移住促進の成功事例|豊岡市936人と協力隊7,910人の中身

移住促進の成功事例|豊岡市936人と協力隊7,910人の中身

移住者が増えた地域の話は、たいてい「人気が出たから」で終わってしまう。だが公表されている実績表を10年ぶん並べると、見えてくるのは人気ではなく設計である。相談の件数が半分以下に落ちた年でも移住者が減らなかった町があり、任期つきの制度を入口にして毎年700人規模で人を動かしている国の仕組みがある。ここでは兵庫県豊岡市と地域おこし協力隊という二つの実例を、一次資料の数字だけで追いかける。

相談が半分に減っても移住者は100人を超え続けた

豊岡市が2016年4月に「移住相談ワンストップ窓口」を開いてから2026年3月までの10年で、この窓口経由の移住者は936人・506組に達した。市が2026年4月23日に配った記者資料によれば、2020年から6年連続で年間100人を超えている。

年度 移住者数 移住相談件数
2016年度 27人 233件
2018年度 76人 243件
2020年度 123人 550件
2022年度 111人 319件
2024年度 132人 224件
2025年度 121人 220件
豊岡市「2025年度 移住関連施策の実績」から抜粋

注目したいのは右の列である。相談は2020年度の550件がピークで、2025年度には220件まで落ちた。4割の水準だ。それでも移住者数は121人を保っている。つまりこの10年で変わったのは問い合わせの量ではなく、問い合わせ1件が移住につながる確率のほうだった。年代別の内訳も偏っていない。30歳代が283人(30%)で最多、10歳代以下が216人(23%)、20歳代が190人(21%)と続き、子育て期の世帯と単身の若者が両方入っている。市内にある芸術文化観光専門職大学の卒業生が、2024年度に8人、2025年度に7人そのまま市内に残った実績も記録されている。進学で来た若者を出口で取りこぼさない回路が、窓口とは別にできていることになる。

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任期つきの入口が7,910人まで広がった

自治体単独の努力では届かない規模を動かしているのが地域おこし協力隊である。都市部から過疎地域などへ住民票を移した人を自治体が隊員として委嘱し、おおむね1年以上3年以下の期間、地域協力活動に従事させながら定住につなげる制度だ。総務省の集計では、令和6年度の隊員数は前年度から710人増えて7,910人、受け入れた自治体は1,176団体(17道県と1,159市町村)に達した。受入可能な1,461団体の約8割が使っている計算になる。

制度が始まった平成21年度の隊員は89人だった。15年で約89倍である。政府は地方創生に関する総合戦略で隊員数1万人という目標を掲げており、増え方はまだ途中にある。隊員の約6割は20歳代と30歳代、約4割は女性という構成で、移住の主役が定年後の世代ではなく働き盛りの若い層に移っている事実が、この数字から読み取れる。受け入れ側から見ると、約2割の自治体はまだ制度を使っていない。募集に要する経費に350万円、短期の受け入れを試す「おためし地域おこし協力隊」に100万円という団体あたりの上限が用意されているため、未着手の自治体にとって最初の一歩の資金はすでに置かれている状態にある。

本番は任期が切れた日から始まる

制度の評価が分かれるのは出口である。総務省が令和6年度に調べた時点で、直近5年に任期を終えた隊員のおよそ69%が同じ地域に定住していた。さらに、定住した隊員のおよそ46%が起業している。報償費が止まったあとに自分で稼ぎをつくった人が半分近くいるという意味で、この46%は定住率よりも重い数字だ。逆に言えば、3割強は地域を離れている。

残った人と離れた人を分けるのは熱意ではなく、任期中に仕事の形が決まっていたかどうかである。20代30代が6割の地域おこし協力隊|若い隊員の任期後に起きることでも触れたとおり、2年目の冬までに次の収入源の見通しが立っているかが分かれ目になりやすい。移住全体の数字の見取り図は移住の現状を数字で確かめるにまとめてある。

