保全から、傷む前に手を入れる予防保全へ転換すれば、今後30年間の累計で約3割を縮減できる見込みを示した。長く使うこと自体が、最も確実な節約になるという結論である。

それでも統廃合は進みにくい。総務省が令和7年度に新設した措置の中身は、その理由を正直に示している。複数団体による集約化等に向けた調査検討には措置上限500万円の特別交付税措置が、集約化の円滑化には完了年度を初年度として5年度間で合計5,000万円の措置が置かれた。後者の対象経費として並ぶのは、住民への広報や説明会の開催、集約元施設からの移転、利用者増を見込んだ備品の整備、集約後の施設まで住民が移動する費用の支援、施設利用料が異なることにともなう激変緩和である。設計や工事ではない。国は、統廃合の本当の難所が合意形成と住民の足であると認めたうえで、そこに金を付けた。施設の適正配置や合意形成のノウハウを助言する専門アドバイザーの派遣も、あわせて用意されている。

若い世代が現場に入るとき、見るべきは稼働率である

学生がまちづくりに関わると、たいてい新しい拠点をつくる話から始まる。空き店舗を借りる、交流スペースをつくる、イベントの会場を押さえる。意欲としては自然だが、ここまで見てきた構造を知っていれば、最初の問いを変えられる。すでにある施設の稼働率はどうなっているか。平日の昼に空いている部屋はないか。近くに同じ機能の建物が二つ残っていないか。新しく建てずに済ませた提案は、自治体にとって財政措置の要件とも噛み合うため、通りやすい提案にもなる。

もうひとつ現実的な視点がある。施設の失敗は開館から数年遅れて表面化するため、関わった人が入れ替わったあとに問題だけが残る。だから記録を残す側に回る価値が大きい。利用者数を数える、使われていない時間帯を書き留める、使いにくい点を聞き取る。地味な作業だが、次の見直しの材料になるのはこの種のデータである。FLASPOが自治体と組む企画でも、新しい場をつくる前に既存施設の使われ方を見る工程を先に置いている。施設整備の財源そのものを知りたいときは地方創生交付金の仕組みが入口になる。

よくある質問

ハコモノという言い方は建物すべてを指すのか。一般には、利用実態に対して規模や費用が見合っていない公共施設を批判的に指す語として使われる。必要な学校や病院まで含む言葉ではないので、議論のときは対象施設を具体的に示したほうが噛み合う。

公共施設等総合管理計画はどこで読めるのか。各自治体がウェブサイトで公開している。保有する施設の総量、老朽化の状況、今後の更新費用の見込みが載っているため、自分の住む市町村の分を一度開くと、新聞記事よりはるかに具体的な情報が手に入る。

見直しが99.4パーセント完了したなら問題は解決したのか。完了したのは計画の見直しであって、施設の削減ではない。計画に書いた方針を個別施設の廃止や統合として実行する段階はこれからで、そこが住民の反対と直面する局面にあたる。

古い施設は早く壊したほうが安く済むのではないか。除却には交付税措置が付かないため、壊すだけでは自治体の持ち出しが大きい。集約化・複合化として次の使い道まで含めて組み立てたほうが、結果的に負担は軽くなる制度設計になっている。

住民として反対しかできないのか。削減案に対して反対の声を上げる以外に、移動手段の確保や利用料の調整という論点がある。国が円滑化の対象経費に住民の移動費用の支援や激変緩和を挙げているのは、そこが交渉できる領域だからだ。

出典

総務省自治財政局財務調査課「公共施設マネジメントの推進」(第15回国土強靱化推進会議 説明資料、令和7年9月25日)/国土交通省「令和5年度 国土交通白書 社会資本の老朽化対策」


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