国のお金はどこに置かれているか

成功事例の背後には、たいてい財政措置の変更がある。協力隊への特別交付税措置は令和8年度に出口側へ重心を移した。

措置の対象 令和7年度 令和8年度
隊員の活動に要する経費 550万円/人(報償費等350万円+活動経費200万円) 同額
起業・事業承継の経費 100万円/人 200万円/人(新規雇用などの要件を満たす場合)
起業・事業承継の対象期間 任期2年目から任期終了後1年以内 任期2年目から任期終了後3年以内
活動期間の上限 おおむね3年 地場産業の承継などで最長5年
総務省「地域おこし協力隊について」の地方財政措置から作成

任期終了後1年以内から3年以内へ、100万円から200万円へ。延長特例も新設された。いずれも「辞めたあとの数年」を支える向きの改定で、定住率を上げるには入口の募集より出口の資金のほうが効くという判断がうかがえる。移住する個人の側には、東京23区に一定期間在住または通勤していた人が対象となる移住支援金がある。世帯での移住は最大100万円、単身は最大60万円で、18歳未満の子どもを連れて移る場合は1人あたり最大100万円が加算される。この子育て世帯加算は令和5年度に30万円から100万円へ引き上げられたものだ。

共通しているのは三つの設計だった

総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告では、2025年の東京圏はなお12万3,534人の転入超過で、東京都だけで6万5,219人を集めている。前年より1万2,309人縮んだとはいえ、地方から見れば流れは逆風のままだ。その中で実績を残している取り組みには、共通する設計が三つある。

第一に、相談から定住までを一つの窓口でつないでいる。豊岡市の例が示すように、件数が減っても成約が落ちないのは担当者が案件を抱え続けているからで、部署をまたぐたびに人が消える構造を先に潰している。第二に、出口を先に用意している。協力隊の財政措置が任期後3年まで伸びたのと同じ考え方で、来てもらう前に稼ぎの受け皿を設計しておく。第三に、狙う相手を絞っている。市内の大学卒業生が毎年コンスタントに残る豊岡市のように、すでに地域と接点のある若者から手をつけるほうが、知らない誰かに広く呼びかけるより歩留まりが高い。FLASPOが自治体と進めている企画でも、最初の接点をつくる段階と残ってもらう段階は別の仕事として扱っている。地域の選び方そのものに迷う場合は移住先の選び方も参考になる。

よくある質問

移住促進で最初に手をつけるべきことは何か。実績を公表している自治体の順番をたどると、補助金の新設よりも相談窓口の一本化が先に来ている。問い合わせが部署をまたいで迷子になる状態では、どれだけ制度を増やしても成約に届かないためだ。

協力隊の定住率69%は高いのか低いのか。比較対象を転職の定着率に置くと決して低くないが、受け入れ側の自治体にとっては3割が去る前提で計画を立てる必要がある水準でもある。起業した人が定住者の46%を占めるという内訳まで見て、自分の地域にその受け皿があるか考えるのが現実的だ。

相談件数が減ったのは失敗ではないのか。豊岡市の推移はむしろ逆を示している。2020年度の550件は感染症の流行期に膨らんだ数字で、そこから4割の水準まで落ちた2025年度でも移住者は121人いた。見るべき指標は相談の数ではなく、相談から移住に至った割合である。

移住支援金はどの自治体でも同額なのか。国が都道府県に交付金を出し、市町村が支援金を支給する仕組みのため、加算の扱いや対象要件は自治体ごとに差がある。申請前に移住先の自治体の最新の要件を確かめるのが確実だ。

小さな自治体でも同じやり方が通じるのか。豊岡市の窓口経由の移住者は10年で936人、1年あたりにすれば90人台である。人口規模の大きい自治体の数字ではなく、職員が案件を覚えていられる範囲の運用で積み上がった実績だと見るほうが近い。協力隊の受け入れも1団体あたりの平均は7人に届かないため、数人を丁寧に扱う前提で設計して差し支えない。

出典

総務省「令和6年度における地域おこし協力隊の活動状況等」/総務省「地域おこし協力隊について」/豊岡市「2025年度 移住関連施策の実績」/内閣府地方創生「起業支援金・移住支援金・地方就職支援金」/総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年結果」


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